第12話 異世界に”〇〇〇”が誕生した日

女性は策略家である。

それがこの世界に来て最初の教訓とは情けない。

が、それもいいだろう。

問題はそのせいでまったく料理を味わえなかったという事である。

今は食事も終わり食後の団らん中なのだが、なんだか物足りない。

料理の形式はフランスのコース料理的な感じで前菜らしきものから始まり、メインディッシュの肉もあった。

そこまではいい。

たとえ味わえなくても雰囲気と高級感は感じれた。


だがメインディッシュまできてなぜデセールがない?


この世界には本当に甘味を食べる習慣、そもそも甘味というものが存在しないのかもしれない。


「ああ、俺の楽園。俺のスイーツ、、、。糖分を取らないとまじで死ぬ。健康食とかくそくらえ。」


そんなリュースティアのつぶやきが聞こえたのかリズが、

「仕方ありませんね、少し待っていてください。」

と一言。


「えっ、まじ⁉ なんかあんの⁉」


その一言に一気にテンションが上がる。

なにか甘味らしきものがあるかもしれない。

早く早く、そんな期待した眼差しの前にリズがどこからか持ってきた陶器の入れ物を差し出す。

それを恭しく大げさな動作で受け取り目の前に置き、いざ蓋をあける!


「・・・・・・・。えっと、リズさん?これは、、、、、?」


容器の中に入っていたのは白色の塊。

まさかと思いつつも尋ねる。


「なにって、砂糖です。甘いものが食べたいのでしょう?体によくないのであまりお勧めはしませんがそこまで言うなら少しだけどうぞ。」


「えっ、何かのギャグ? それともこっちの人って砂糖そのまま食べるの?」


「そんなわけないじゃないですか。砂糖はあくまで調味料の一つです。そのまま食べるなんてよほどの奇人です。でもリュースティアさんって変わってるから、、。」


「・・・・・。おい、誰が奇人だ。俺が言ってる甘いものは砂糖じゃなくて、牛乳とか卵とかと混ぜて作るお菓子のこと! マジで知らない、、、?」


美人の伯爵家令嬢に奇人認識されていたという事実になるべく触れないようにして改めてお菓子の説明をする。

ここはまず奇人でないことの弁明をした方がいいのかもしれないが俺のHPはすでにレッドゾーン。

これ以上傷を受ければ死んでしまう。

そしてこの二人は簡単に爆弾を投下する。

だからあえて触れず、なかったことにしようとしたのである。

だが二人の様子を見るにお菓子について知らないことは明白だ。

この世界に来て何度目かの絶望に打ちひしがれる。


「うるさいわ。だったらあなたが自分で作ればいいでしょう?」


鶴の一声とはまさにこのことだ。

この声の主はシルフ。

さも当然のように、どうしてそんなこと思いつかなかったんだと言いたげな視線だ。

だけど言われてみればその通りなのである。

ないなら作ればいい、素人ならともかく俺は元パティシエだ。

材料と道具さえあれば何でも作れる。

当然作り方とルセットは頭に入ってる。

だがここで一つ問題が生じる。


「それだ! だけどこの世界って材料はともかくオーブンとか冷凍庫あるの?」


二人はシルフの念話について知らないので頭のなかで会話をする。


「私にはそれが何なのかわからないわ。だからこの世界にはないものってことになるわね。だけどそれも問題ないわ。あなたにはスキルがあるのだから。道具も作ればいい。違う?」


「そうか!けど俺に作れるかなぁ。できたとしても今すぐには無理だろうし。」


「そうねぇ。簡単なものならともかく複雑なものは無理そうね。なら今あるものでできる物を考えてみることね。」


今あるものでできる物をつくる?

冷蔵庫、冷凍庫はない。

冷やして固めることは難しそうだな。

オーブンはどうだ?

