第24話 舞台裏での

 時はわずかに遡る。

 場所は貧民街。

 ノノとバニラが散歩をしていた時のこと。


「実は今夜、私とルガーさんはアナベルさんと会う約束をしているんです」

「いや初耳なんですけど」


 ルガーさんに口止めされていたけど、私はそれを破った。

 不意に浴びせられた内容に、バニラさんは真剣な表情で腕を組む。


「ごめんなさい、もっとすぐに言うべきでしたよね」

「ん? あ、いや、そんなことないって。ただ何で言おうと思ったわけ? まさかアタシをのけ者にすることに負い目感じたとか? ノノのことだしあり得そう」

「いえ、それは……」

「図星だね」

「うっ……はい」


 核心を突かれた。

 私からしてもバニラさんに今夜のことを伝えるのは避けたかった。


 ルガーさんが懸念するように、場合によってはバニラさんたちがアナベルさん側につくかもしれない。

 それには同意見。否定はできない。


 しかし、どうしてもバニラさんは今夜行われることを知っておいてもらいたいと考えたのだ。

 感情に任せた身勝手な行動かもしれない。ルガーさんが知ると絶対に怒る。


 それでも私はバニラさんのことを優先した。

 彼女にとってアナベルさんは友達で、私にとってアナベルさんは友達の友達。

 バニラさんを差し置いて、私たちがアナベルさんと勝手な関係性を作るのは何か違う。


「会うと言っても、本当はアナベルさんと戦うんです」

「そうだね。そこにアタシまで加わっちゃうと、余計に話が面倒になるもんね」

「もしかすると、どちらかが敗れるかもしれません。ルガーさんも負ける気はないみたいですけど、万が一という可能性があります。その時はきっと私も……」

「ーーーー」


 言葉を濁してから、バニラさんは無言になった。


「怒ってますか?」

「いいや、ちょっと嫉妬」

「え?」


 予想外の答えを告げられた。


「アタシの友達が、アタシのいないところで勝手に友達作って仲良くなってるって、結構疎ましく思っちゃうんだよね」


 なんかバニラさんのダークな一面を覗いた気がした。


「バニラさんって、意外と独占欲強い人なんですね」

「盗賊だからかな。せっかく掴んだものが手元から離れていくのって、我慢ならないかも」


 そうなんだ。

 以後気をつけよ。


「まぁ、そんなのは置いといて、ノノはアタシにどうしてほしいの? アナベルと共闘してあんたらを打ち負かせばいいの?」

「それだけは勘弁してくださいお願いします」

「はは、冗談だって」


 全力で頭を上げ下げする私に、バニラさんは優しく微笑んだ。


「言わんとしてることはわかるよ。アタシらに、アナベルを止めてほしいんでしょ?」

「理想としてはそうです。でも、私の狙いはそこじゃなくて、バニラさんとアナベルさんが会って話をすることにあります。それで何かアナベルさんの心境に変化があればいいなと思っています」


 二人をかけ合わせて起こる変化があるかもしらない。

 それを聞いてバニラさんは軽く顎を引いた。


「アタシのやることにしては単純明快。そんなに上手くいくかなって心配はあるけど、やってみないとわからないか。罪悪感を感じなくなった子にどう接すれば罪を自覚してくれるのかは考えものだけど」

「アナベルさんを助けられるのはバニラさんしかいません」

「友達の頼みだもんね。嫌だなんて言わないよ」

「ありがとうございます」

「で、アタシたちはどのタイミングで向かえばいい? てかどこで戦うの?」

「北部の教会です。詳しい場所は後で教えますね。来るタイミングですか。そうですね……」


 バニラさんの同行をルガーさんに言っても、許してもらえるかどうか。

 私としてはノーに賭ける。

 あの人、計画通りに物事が進まないのをよく思わないところがある。


 何かと理由をつけて、今夜のことを取り消しにする可能性だってありそうだ。


「じゃあ、バニラさんは私たちの後をこっそり付いてきてください。私たちが教会に入って、五分後くらいに登場してもらえたらいい感じだと思います」

「了解。ダッシュにも伝えとく」


 これで私たちだけの作戦が決まった。


「アナベルさんをよろしくお願いします」

「任された。ノノもくれぐれも死なないように」

「絶対にアナベルさんを助けてあげましょう」








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