第46話 私なんかでいいんだろう
皇帝陛下による長いスピーチも終わると、次は受賞式に移った。帝国の発展に貢献した学者や魔法使いに陛下から賞が贈られるもので、名前を呼ばれた人が続々と玉座の前に並んでいく。
そして皇帝は一人一人に勲章を授け、賛辞の言葉を述べていった。
全員に渡し終えると、次は戦士の受賞式となる。
会場にいた屈強な男たちが前に整列し、こちらも同じ流れで勲章を授かっていた。
粛々と儀式は進行し、最後は皇帝の締めの言葉で式は終わった。
こんな貴重なところを間近で見られてよかったなと思う。
皇帝は会場を後にすると、引き続き私たちは晩餐会のひと時を満喫した。
ジュースでお腹いっぱいになったオボロさんはダッシュさんに任せ、真っ先に落ち込んでいたバニラさんのところに行って励ましてあげた。いつもは元気をもらってばかりの私でも、この時はバニラさんのために頑張った。
次第に表情も明るくなり、すっかりいつものバニラさんに元通り。
それからゴッズゲームのことについても話した。冒険者のこと、RFのこと、ゲームクリアの条件等々。
これまで隠していたこと全部を伝えた。
私がカイトさんを追っている理由も教えた。
クリアできるのが1組だと知ると、若干表情が強張っていた。
それでも、彼女はすぐに笑って私の肩を叩くと、
「クリアについてはノノに譲るよ」
ダッシュさんと同じことを言われた。
「いいんですか? 本当に私で」
「アタシが先に上がっちゃうと、残されたノノたちのことが心配でまた戻ってきちゃうけどイイの?」
「それだと意味ないですね……」
「でしょ。だからアンタが先に行くべきなんじゃんか」
考えとしては、私もバニラさんと同じだ。
ゲームから解放されても、バニラさんたちのことが気になってしまうに違いない。
私とルガーさんだけ自由の身になっても、他を救えなかった罪悪感から精神がおかしくなりそうだ。
だから自分の気持ちに踏ん切りがつかないでいる。
「このこと、オボロさんにも話しません? あの子抜きで進めるのは不公平な気がするんですが」
「そうやって決心を先延ばしにしてると、いつまで経っても答えが出せないままだよ」
バニラさんはビシッと私の顔に指を突きつける。
「私たちの中で誰がクリアしたって、みんな思うことは同じ。他を思って結局は権利の押し付け合いになっちゃう。理想は全員でクリアすること。でも、それができないから誰かが行かないといけないの。私にとってその誰かがノノ。アンタなの」
「なんで私なんですか?」
「アンタなら奇跡を起こしてくれそうだから」
一瞬、何を言ってるのかわからなかった。
バニラさんは苦笑して言う。
「そりゃもう、これといった根拠はないけどね。アンタがゲームを終わらせてくれると、すごい何かが起きそうな気がするの。だからそれに賭けてみた」
「そんな人でギャンブルみたいなのしないでください! そもそも何ですか、すごい何かって!」
「ほら〜、あれ。ノノってそこはかとなく主人公って感じがするし」
「いや意味がわかりませんよ!」
バニラさんは誤魔化すように笑い、人差し指を立てた。
「ほら、アタシたちって誰かが仕組んだゲームの駒になってるじゃん? その中でもノノは重要な役割みたいなのを持ってる気がするの!」
「それで主人公なんですね……」
「当然ながら根拠はないよ。盗賊の勘ってやつ」
釈然としない理由だった。
第一、私はそんな大それた人間ではない。
チビだし、要領悪いし。なんでも器用にこなせるバニラさんの方がよっぽどすごいと思う。
それなのに主人公らしいと言われても、イマイチピンとこなかった。
私が考え込んでいると、背中を思いっきり叩かれた。
「そんな思い詰めた顔しなさんな! ノノは自分を過小評価しすぎ。自分が思ってる以上に、アンタってすごい素質持ってるんだから」
「将来もっと胸が大きるなる……ですか?」
「それは知らない」
私にとって最重要なことは、非情にも切り捨てられた。
私の内心をよそに、バニラさんは続ける。
「ノノってアホみたいに行動力があるし、誰よりも他人思いだよね。冒険者が敵だと知りつつも、アタシに協力してアナベルを見つけてくれた。……結果はどうあれ、アンタと出会わなかったら何も始まらなかったし、永年大槍に来ることもなかった」
「私一人の力じゃありません。ルガーさんやダッシュさんがいなかったら、今頃どうなってることやら」
何度も何度も死にかけた。
みんなの支えがあってこそ、私はこうして生きていられる。
「導いてくれたのはノノじゃん。もっと誇りなよ。自分で思ってるほど、巻き込まれるタイプの人間じゃないって。周りを取り込んで、一つにまとめる力がアンタにはある」
「バニラさん」
改めて言葉にされると気恥ずかしい。
「何はともあれ、ノノのことを信じるから!」
「はい。ありがとうございます」
結局、丸め込まれるかたちになってしまった。
バニラさんとダッシュさん、最後まで二人に強い信頼を寄せられていた。私に何かを期待しているような。可能性を感じているような。そんな縋るような思いがあったのは間違いない。
私にクリアを託すという二人の本心は同じだ。
今さら、そんなものに答えられないと言ったところで、話は振り出しに戻るだけ。
「はぁ」
けれど、気が進まなかった。
本当に私でいいのだろうか。
「おっ、どうしたの?」
こちらに近づく人物に、バニラさんが声をかけた。
顔を上げると、ルガーさんとトルーシャさんが目の前に立っていた。
「急に呼び出してどうした」
「お、お腹がはち切れそうじゃ……」
後に続いて、怪訝な顔をするダッシュさんとジュースでお腹をパンパンにしたオボロさんがやってきた。
どうやらルガーさんに呼ばれてきたらしい。
全員の顔を見たルガーさんは頷く。
「全員、揃っているな」
「急にどうしたんですか?」
私がバニラさんたちの気持ちを代弁すると、トルーシャさんは眉をひそめた。
その意識はルガーさんに向いているのがわかる。
「団長殿に尋ねたいことがある。ここでは何だ。場所を変えてもらっていいか?」
「公にされてはマズいことなのですか? どういった内容なのか話していただいても?」
「同じ冒険者の仲だろ? 水臭せぇことは抜きでいこうぜ」
あれ?
「ルガーさん、今冒険者って……」
「おい、どういうことだ」
ダッシュさんはトルーシャさんに強い眼差しを向けていた。バニラさんの前に出て、いつでも戦える体勢に入る。
一方、冒険者呼ばわりされたトルーシャさんは目を細めていた。じっくりとルガーさんを凝視する。
それから会場全体を見渡し、ゆっくりと目を伏せる。
「他の方々の耳に入り、根も葉もない噂をたてられると厄介です。上階に私の部屋があります。ひとまずそこに移動しましょう」
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