第36話 諦念

 終わりのない廊下を歩いていた。

 前方は果てしなく続く闇。後ろを見ても、同じような闇が広がっている。

 どれだけ歩んだかわからない。

 それでも歩みは止めない。

 永遠のような時間も、いつか終わりが来ると信じて闇の中を進む。


 畏れはなかった。

 あるにはあったが、暗闇にももう慣れてしまった。

 重かった足取りも、今や軽いものになっている。


 ふと、視界を埋め尽くす色が変わった。

 真っ赤な世界が訪れる。

 途端、頬に痛みが走った。

 顔を上げると、今度は腹部に強烈な痛みがやってきて、肺から空気を奪われた。

 その場で喘ぎ苦しみ、のたうち回る。


「ーーーーーー!」


 誰かの声を浴びせられた。

 内容は聞き取れない。

 しかし、呼吸や音の流れでそれが罵声の類だと想像できた。

 どこの誰が、何と言ってるのかわからないはずなのに、胸の奥が引き裂かれそうなほど痛んだ。

 それでも、必死に慣れようと我慢した。

 我慢した。我慢した。我慢した。

 我慢、できなかった。

 耳を塞いだ。

 少し静かになった。

 もう大丈夫だと思い、耳から手を離す。

 声は止んでいた。


 代わりに肌が焼けるように熱い。

 見ると、炎が取り囲んでいた。

 逃げようと立ち上がる。

 だが、諦めた。

 逃げ道はなかった。

 それに対して諦めたのではない。

 ならば何故、諦めたのか。


「ーー何故じゃったか?」


 全ては炎に包まれた。






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