第8話 精霊と風魔法
誰も思わないだろ?
俺に心を許してくれたウサギが実は女の子だったなんて。
しかもその女の子が風の精霊だったなんて。
俺だってそんな偶然にしてはできすぎている話信じられない。
だけど信じるしかないじゃないか、あんなことがあれば。
時はさかのぼる事一時間ほど前。
ぴょん吉を包む光が消え美しい少女が現れた。
その姿は口では言い表せないくらいに美しく、神秘的な雰囲気を醸しだしていた。
そんなウサギの変身を目の当たりにした三人はというと、その神秘的な雰囲気の前に口をきけないでいる。
すると何の気概もなく少女のほうから話かけてきた。
「私の名前はシルフ。風と森の精なの。こうして人間の前に姿を現したのは何年ぶり、いえ、何十年ぶりかしら。」
「はぁ、それはどうも。」
自分でも間抜けな返答だと思う。
だが、彼女の鈴の音のように美しく透き通るような声に聞き入ってしまっていたリュースティアにこれ以上気の利いたセリフを言うことは不可能だった。
「ちょっ、あんたバカ⁉シルフって言ったら四大精霊の一人じゃない!なに間抜けな返事してるのよ!これはええっと、、、果物を込めて祈りを捧げものに詰め込んで、、、、。」
「シズ?お前も人の事言えないくらいには動揺してんだろ。果物を込めるとか言っている意味が解らないからな?」
リュースティアにもたいがいだが、シズもだいぶテンパっているみたいだ。
わけわからないことを言っているのもそうだが、短剣を錫杖のように振りながら何かを唱えている。
そんな二人の様子を見ながらシルフと名乗った精霊はほほ笑んでいる。
その姿が美しさをより一層引き立てる。
再び見惚れてしまい何も言えずにいると意外なところから、しかも動じる事なく声がかけられた。
「あの、シルフ様? 四大精霊の一人でもあるあなたがなぜアルミラージの姿をしていたのです?ましてなぜ我々の前にお姿を現しになったのですか?」
リズだ。
彼女は四大精霊を前に、その美しさに一切動じる様子を見せない。
(やっぱりこいつ大物だったか!)
そう思ったのはきっとリュースティアだけではないはずだ。
そうだよね?うん。きっとそうだよね?
「リュースティアさん?」
にっこりとほほ笑みこちらを振り返るリズさん。
「は、はい!何も思っておりません!」
即答し姿勢を正すリュースティア。
(はい、相変わらず目が笑っておりません。もう完全に恐怖が刷り込まれています。そして何よりも勘が良すぎて怖いです。)
「ふふふ。面白い子たちね。彼だけでなくあなたたちにも少し興味がわいたわ。私があなたたちと出会ったのは偶然。だけどあなたたちの前に姿を現したのは彼に興味を持ったから、かしら。アルミラージに姿を変えるのは趣味のようなものなの。だって精霊のまま近づくともみんな逃げてしまうもの。」
リズのおかげ?でとりあえず正気に戻ったリュースティアは聞き返す。
未だに短剣を掲げたまま硬直しているシズを横目に見据えて。
「俺に興味?四大精霊の一人がただの人間に関心を寄せるなんてことあるのか?」
「もちろんそんなことめったにないわ。そもそもアルミラージに変身していると言え、精霊の力はそのままなの。だから人の気配を感じることもそれを避けることも可能なの。それなのになぜかたまたまあなたにぶつかってしまった。その意味があなたにわかる?」
そう言い放った彼女の目は好奇心に満ち溢れていた。
まるで新しいおもちゃをもらい遊び方の説明を受けている子供みたいだ。
とは言えその答えをリュースティアが持っているはずもなく。
「申し訳ないけど、俺にはさっぱりだ。たまたまって言うくらいなんだから偶然だろ。」
「そう、残念ね。でもいいの。あなたに興味があるのは本当だもの。あなたと契約してあげるの。」
「「っつ⁉⁉」」
シルフの言っている意味が理解できたシズとリズの二人は驚愕の表情を浮かべている。
だが当然、リュースティアがその意味を理解できるはずもなく一人呆けた面をしている。
わからないからとりあえず聞いてみた。
どのみち得体のしれない相手とい契約する気もなかったし。