あっても窯に近いものだろう。

温度が高すぎるし何より下火がない。

ミキサーも当然ないだろうな。

なら気泡も使えない、手でもいいが時間かかるしいい状態にはならない。

オーブンも冷蔵庫も使わずにできる調理法、焼く、煮る、あぶる、蒸す?

蒸す?

もしかしてあれならいけるんじゃないか?

今はオーブンで作っているが蒸しても作れるはずだ。

よし、ここまでくればあとは行動!


「よし!なぁここの厨房とこの家にある材料使ってもいいか?」


「びっくりした。急に黙り込んだと思ったら今度は何よ?ほんと変人ね、あんたって。言動が意味わかんない。」


「ほっとけ。で、貸してくれるのか?」


「そのくらいなら大丈夫だと思いますが、何をするつもりですか?」


何をする気かよくわからない二人は戸惑いながらも了承の意を伝える。

そんな二人にリュースティアはというと。


「まあ見てなって。すごくうまいもの食べさせてやるから。」


そう言い、どこか不敵な笑みを浮かべて部屋から出ていく。

さすがに不安になり二人もリュースティアの後をついていく。


厨房ではすでにリュースティアが使用人たちに聞きながら必要なもののを集めなにやら調理の準備をしている。

しばらく見ていると準備ができたのかリュースティアが調理らしきものを始める。

彼はまず何をしたかというと、鍋に砂糖を入れて火にかけたのである!

砂糖のあとには何も入れずそのまま放置している。


「ちょっと!そんなことしたらこげるわよ!」


慌てて声をかけるシズに帰ってきた言葉は予想外のものだった。


「いいんだよ、焦げて。これはカラメルって言って砂糖を焦がして作るんだ。ソースにしてもいいんだけどやっぱり最初は定番にすべきかなって。んで、定番と言ったらタブレットだろ?まぁ黙って見てな。」


焦がしてもいい?

何をしたいのかますますわからない。

なのでとりあえずリュースティアの言う通り黙って見守ることにした。

その間もリュースティアは流れるように作業を進めていく。

ミルクを火にかけたり、卵を割って黄身と白身に分けたり。

そして、卵に砂糖を入れて混ぜ始めたと思ったらそこにミルクを流し混ぜ始めた。

おそらくリュースティアは料理をしているのだろうがこんなに砂糖を使った料理など見たこともない。

当然、伯爵家専属の料理人たちは目を丸くしている。

そして作業が終わったらしく今度はガラクタからコップのようなものを作りそこに最初に作っておいたタブレットを入れている。


あらためて考えるとリュースティアのスキルは人外だと思う。

本人は全く自覚していないだろうけど。

スキル自体は錬成に似てるが錬成より制限がないし何より制度が高い。

そんなことを考えつつ作業を見ているとコップにさっき作っていた液体を流し、鍋にぶち込んだ。


「えっ、なにをしてるんですか⁉せっかく作ったのに、、、。」


今度はリズが慌てて問いかける。


「いんだよ。こいつは蒸して作るんだ。よし、あとは蒸気と温度を気にしながら蒸すだけだな。でその間に、リズって確か氷の魔法使えたよな?ちょっとこの箱凍らせてくれないか?」


そう言ってリュースティアが出したのは30㎝ほどの四角い金属の箱だった。

リズはとりあえず言われた通り箱を凍らせた。


「よし、これで簡易冷蔵庫完成だな。あとは蒸しあがって冷やせば完成だ。」


そして待つこと一時間。

完成したとリュースティアに告げられ再び食堂に集まる伯爵家の面々。


「で、あんたは一体何を作ったのよ。ちゃんと説明してくれるんでしょ?」


お預けの時間が長かったらしい。

見るからにシズが不機嫌だ。

だが仕方ない。思っていた以上に冷えるまでに時間がかかってしまった。


「まぁそうカリカリすんなって。今食べさせてやるから。これが甘味と言う名のスイーツ、”カラメルプリン”だ!」







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