第17話 ドゥラン・オリビアークの憂鬱


「はぁー。」


深いため息とともに一枚の紙から目を上げる。

ここはギルドの執務室。

先ほどリュースティア達が出ていったばかりの部屋である。

もちろんため息をついた人物は部屋の主、ドゥラン・オリビアークである。


彼はため息の原因である一枚の紙にもう一度視線をやる。

それはある人物のステイタスの写しである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【名前:リュースティア】

【レベル:1】

【魔力:15,986】

【体力:9,873】

【筋力:12,349】

【耐久:12,871】

【スキル:不明】

【魔法:初級風魔法、精霊魔法、】


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そう、ある人物とはリュースティアである。

リュースティアには伝えていないが鑑定石にこっそりと細工をし、彼のステイタスを見させてもらった。

これはギルドマスターに与えられた権限の一つだ。

要注意とギルドマスターが判断した場合に限り、当人に極秘で人物鑑定の魔道具を使う事を許可されている。

もっともこのような結果になるとは想像していなかったが。


「なんだか、嫌な予感がするな。勇者ってわけでもないのにこのステイタス、しかもまだレベル1ときたもんだ。」


「そんなに心配するようなことでしょうか? 彼からは悪意のようなものは感じませんでしたし、なにかを企んだりするほど頭が切れる方ではないと思います。」


ギルドマスターのドゥランと比べあまり気にしていない様子なのは例の美人受付嬢、犬人族のラニアである。

彼女、実はこのギルドの副ギルドマスターだったりする。


「ああ、俺も小僧が悪人だとは思えない。精霊が付いてることもそうだが奴の目は堕ちた奴の目じゃなかったからな。」


「なら気にすることはないのでは?」


ラニアのいうことはもっともだ。

別に高いステイタスだからと言って悪人でないなら気にする必要はない。

その高いステイタスを生かして難しいクエストをこなしてくれれが街の脅威も減るし、冒険者たちの無駄死にも防げるだろう。

だが問題なのは彼の人格ではない。

彼がだという事だ。

知らぬがゆえに悪人に付け入られることも十分に考えられる。


それに彼はこの街に来て数日だと言うが、この街と言うよりはこの世界の事情に疎すぎる。

それに彼は自分の魔力量が高いことや、高いステイタスを持っていることを自覚していない様子だった。

この世界では自分のステイタスを見る事は日常茶飯事なはずだ。

それなのに自分のステイタスを知らないなんてことがあるのだろうか?

可能性があるとすれば彼が勇者同様にという事だろうか。

勇者が異世界から召喚された人物だということは国の限られた人物しか知らない。

だが勇者が現存するにも関わらず別の人物を召喚したなどと言う例は聞いたことがない。

それに召喚魔方陣を使ったという報告は受けていない。

彼が異世界人であることはあくまで可能性の話だが注意しておくに越したことはないだろう。


「ラニア、一応小僧から目は離すな。帰り際に忠告はしたが用心に越したことはないだろう。変な奴らに目をつけられてもめんどくさいし、王国の目もある。なにかあればすぐに動けるようにしておきたい。」


「わかりました。一応監視はつけておきます。ですがそれだけの高ステイタスならもうAランク並みの実力はあるのではないですか?」


「ステイタスだけが実力じゃない。だがステイタスが重要なのも確かだ。とりあえず頼んだぞ。ちなみにこの件に関しては他言無用、極秘だ。」


「かしこまりました。」


そういって彼女は通常の業務に戻っていった。

副ギルドマスターをわざわざ受付に出しているのはギルドに集まる情報を集めると共に今回のような要注意人物の監視と言った意味がある。

彼女が出ていった扉を見つめドゥランはも一度深いため息をついた。


確かにラニアのいう通りだ。

ステイタスだけを見ればリュースティアの実力は王国に数人しかいないAランク冒険者にも匹敵する。

だが戦闘において必要なのは力だけではない。

命を奪うという覚悟、皆を守るという意思、生への渇望。

そして何より必要なのは戦闘経験だろう。

しかも体つきや纏う雰囲気は素人のものだった。

どう見ても剣を握ったことのあるようには見えない。

だがあのステイタスを手に入れるには文字通り死線を超える必要があったはずだ。

そしてそれだけの経験をしたならばレベルが上がることは間違いないだろう。

それなのに彼のレベルは1、成人にしては低すぎる。

明らかにステイタスとレベルが一致していない。

まるでかのようだ。

そう考えれば考えるほど彼の異世界人説が大きくなっていく。


「はぁ、まさか神の使者とか言うんじゃないだろうな、、、。」


厄介なことが起こる前に後任にギルドマスターの座を譲ろうと決めた。




ドゥランがリュースティアのついてほぼ正確と言っていい推測をしている一方、リュースティア達はと言うと。


街の観光を楽しんでいたりする。


かわいそうなドゥランの心配などどこ吹く風。

ある程度の生活基盤を手に入れ、異世界生活を満喫している様子でした。

後日この報告をラニアから聞いたギルドマスターは青筋を浮かべて郊外の森に消えたとか。

数日後、彼が出てきた森からは魔獣が一掃されていたとか。


さすがレベル71です。







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