第26話 いざ次なる冒険へ
騎士団の詰所にやってきてから、どっと疲れが押し寄せてきたので仮眠をとった。
ちゃんと部屋も提供してくれた。
まずは休息をとり、事情聴取は朝にすることに決まる。
私たちも完全に信用されているわけではない。いつ逮捕されるかわからず、ヒヤヒヤした気持ちで運ばれてきた朝食を食べていた。
取り調べは四人別々の部屋で行われる。
机とイスしかない無機質な部屋に通されると、強面の騎士にあれこれ質問された。
怖かったというのが感想。
どんな虚偽も通用しなさそうな鋭い眼光を放っている。
嘘をつく気はさらさらなかったので、聞かれたことに対し正直に答える。
「名前は?」
「ノ、ノノです」
「あのスケルトンと行動を共にしているということは冒険者かね?」
「そうです」
「なぜあの教会に?」
「あそこで戦うとアナベルさんと約束したからです」
「犯人とはどういった関係で?」
「ほぼ初対面です。詳しいことはバニラさんが知っているかと」
「なるほどねぇ」
情報を紙に記し、強面騎士は息をついた。
さらに別の紙に目を通す。
「例の槍を調べたところ、アナベルという人物だと判明した。槍は日の出と共に消滅してしまったが、あんたらが犯人を始末したというのは正しい」
これで身の潔白は証明された。
安心から胸を撫で下ろす。
「てなわけだ。もう退室していいぞ」
「え? もうお仕舞いですか?」
まだ五分と経っていないのに、切り上げの速さに戸惑う。
てっきり一時間近くあるのかと思っていた。
「何だ? もっといたいのか? だが世間話ならお断りだ。自分の娘くらいの世代とじゃ、会話も続きそうにないしな」
「もっといっぱい質問されるのかと」
「嬢ちゃんが怪しい嘘をついているようなら、俺も付き合ったさ。けど、その様子も見られない。あんたらの行動と証言は全部辻褄が合っている。嘘じゃないとわかった以上、こっちも聞くだけ時間の無駄だと思ってな」
強面騎士が合図すると、扉の前にいた騎士が私を連れて退室する。
何だか拍子抜けだけど、あの怖い顔をずっと見てるよりマシか。
すると彼が退室しようとする私を呼び止め、
「それに嬢ちゃん、嘘つくの下手そうだしな。他の毛色の強い連中と比べ、人畜無害なあんたとは、こんな狭い部屋じゃなく、廊下で話すくらいがちょうどよかったかのかもしれない」
何だかコケにされている気分だった。確かに私はルガーさんやバニラさんのようなトラブルメーカー気質ではない平凡型だ。
それが事実なので反論もできず、余計腹が立った。
膨れっ面のまま廊下に出る。
隣に騎士がいなかったら、別れ際にツバを吐いていたかもしれない。
「あれ、ダッシュさん?」
「ノノか」
廊下の真ん中には長椅子が置かれており、そこにダッシュさんが座っていた。
騎士は「そこで待機していろ」と言い、向こうに行ってしまった。
「もしかして、もう取り調べ終わったんですか?」
「まあな。ノノもか?」
「はい、あっという間でした」
まさか私より速い人がいたなんて。
「包み隠さず話したのはいいんだがな」
「もしかして嘘が下手なタイプとか、人畜無害だとか言われました?」
「いいや、目が澄んでいるから嘘や不正を嫌う性格だろと」
何だこの落差は。
「ノノがいるなら、少しは暇を潰せそうだな。バニラもまだ時間がかかるだろうし」
ダッシュさんはある扉に目を向けた。
あそこはバニラさんの入っていった部屋だ。
しかも何やら騒がしい。
廊下にいてもガヤガヤ聞こえてくる。
「中で何やってるんでしょう?」
「揉めてるんじゃないか。殺人鬼アナベルのオマケで大泥棒バニラも逮捕できるチャンスなんだ。騎士団としても、あの手この手でバニラを捕まえてようとしてるんだろう」
「止めなくていいんですか?」
ダッシュさんにとってバニラさんは欠かせない存在になる。
こんな状況なのに冷静すぎやしませんか?