「契約って?ソレするとなにかいいことあるの?」
その瞬間二人の少女から悲鳴にも近い怒声が上がる。
「あ、あんたバカ⁉精霊と、しかも四大精霊と契約できるなんてそうそうないわよ!王国の魔法兵だって契約してても一人か二人、それも下級の微精霊たちよ⁉いいことあるも何もいいことしかないわよ!」
「そうですよ!精霊と契約すれば魔法行使の際、今までとは段違いに消費魔力が減りますし、精霊の加護と補助があるので威力も桁違いになります!何よりステータスがぐんと上がります!」
二人の勢いに思わずたじろぐリュースティア。
その様子をシルフは相変わらずほほ笑んで見守っている。
その様子をちらりと見て改めて思う。
自分よりも幼い容姿の少女が精霊だと言われても正直信じられないという気持ちのほうが強い。
確かにこの世の者とは思えないほどの神秘的な美しさを持っているがいうなればそれだけなのである。
今まで運のない道を散々歩いてきたリュースティアだ。
こんな自分にとって都合のいい出来事があるはずない、絶対に何か裏があるそう勘ぐっていた。
だがそんなリュースティアの心情を察してかほほ笑んで見守るだけだったシルフが動いた。
「そんない信じられないのなら見せてあげる。【来たれさすらいの風。わが声に応じその神光をもって雷のごとく降り注げ
シルフがその言葉を紡ぐと急にあたりが暗くなり、雷雲が立ち込め嵐が発生した。
あまりの突然の出来事に言葉を失うリュースティア。
この世界に来てから初めて“魔法”というものを目にしたのだがそこにある感情は感動や歓喜などではなく、ただただ死への恐怖である。
目の前の魔法には明らかな殺意とそれを可能にするだけの破壊力があった。
「風系統の上級魔法。サンダーストーム。あの短時間、短文詠唱で、しかも魔方陣もない。。。。」
リズのそんなつぶやきが聞こえてきたがリュースティアにとってはどうでもいい事だった。
なぜなら避けようのない死がそこにあるのだから。
ああ、異世界生活も終わりか。二度目の人生の方が早いなんてな。などと走馬灯じみた思いをはせていると不意に殺意の雨がやみ、嵐が晴れ青空がのぞいた。
「ごめんなさい、すこし驚かせすぎちゃったかしら?これでもだいぶ力を抑えたのだけれども。」
そう言いながらリュースティア達の前に現れたのはもちろんシルフだ。
あの殺意はやりすぎたなんてものではないと思うが、、、。
でもこれでシルフが本物の精霊であることもわかったしあの殺意を見せつけられてまで契約を断る勇気もない。
なので契約をすることにした。
契約の儀式自体はすごく簡単で血を交わしたあとその血で体の一部に契約の印を刻むだけで終わりだ。
ものの数分で終わり、いざ出発しようとして何かがおかしいことに気づく。
辺りがやけに拓けている。
確かリュースティア達は林を右手に一本道を進んできたはずだ。
だが林はおろか木の一本すら生えていない。
リュースティア達の半径1キロが何もない更地と化していたのである!
原因の心当たりは一人しかいない。
首が折れる勢いで振り返り後ろにいたシルフを見る。
すると彼女はサムズアップを決めると満面の笑みで一言。
「てへぺろ」
「うそん。。。。」
更地と化した荒野にリュースティアつぶやきがこだまする。
早まったかもしれないと契約したことを後悔するリュースティアだった。
しかし後悔先に立たず。
すでに時遅し、なのである。
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*ステータス*
・名前 【リュースティア】
・種族 【人族】
・年齢 【15】
・レベル 【1】
・職業/天職 【なし】
・スキル 【創造特権<合成創造><複数創造><付加創造>】
・魔法 【初級風魔法】
・称号 【風精霊を統べるもの】
・加護 【創造神の加護(創造特権)、運命神の加護(豪運)、精霊の
加護(風の恩恵)】
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