第19話 マリリア

「一言で表すなら、ヤバい人です」


 食後。

 あの濁った水で喉を潤した私は、昨日会ったアナベルさんのことをバニラさんに伝える。


「ヤバい、か。どうヤバい感じ?」

「夜道で声かけられたら絶対に逃げないといけないタイプのヤバさです」

「な、なるほど」

「バニラさんの知ってるアナベルさんはどんな人なんですか?」


 彼女はうーんと腕を組んでから、


「何考えてるのかわからない人だったけど、ノノの言うヤバい人じゃなかったかな。ダッシュはどう?」

「よく覚えていない」

「はあ、何それ」


 適当な返しに、バニラさんは呆れていた。


「ただ、アイツの仲間ーーマリリアだったか? ヤツは苦手だ」

「あー、口論になるたびに、論破されてたもんね」

「そこまで言う必要はないだろ……」


 苦い顔でダッシュさんは唸る。


「マリリアさんですか?」

「そう。昨日も言った、アナベルの仲間ね。向こうは馬なのに、人狼のダッシュったらビビリっぱなしでさ」

「アイツは草食動物の馬じゃない。馬に見せかけたオロバスって悪魔だ。いいからその話はやめろ」


 ダッシュさんイジりは一旦終了。

 そのマリリアさんという悪魔から、私はあることに気がついた。


「馬……」


 昨夜のアナベルさんを思い出す。


「あの、アナベルさんって馬の被り物をしてましたか?」

「いや、してないよ。急にどんな質問?」

「じゃあ、槍とか持ってませんでしたか? こう、青白いのを」

「武器ならアタシがあげたナイフくらいで、槍なんて持ってなかったよ」


 どうやら私とバニラさんで、アナベルさんに対する認識は違うらしい。

 同じ人物のはずなのに、どうしてここまで差が出てしまうのか。


「なあ、それってマリリアのことじゃないか?」


 すると、今度はダッシュさんが尋ねてきた。


「あー、言われてみれば確かに。マリリアってば、いっつもそんな槍持ってたよね」


 バニラさんの言葉に、私の中である説が浮かび上がった。

 マリリアさんという仲間は、昨日見ていない。

 その人物とアナベルさんを見間違えたわけでもない。あれは単なる被り物で、中にはちゃんと人間のアナベルさんがいた。

 別行動をとっている可能性もあったが、私の思うことは一つ。


「あの、アナベルさんとマリリアさんが、実はの人物ってことはあり得ませんか?」

「「はぁ!?」


 これには二人して同じリアクションをしていた。


「いやいや待って待って!? あり得ないでしょ、いくら何でもそれは……」

「オレももしかしたらと思ったが、その答えに至るまでの道筋が完成しない。アンタの推理を聞かせてくれ」


 二人とも納得していない。

 ーーそもそも私だってよくわかっていない。

 ただ共通点からそう判断しただけで、論理的な説明とかもできやしない。


 でも、私にもちゃんと切り札を用意している。


「ねぇ、ルガーさん。ルガーさんはこのこと、どう思いますか?」


 私は、だんまりを決め込んでいるルガーさんの方を向いた。


 すると彼は顔上げて、


「ああ? ーーマリリアって奴がすでに死んでいることか?」











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