「仮に捕まって牢屋に入れられても、オレが助けに行くから大丈夫だよ」
「すごい自信ですね」
「スペシャルスキルもあるしな。大抵のことは何とかなる」
と言ってダッシュさんは握り拳を作った。
冒険者がRFを所持するとスペシャルスキルが使えるようになり、その恩恵は仲間にも与られる。
だからダッシュさんはこんな強気なんだ。
「ノノの相方も随分とはしゃいでいるみたいだがな」
すると、ズゴンという音がした。
場所はバニラさんの向かい部屋。そこから扉を壊して騎士が飛び出し、廊下に投げ出されていた。
騒ぎを聞きつけた騎士が駆けつける。
「どうした!? 何事だ!」
「お、応援を頼む! この化物がいきなり……」
床の騎士が危機迫った顔で室内を指差す。
確かあそこって、ルガーさんのいる部屋じゃ……。
「アンタのとこは相変わらず元気旺盛だな」
ダッシュさんがため息をついた時、中からルガーさんが出てきて、床の騎士を締め上げたではないか。
「ちょっと何やってるんですか!?」
「ん? ああノノか。こいつらが所持品を出せと上着の中をまさぐるのでな。黙らせていたところだ」
「だからってこんな暴力で解決しなくても……」
私の時に持ち物検査はなかった。
その辺は人によって違うのかもしれないが、ルガーさんの所持品チェックをしようとする騎士団の気持ちもわからなくもない。
こんな背中に銃を背負っておいて、見た目もスケルトンなだけに危険物を持ってないか気になるのも仕方ない。
事実、危険人物だし。
駆けつけた来た騎士たちはルガーさんを取り押さえようとするも、片手のショットガンでどつき回され誰も手がつけられなかった。
「くそっ! 無茶苦茶強いぞ! このスケルトン!」
「あの殺人鬼を仕留めたくらいだ。気を抜くと死ぬかもよ」
「チッ……! 剣も通らねぇ! おい、誰か斧かハンマー持ってこい!」
「
私も割って入り、彼の暴挙を止めようとするも、聞く耳すら持ってくれない。
応戦しに階段から降りてくる騎士たちも、バッタバッタ倒されていく。
「ダッシュさんも見てないで何とかしてくださいよ!」
「オレには関係ないだろ」
「ヒドい!?」
ダッシュさんは当てにならない。バニラさんのことになるとあんなに頼り甲斐があったのに。
やっとのところで騎士たちの流れも穏やかになった。
廊下は気を失った騎士で埋め尽くされている。
そんな中、ルガーさんは掴み上げた騎士の顔にショットガンの銃口を向けた。
「これでわかっただろ。オレを怒らせるとどうなるか。ご理解いただけたなら、とっととアレを返してもらおう」
「わわわわかった!? すぐに返す。ほらよ!」
騎士は握っていた何かを放り投げると、ルガーさんはそれを受け取り、彼を解放した。
それが何なのか見ると、懐中時計だった。それも緻密な模様が彫られており、かなり高そうな代物だった。
「そんなのどこで買ったんですか?」
「どこでもいいだろ」
冷たい態度でコートの内ポケットに仕舞った。
「俺にとって大事な物とだけ伝えておく。薄汚い手で触れやがって」
あの騎士にルガーさんの敵意が向けられる。
喧嘩にならないよう話題を変えることにした。
「それにしてもルガーさん、まだ取り調べの途中じゃありませんでしたっけ? 勝手に抜け出してよかったんです?」
「いいわけねぇだろ」
「即答!?」
ここまでくると、もういっそ清々しい。
「だかまあーーマス目は進むだろうよ」
「しゃらぁ! 脱出成功!」
その時、隣の部屋からバニラさんが飛び出して来た。
しゅたっと着地し、きょろきょろと首を回す。
「あれ? みんなもう終わったの? まさかアタシ待ちだったとか?」
「ーーこら! まだ話は終わってないぞ!」
そんなバニラさんを追うように、騎士も部屋から出てきた。
脱出成功とか言ってたし、ホント問題事を起こすのだけは慎んでほしい。
「うげっ! しつこいなぁ。ダッシュ、片付けちゃって」
「任せろ」
私の時と態度が一変。
イスから退いたダッシュさんは、騎士の前に立ち塞がる。
ポキポキと指を鳴らすダッシュさんに、騎士は一歩退くが、毅然とした顔に切り替えて対応する。
