第7話 それはウサギです。
正午を少し過ぎたころ、、、。
眩い太陽がらんらんとあたりを照り付ける中、そこには黙々と瓦礫撤去にいそしむ一人と一匹の姿があった。
もちろんリュースティアとぴょん吉である。
姉妹からのお説教からようやく解放されたと思っていたら次はガラクタの片付けを言い渡されたのだ。
二人は木陰で鍛錬?をして時間をつぶしているらしい。
あくまでリュースティアと一緒に王都へは行ってくれるようなのでとりあえずは安心したのだったが。
(こんなん放置しても問題なくね?だってここ異世界でしょ。不法投棄とか絶対ないって! くっそー、あの二人実は鬼だろ。長時間の正座からの肉体労働とかどんな拷問だよ。)
などとぶつぶつ文句を言いながらもきちんと言われたとおりに作業をしているわけで、それはなぜかというと、、、、。
「リュースティアさん? 何か良くない事思っていませんか?」
「い、いいえ!リズさん。滅相もございません!!そろそろ終わりそうだって話してただけだよ。な?ぴ、ぴょん吉!」
(これです!これ! この笑顔!相変わらず目が笑っていませんけど⁉)
そう。
二人の笑顔が(主にリズのほう)こわすぎて逆らえそうにないのである。
情けない男と笑われるかもしれないが、”だって怖いんだもん!”とリュースティア。
とまあこんな感じでようやく瓦礫の片付けも終わり、いざ王都に向けて旅立つことになったのである。
もちろん唯一無二の友、ぴょん吉も一緒にだ。
行きがけに聞いたシズの話だとここから王都までは歩いて3時間くらいらしくこの分なら夕方には着けるらしい。
ただ黙って歩くのもつまらないのでいい機会だしこの世界の事を教えてもらうことにした。
何を聞くにもわからないことだらけなのでとりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。
「3時間くらいの距離なら昨日のうちに出発してもよかったんじゃないの?わざわざ野営の準備するより楽じゃん。」
「王都の門は六時には閉まるの。あの時間からだと間に合うか怪しいわ。それにもし着いたときに門が閉まっていたとしたらどうせここまで引き返すことになるもの。」
「何で? 門の前で待ってればいいじゃん。」
「門が閉まった後は城で使役している魔獣が城壁の周りを警備するんです。その時に何かいたら問答無用で殺すように言われているらしですから閉門後は誰も門には近づかないんです。もちろん騎士団や貴族の方は別らしいですが。」
リズが横から答える。
もう俺にも慣れたらしく普通に話してくれる。
「なるほどねー。さすが王都。警備は厳重そうだな。」
などと感心していると隣んを歩いているシズから不穏な空気が!
恐る恐るシズの方を見ると。
そんなことも知らないの?とでも言いたそうなシズの視線が突き刺さった。
(あっ、痛い!痛いから、そんな憐れむような眼で見ないでください! まぁシズに関しては出会ったときから残念な奴を見る目で見られていたから今更何ですけどね!)
などと内心で開き直り遠くを見つめる。
その心情を察したのか静かに寄り添ってくるぴょん吉。
(やはりお前はわかってくれるのか!)
また二人?のよくわからない世界観が創り出されたのを見て呆れるシズ。
だがそこでふと思ったことを口にする。
「ていうかさ、そもそもその子なんなのよ?」
「何って、ぴょん吉だろ?」
今更何を言っているんだ?と訝しむリュースティア。
「そんなのわかってるわよ! そうじゃなくてなんでこんなもあんたになついているのかって事。それに一日一緒にいるけど全く危険を感じないし、、、、。」
「危険?ぴょん吉がか? こいつただのウサギだろ? 昨日君たちも狩ろうとしていたじゃないか。」
「あたり前よ。だってそのウサギが私たちの獲物なんだから。私たちはその”魔獣”の討伐依頼を受けてきたの。」
(討伐依頼? 魔獣?シズは何を言っているんだ?)
予想もしていなかった言葉に脳が付いていかず思考が停止する。
そして反射的にぴょん吉を見る。
赤く、くりくりとした瞳に白いモフモフの体毛。
かわいらしい顔の中心からはドリル状の角が生えている。
手足の爪は長く鋭利な刃物のようだ。
そして何よりその一メートルにも及ぶ体躯。
(・・・・・・・ん?)
そして気づく。
確かにぴょん吉には普通のウサギにはあるまじきギミックがついていることを!
今更ながらにぴょん吉が普通のウサギではないことに気づかされた。
「まじか。お前、魔獣だったのか。」
「キュウーン」
騙していた訳じゃないのよ、とでもいうようにぴょん吉が泣いた。
どうやら人の言葉がわかるらしい。
「どうする?今ここで始末する?どのみちこいつを殺らないと私たち依頼失敗ってことになっちゃうし、できれば殺りたいんだけど。」
そういって腰に差してあった短剣に手をかけるシズ。
(なんでシズはこうも好戦的なんだ!)
そして双子の片割れであるリズにシズを止めてもらおうと振り向く。
するとそこにはすでに詠唱を始めているリズの姿があった。
(お前もか! てかリズのほうが先に行動してね?穏便な少女はどこ行った!どっちも物騒過ぎんだろ⁉)
「おい、待てって!こいつは大丈夫だって! なんもしない、ただの無害なウサギだ。」
ぴょん吉を後ろにかばいながら必死に二人を説得する。
そんな状況を理解してか否か大人しくリュースティアの後ろに隠れるぴょん吉。
これは武力行使しかないか?
もちろん暴力などふるったことはないが仕事で鍛えられた腕力と打たれ強さには自信がある。
だが女の子に手を上げる気はないのでどうしたらいいか考える。
「リュースティアには恨みなんてないけど邪魔するなら少し痛い目見てもらうからね!」
そう言うが早いか先手必勝とばかりにシズが短剣を手に切り込んできた。
(こっちの返答聞く気ねーじゃん!)
などと内心では盛大にツッコミを入れつつも予想をはるかに上回るシズの速さに回避行動が遅れるリュースティア。
(ヤバイ、やられる!)
そう思い、これから来るであろう衝撃に備え目を閉じ身を固くする。
しかしいくら待ってもその衝撃は訪れない。
不審に思い目を開けるとシズとの間に割って入る一つの白毛の塊があった。
どうやらぴょん吉が守ってくれたらしい。
さすがに魔獣が人を守ることなど想定外だったのかシズとリズは目を見開き驚愕の表情を浮かべていた。
その隙を逃すまいとリュースティア咥え二人から距離をとるぴょん吉。
「おい、おろせって。あの二人とちゃんと話してお前の事わかってもらわないと。このまま逃げたら、、、、。」
リュースティアのそのあとの言葉は続かなかった。
リュースティアが言葉を紡ぐ前にぴょん吉から振り落とされたのである。
そしてぴょん吉はリュースティアの前で固まったかのように一点を見つめたまま動かない。
その後ろからはシズとリズがこちらに向かって走ってきている。
二人がリュースティアの元にたどり着くと同時にぴょん吉が光に包まれた。
ますます訳がわからず混乱する三人は驚愕しつつもぴょん吉から目を離せない。
そして次第にぴょん吉を包む光が弱まりるとそこに現れたのは白い体毛のウサギなどではなく、、、。
三人の前に現れたのは、白い光をまとった美しい少女であった。
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