第13話 プリンと悪夢

 「これが甘味と言う名のスイーツ、“カラメルプリン”だ!」


そういってリュースティアが取り出したのは地球でおなじみ、プリンである。

もちろんお皿にプッチンしたものだ。

容器に少し細工していたので簡単にプッチンできた。

あれは容器とプリンの間に空気さえ入れてあげれば簡単にできる。

ただ、容器にくっつかないようにひと手間が必要だ。

とまあプリンを出したのだがスイーツなど見たことのない人からすればプルプルした得体のしれないものなのでリュースティアが思っていたような反応は得られない。

もっと感動してもらいたいんだが、、、、。


「まあいいや、未知との遭遇に戸惑うのも無理ないしな。とりあえず食べてみなって。」


「これは食べもの、なんですか?このスライムみたいなのを食べるのはちょっと。」

「こんな得体のしれないもの食べれるわけないでしょ!お腹でも壊したらどうすんのよ。」


グサッ‼

あれ?食べてくれない感じかこれ?

目の前でお客さんに出した商品を拒絶されるのってパティシエとして結構キツイな。

今まではテイクアウト専門のお店だったから気にしたことなかったけど。


「しょうがないな、俺が先に食べる。それで害がないことがわかるだろうし。それでも嫌なら食べなくてもいいけど。後悔すんなよ?」


そういってプルプルのプリンにスプーンを入れる。

生クリームがなくて牛乳だけで作ったから少し固めの昔ながらのプリンだ。

バニラも見当たらなかったので入れてない。

本当に砂糖と卵、牛乳だけで作ったシンプルなプリンだ。

だが卵がいいものだったのか素朴ながらも深みのある味となっている。

一言で言えば。


「上手い! これ想像以上だわ!もっと卵臭くなるかと思ってたけどそんなことないな。ああ、糖分が体に染み渡る」


大げさなまでのオーバーリアクションをするリュースティア。

その様子を見ていた伯爵家の面々は目の前のプリンを見つめ生唾を飲み込む。

確かにこの得体のしれないものを食べるのには抵抗がある。

だが目の前のプリンというものから美味しそうな香りが漂ってくる。

それに加え、人生で一番幸せな瞬間とでも言いたげなリュースティアの表情に伯爵家はついに折れた。

恐る恐るながらもスプーンを手に取り、プリンを口に運ぶ。


「「「「!!!!!!!!!」」」」


プリンを口に入れた瞬間4人が驚愕に目を見開いたまま硬直した。

それを見た使用人たちは、毒か⁉と思い不安と恐怖に駆られる。

警備の者に関しては剣を抜き今にもリュースティアに切りかかりそうだ。

しばしの沈黙。

最初に口を開いたのは伯爵家当主、ポワルさんだった。


「お主、これはどこで?」


「えっと、これは、、、、。」


ポワルさんの剣幕に押されたじろいでしまう。

実は異世界から転生してきてこれはそこのお菓子の一つですなんて言えるはずもなくどう答えるか悩んでいるとポワルさんが一人で納得したかのように話始める。


「いや、よい。ここまでの美味、さぞかし重要機密なのだろう。それを軽々しく口にできるはずもない。すまない、忘れてくれ。しかしこんなもの今まで食べたことない。この味もそうだがこのとろけるような食感。いや、実に上手い!」


「いやー、そんな大層なものじゃないんですけどね。これは俺が暮らしてたところではどこでも買えたし。」


「なんと!これが平民の食べ物だというのか⁉ お主一体どこの、、、?」


「そこらへんは詮索しないでいただけると助かります。まあ辺境にある小さな町ってとこですかね。」


予想はしていたがやはりこの世界にはお菓子というものは存在しないことがポワロさんの話からも分かった。

だが作ればいいという事に一回気付いてしまえばそれは大した問題ではない。

なんせ俺は元パティシエなのだから!


「もしかして、リュースティアさんって犯罪者ですか? 」

「・・・・・。なんでやねん。」


リズからわけのわからないことを言われつい関西弁でかえしてしまった。

関西出身じゃないのに、、、。


「いえ、故郷について詮索されたくないという事は後ろめたい何かがあるのかと、、、。でも違いますよね。私、魔眼でリュースティアさんのこと見てますし。」


それわかってるなら何で聞いた⁉

リズは天然なのか?天然の悪女なのか?


「リュースティアが悪人だろうとどうでもいいわよ。そんな事よりここのぷりん?とかいうやつのほうが重要でしょ?これ、あんたどうするつもり?」


俺はプリン以下か!

内心では勢いよくツッコミを入れつつも着々と削られるHP。

俺の心にはすでに雨が降っている。

雨だから!泣いてなんかないからな!

などと誰に弁明してるのかもわからないが心の中で叫ぶ。

だがあくまで表面上は冷静を装う。


「どうもしないけど。食べたくなったらまた作るかもしれないな。」


「ならばリュースティア殿、折り入って頼みがある。お主の言い値でかまわん。このぷりんとかいうもののレシピと作り方を売ってくれ。」


相変わらず顔には剣幕の表情。怖いです。

今までの人生で最も重大な取引でもしようかという様子だ。

そんな真剣な伯爵家当主に対してリュースティアはというと。


「ああ、いいですよ。相場とかわかんないんで買値はそっちに任せます。」


何とも軽い返しである。


「馬鹿じゃないの⁉ これでいくら稼げると思ってるの? これを食べるためなら皆いくらでも出すはずよ。」


シズのいう事は最もなんだが俺の目標は大金持ちになる事でもなければ有名になる事でもない。

平和に生きることだ。

だから儲かるかもしれないがそんなやっかみを買いそうな事したくない。

それにスイーツはみんなを幸せにするものだ。

独り占めして食べてもおいしくない。

みんなで食べる方がおいしい。

そんなことを話したらシズには呆れられた。

だけど俺はそれでいいと思ってる。


「うむ。お主は変わり者のようだ。ならばよい。お主の言う通りレシピは相場で買い取らせてもらうよ。もちろん多少の色は付けさせてもらうがな。」


「ありがとうございます。じゃあ俺はもう部屋に戻らせてもらいます。」


そういって食堂を出ようとする。

部屋で試したいこともあるし、さすがに疲れた。

そんなことを考えながら扉を開けようとすると腕を掴まれた。

何だろうと振り返るとそこには笑顔で俺の腕を掴むシャルロット婦人が。


「どちらへ行かれるんですか? まだまだお聞きしたいことはたくさんありますのに、まさかもうお休みになるなんておっしゃりませんよね?」


あれ、このパターンってどっかで、、、、。

思わず表情が引きつるリュースティア。

恐る恐るリズの方を向くと、やっぱり!

お母さまと同じく最高の笑顔のリズさんがいました。

うわー、いい笑顔。

やっぱり親子って似るんだな、そんなことを思いつつも逃げられないことを悟り早く解放されることを願うリュースティア。


そんな彼の願いも虚しく、彼が解放されたのは朝日が昇るころであった、、、。


二階に上がる階段の窓から差し込む朝日を見て思わず呻いてしまったがそれを聞いてるものはいない。

なぜなら伯爵家の四人はプリンについて質問攻めにした挙句、リュースティアにプリン作りを命じて早々に床に就いたのである。

プリンの数が多かったのと、鍋に入る数が少なかったのでこんな時間までかかってしまった。


重い体を引きずりながらも用意された客間に着き、ベットにダイブしようとして思わず静止する。

リュースティアのベットの上にはシルフが例の美少女の姿で爆睡していたのである。


「うそん。」


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