「……退いてくれ。俺は彼女に用がある」
「俺はアンタに用がある」
争う意志のない騎士とは対照的に、ダッシュさんは本気だった。
私はバニラさんに尋ねた。
「何があったんですか?」
「聞いてよノノ! 騎士団がアタシにある依頼をしてさ、それを達成しないとアタシを逮捕するとか言うんだよ!」
「その代わり、これまでの罪は帳消しにするって内容だろ!」
「は? そんな見えやすい罠にかかるわけないしゃん」
なるほど。状況は把握した。
バニラさんの言い分も一理ある。
それよりも、騎士に気になることを尋ねる。
「どんな依頼なんですか?」
「数日前からシャンガラの騎士団と連絡が取れなくなっているんだ。おかしいと思って騎士を数人送ったんだが、一向に帰ってこない。今日にでも新たな騎士を派遣するんだが、そこにバニラの同行もお願いしたいと思ってな」
「だからって何でアタシなのさ! そんなの騎士団だけで解決しなよ!」
「それが難しいから泥棒の手も借りたいってわけなんだ。騎士団の人員も限りがある。そう頻繁に向かわせられない。最初に大きな手を打っとくだけで、結果も変わるかもしれないだろ」
騎士は困ったように頭をかいた。
事態はかなり深刻らしい。
それに私はシャンガラという地名には聞き覚えがある。
「シャンガラって、私たちの目指してる街じゃありませんでしたっけ? そうですよね、ルガーさん?」
「無論。
それを聞いて騎士は首を横に振った。
「シャンガラ行きの馬車なら諦めな。連絡が取れなくなってから、あそこへ行く馬車も運行が中止になっている。シャンガラで何が起きているかわからない以上、ヘタに一般人を向かわせては危険だ。今じゃ騎士団しか行くことを許されていないよ」
シャンガラに行く手段がなくなった。
となると、この出来事が解決するまで、この街に留まることになる。
私たちの目的は
なのにここで立ち往生していては、カイトさんに先を越されてしまう。
「ルガーさん」
「ああ。だったらその依頼、俺たちが引き受けよう」
まさかのルガーさんの発言に、騎士は驚いていた。
「え! 君たちがかい?」
「厳密には俺たち四人がな」
私とルガーさん。バニラさんとダッシュさんのことだろう。
「いやいやちょっと! 何アタシたちまで巻き込んでんのさ!」
「アナベル事件も幕を下ろし、お前がこの街にいる理由もなくなった。どうせ暇になるなら俺たちに付き合え」
「私もバニラさんが一緒だと嬉しいです」
「えー……ダッシュはどう思う?」
「
「ダッシュまで!?」
四人中、三人が依頼を受けたい派となった。
多数決ならもう決まったも同然。
劣勢に立たされたバニラさんは、諦めるかのように首を振った。
「……わかった。アタシも乗る。その依頼引き受けるよ」
「バニラさん!」
彼女は「ただし!」と騎士にす指を突きつけた。
「シャンガラの件が丸く収まっても、騎士団はアタシらに一切の干渉をしてこないこと! 約束して」
「ああ、最初からそう言ってるだろ。でも、そっちの罪をチャラにするだけで、また盗みでもしようものなら、俺たちも黙っていないからな」
「ええ、わかった。証人もいるし、後で好き勝手できないからね」
「元よりその気はない。……ついて来い。馬車と食料はこちらで用意する」
私たちは騎士について行った。
途中、彼は廊下を埋め尽くす騎士たちに「廊下が騒がしいと思っていたが、よくもまあ、ここまで」と呆れていたが、特にルガーさんを責めるようなことはなかった。
それだけ、ルガーさんを戦力として期待しているからだろう。
「ところでルガーさん、額の傷は大丈夫なんですか? 無防備なままだと、ちょっとした衝撃で割れませんか?」
「あ? 大丈夫なわねねぇだろ」
戦士たちにつけられた亀裂は今も健在。
冗談っぽく言う割には何の処置もされていないけど。
「この方がカッコいいだろ」
そう聞いて「あっそ」と思う私でした。
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