第43話 陽は傾き
夕方。
先にルガーさんと槍の入り口近くで待っていると、バニラさんたちがやってきた。
私に気づいて手を振る。
「お待たせ」
「和菓子屋さんどうでした?」
「うん。おいしかったよ」
バニラさんは満足そうな顔で、膨れたお腹をポンポン叩く。
その後ろでは、オボロさんとダッシュさんが冷めた目をしていた。
何か様子がおかしい。
「こやつめ、店中の試食品を片っ端から平らげたのじゃ」
「……だからお土産とか持ってないんですね」
「一個だろうと全部だろうと、食べることには変わんないじゃん」
バニラさんが開き直る。
ダッシュさんは肩を落とした。
「コイツの職業が盗賊なのをすっかり忘れていた。おかげでオレたちまで出禁だ。店のブラックリストには、バニラの犯した罪が事細かに記されてるだろうよ」
それはお気の毒に。
「そのあとサーカスを見て時間を潰したんじゃ」
「あー、あのおっきなテントですね」
ここからでもよく見える。
この街に来た時から、中で何をやってるんだろうと気になっていた。
赤と白の派手なテントから、大勢の人が出てきている。
楽しみにしていた和菓子屋巡りが潰れても、オボロさんに拗ねた様子はないので、それなりにサーカスで満足したのだろう。
「あれって……?」
ふと、テントから出てくる客の中に、見知った顔を発見した。
「トルーシャさん?」
「っ!?」
向こうもこちらに気づくと、びくりと跳ねて顔を背けた。
「あの人もいたんだ」
「全然知らんかった」
「ステージに夢中だったからな」
サーカスを観に行った三人が思い思いに口にする。
やがてトルーシャさんは、凛とした佇まいでこちらに歩いてきた。
こほんと咳払いをする。
「皆さま、お揃いのようですね。では、私が中を案内します。ついてきてください」
私たちはトルーシャさんに続き、永年大槍の中を目指す。
まだ少し距離はあるので、私は雑談がてら軽く聞いた。
「サーカスがお好きなんですね」
「ええ、まあ。帝国屈指の一流サーカス団になりますので、日々仕事に追われる私からしたら、息抜きには充分すぎました」
毅然とした態度を保ち、腰の刀に手を添えて言う。
「そういえばバニラさまも前の席にいましたね。興奮のあまりはしゃぎ散らし、他の客に迷惑をかけていましたが」
「和菓子の騒動だけでなく、そこでも好き勝手してたんですね……」
バニラさんは「ついつい」と罰が悪そうに頭をかいていた。
そんなこんなで永年大槍に到着する。
巨大な門をくぐり、入り口に通される。
「ボンボンが大勢じゃ」
オボロさんの言う通り、周辺には豪奢な馬車が停まっており、中から貴族風の方々が付き人と共に降りてきた。
皇帝主宰の晩餐会ということもあり、帝国中の貴族も集まるのだろう。
ただ、彼らの視線が気になる。
「なんか、すごい睨まれてません?」
するとルガーさんは、
「そりゃ、こんな出で立ちだからな。華やかな舞台に俺たちみたいなのが来たら、白い目で見られても文句は言えねぇ」
「あのトルーシャさん、ドレスコードってあるんですか?」
「特に服装の規定はありません。どうしても気になるのであれば、ドレスのレンタルならありますけど……」
なぜが気遣わしげな視線を向けられた。
「ノノさまの体格に合うお召し物なら……探せば見つかるでしょう」
「もういいです。このままで」
早く大人になりたいと思う私でした。
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