第9話 水の都
「はぁ。ようやくついたぁー。」
公爵領にたどり着いたリュースティアの第一声だ。
こちらの世界に転生してからここまで来るだけで色々なことがありすぎた。
ぴょん吉が精霊だった時点ですでにキャパオーバーだったのだがそれから王都までの道中も色々あった。
だがそれを語るにはこちらの体力が持たないのでまた今度という事にしてもらう。
とまぁなんだかんだはあったがこうして王都までたどり着き、門番による入場チェックを待っているのだが、ここでリュースティアはある事を思い出し不安になる。
「なぁ、俺ステータスプレート持ってないんだけど入場許可してもらえるのか?」
確かステータスプレートか許可証がないと都市に入れないとシズが言っていた気がする。
身分証になりそうなものは何も持っていないし、お金もポケットに入っていた硬貨一枚しかない。
ここまで来て門前払いはつらい、そう思って二人にどうしたらいいか尋ねる。
「あーっと、んー。それなら大丈夫よ。私たちと一緒なら。もちろん多分ってのがつくけどね。」
どうも歯切れが悪い。
何か後ろめたい事でもあるのだろうか?
嫌な予感がする。
これは早いとこ逃げた方がいいか?
そんな考えが一瞬リュースティアの脳裏をよぎる。
「大丈夫ですよ。リュースティアさんの思っているようなことではありませんから。ただ私たちの口からは言い出しにくい事なので。」
そう言ってリズがほほ笑む。
(よかった!今回は目が笑ってる。女神の笑みです)
ちょっと安心するリュースティア。
だけどそれよりも一つだけ確認しておきたいことがある。
「なぁ、ちょいちょい気になってたんだけどさ、リズってもしかして人の心読める?」
そう、ずっと疑問に思っていたことである。
リュースティアの思考がことごとくリズに見破られていたことを。
「そんな大層なものではないんですけどね。私、魔眼もちなんです。何となくですけどその人がどんな人で何を考えているかわかっちゃうんです。」
魔眼、そんなものまであるのか。
これからは気を付けよう、もっとも気を付けたところで防ぎようはないんだけど。
リズの話だと魔眼もちはそうそういないらしく、いても同じ能力のものはいないらしい。
それを聞いてひとまず安心する。
心の中がわかるなんてやましいことが多い男からすれば生きた心地がしない。
そんなこんなでしばらく並んでいるとようやくリュースティア達の番が来た。
「ステータスプレート出して。他国や他の都市に住んでるなら通行許可書と入市税として銀貨一枚。十日以上の滞在ならもう一枚な。」
おそらく毎日何十回も言っている決まり文句なのだろう。
どこか機械的だ。
「えっと、すいません。どちらも持っていないんです。」
正直に話すリュースティア。
その瞬間門番さんの視線が鋭いものとなり、警戒の色が醸し出される。
それに待ったをかけたのがシズだった。
「まって。この人なら大丈夫だから。私たちが保証人よ。それでステータスプレートの発行をお願いするわ。」
「んん?小娘が何言って、、、、、。っ!これは失礼しました!フローウィス伯爵家のご令嬢方の友人であるなら何の問題もございません。さっ、どうぞこちらへ。」
そう言って門の隣にある部屋へとリュースティアのみが連れていかれる。
「伯爵家の令嬢?」
「あとでね。」
素っ気なく言い放つシズはどこか憂鬱な顔をしていた気がしたが気のせいだろうか?
部屋の中に入ると正面の奥に石盤のようなものがあった。
門番さんに促され、石盤の前に立たされる。
よくわからず石盤の前に立ってると門番さんが呆れたように説明を始めてくれた。
「お前さんトレース盤も知らんのか。相当な箱入りか無知のどちらかだなぁ。」
「ええ、かなり遠くから来たもので。知らないものばかりで驚いています。」
すこーしイラっときたがいちいち突っかかっていたら話が進まないので笑顔でやり過ごす。
「まぁいい。このトレース盤に右手で魔力を流せばいい。魔力が流れるとトレース盤にステータスが表示される。表示されたら【トレース】と唱えろ。そうすれば左手に持っている魔鋼プレートにステータスがトレースされる。それでプレートの発行は終了だ。とりあえずやってみろ。」
特に難しいこともなさそうだったのでとりあえずやってみる。
「トレース。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
*ステータス
・名前 リュースティア
・年齢 15
・種族 人族
・職業 なし
・犯罪歴 なし
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これだけ?」
表示されたステータスに首をかしげるリュースティア。
「ステータスはあくまで個人情報だからな。プレートに表示されるのはその人物の身分証明になるような内容だけなんだよ。じゃあ控えとるからプレートこっちによこして。」
こんな感じでプレートの発行は10分もかからずに終わった。
もっとも、プレートの写しを取ってるときに成人のくせに無職かと門番さんが馬鹿にしてこなければもっと早く終わったはずだ。
まぁ無職という事でプレートの発行料をタダにしてたり町についていろいろ教えてくれたから悪い人じゃないと思う。
部屋から出て門をくぐるとそこには美しい街並みが広がっていた。
そこは水の都という表現がぴったりだ。
町中を張り巡るかのように小さな川が流れ、緑があふれている。
建物は中世のヨーロッパを思わせるような造りで色は白っぽいものが多い。
建物の白と川の水に太陽の光が反射して町中が輝いているみたいだ。
「きれいですよね。ここに住んでる私でもそう思います。」
声に反応して振り向くとこちらに向かって歩いてくるシズとリズの姿があった。
「こんなにきれいなところなんて思ってもなかった。てかありがとな。おかげでステータスプレートも作ってもらえたし町にも入れた。」
「気にしないで。ついでみたいなものだったし。それよりこれからどうするの?お金持ってるの?」
門の前で話していると後続の人達の邪魔になるので近くのベンチに移動しての会話である。
「硬貨が一枚。いくらなのかはわからないけど。」
そう言ってポケットから硬貨を出す。
さっきは金銭を要求されなかったから結局この硬貨の価値がわからず仕舞いだ。
せめて宿代になればいいなとは思うけどあまり期待できそうにない。
「白金貨ね。それ一枚で金貨十枚分の価値になるけど、ここらへんだと白金貨なんて使えないわよ。」
「えっ⁉ 金貨10枚ぶん。これが? ここら辺で使えないならどこで使えんの?」
「中央区か南区のほうに行かないと。」
そう教えてくれたのはリズだ。
だが南区とか言われても今自分が何区にいるかすらもわからないリュースティアにはどこをどう行けば南区に行けるか見当もつかない。
そんなリュースティアを察してかシズが提案を持ち掛けてきた
「あんたどうせ宿もまだなんでしょ?ならうちに来なさいよ。うちなら白金貨も変えてあげられるし。どうせ南区のお店はもう閉まってるわよ。」
「そうですね。もう日も落ちますし、宿屋を探すのも苦労しそうですしね。うちなら部屋には余裕もありますし。」
大体こういう話はシズが勝手に話を進めてしまうのが常だったのだが、今回はリズも初めから乗り気だ。
そのことに少し嫌な予感がしたがせっかくの好意を断るのも悪いと思い二人の家にお邪魔することにした。
リュースティアはのちに思う。
この時二人の好意を断ってでも、野宿を選べばよかったと。
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