一章 港湾都市編
第2話 目覚めの潮風
漂白された意識と視界は、次第に元に戻っていく。
足に硬い感触がする。
自分の足で立っているのかな?
てことは……!
私が目を開けると、そこに広がっていたのは……。
「って、どこ!?」
知らない街にいました。
遠くに高い建物が見え、大勢の人が道を行き交っています。
ほのかに潮の匂いがする。海が近いのかな?
それに、ここにいる人たち……。
「おい、道のど真ん中に突っ立ってんな」
「あいでっ!」
どうやら私は道を塞いでたようで、後ろから来た人にどつかれました。
「ご、ごめんなさーー」
謝ろうと振り返ると、そこにいたのは二足歩行でこちらを見下ろすおっかないクマです。しかも喋る。
「何だお前。オレの顔見るなりだんまりか?まあ、人間にはオレみたいな獣人はビビるわな。じゃあな、小便漏らすなよ」
「ビビっとらんし、漏らさんわ!」
私の抗議はスルーされ、喋るクマは行ってしまいました。
さっきのクマ、獣人って言ってたよね。
私は往来から逃げるように端によると、改めて道行く人々を観察します。
歩いているのは大半が人間です。
しかし、中には頭からネコミミが生えた人や、服を着たトカゲだったり、民家くらいはありそうな魚を荷台に乗せて運ぶ巨大な馬だったりいました。
「す、すごい……! なんなんだここ!」
私は自分が誰がわからないままだけど、この世界に圧倒されるということは、本来私がいていい世界なんじゃないと思う。
ここから立ち去ろうと背後を向くと、すぐ目の前にいた女の子と目が合いました。
丸い瞳が可愛いい童顔フェイスに、小柄な身長。髪は茶髪で、肩まで伸びている。
格好は地味な色の服とミニスカート。おまけに変な胸当てもしている。
……って、これ私じゃん。
その女の子はガラスに映る私でした。
ガラスの中にはオシャレな服が展示されており、どうやら服屋みたい。
と、ガラスに映る私ですが、顔の横に変な物体が浮いていました。
目を凝らすと、宙にぷかぷか浮かぶガイコツでした。
恐る恐る首を動かすと、そのガイコツもこちらをじっと見ていました。
「ーーーー」
「ーーーー」
「いや何か言ってよ!」
怖いとかそういう感情もあるけど、まず無言で見つめられても気まずいので、私から声を荒げた。
「悪い。少し考えことをな」
と、なぜか謝られた。
骨なのにどうやって発声してるんだろ。
というか何者なんだろ。
てか何でこんなテンション低いんだろ。
「あの、あなたは一体? 私にしか見えない幽霊的な何かじゃないですよね?」
「俺はスケルトンのルガー。お前の仲間だ」
「他の連中にも見えている」と補足する。
「仲間……。あ! あの信頼できる仲間ってやつですか?」
思い出した。
あの白い空間で「仲間がほしいか?」的なこと聞かれて、イエスと答えたんだっけ。
「そうなんだ。じゃあ、あなたが私の信頼できる仲間……あ、私はノノ! まぁ、これ本当の名前じゃないんだけど、よろしく!」
握手を求めて手を差し出すと、彼は何か言いたそうな目で私の手を見つめた。
「あ、ごめん。手ないもんね。じゃあ、早速行こっか」
「どこへ行くつもりだ?」
「…………………冒険?」
「具体的には?」
「…………ルガーさん、絶対友達とかいないでしょ。何か上から目線だし」
「お前は友達に迷惑をかけまくった挙句、愛想をつかされて、気がつくと孤立してしまっているタイプだろうな」
「チェンジ!? こんなヒドいこと言う仲間全然信頼できないからチェンジ!?」
空に思いっきり叫ぶも、周りから白い目を向けられるだけだった。
「だが、俺たち冒険者は冒険をするのが生業だ。まずお前がしたいことは何だ?」
「うーん、まずはここがどこなのかを調べること……かな?」
「だったら早く動け」
だから何でこの人こんなに偉そうなんだろ……。
とまあ、私たちは街を散策することにしました。
当面の目標が決まったところで、私は何だかんだ隣についてくるルガーさんに質問します。
「私、自分が誰がわかんないんですけど、それはルガーさんも同じですか?」
「さあな」
「どうして私たちはこの世界に招かれたんでしょう?」
「知らん」
「ルガーさんって意外とハンサムですよね」
「せめてハードボイルドと言ってくれ」
「そこはちゃんと答えるんですね……」
ただでさせ考えてることが読めないのに、顔がガイコツのせいでどんな表情で話してるのかもわからない。
信頼できる仲間ってランダムに与えられるのかな? だったらルガーさんって、結構な地雷かも……。
そんなことを考えて歩いていると、潮の匂いが一気に強くなった。
横に視線を向ければ、大きな海と眩しい太陽が視界に飛び込んできました。
「うわー! すごい! きれいです!」
「船が近い。港もある。差し詰め港湾都市といったところだな」
ルガーさんの言葉通り、船が近くに停めてあったり、遠くに市場のようなものが見えたりもする。
「海鮮料理食べに行きません! あ、でもルガーさん骨だから食べれないか。可哀想……」
「余計なお世話だ。第一、金はどうする。俺たちは無一文だろ」
「そっか、お金か。この世界でしばらく過ごすとなると、必要になってきますよね……まあ、後々考えましょっか」
だが今はそんなことよりも、海に来たらやっぱりアレをしないと。
私は海に体を向け、潮の匂いがする空気を肺いっぱいに吸い込んで、
「「海だー!」」
と、気分よく叫んだのはいいものの、誰かの声と重なった。
ルガーさんではない。
いつの間にか私の隣に立っていた赤毛の好青年だった。
彼は私と目が合うや否や、やや大袈裟に飛び退いて、
「ってやぁ! ご、ごめん! いやぁ、何でだか知らないけど、海を見たら叫ばずにはいられないんだよな! まさかここに一人、オレと同じ人種がいたなんて」
「あなたは……?」
「おっと自己紹介が遅れたな!オレはシュラウド! えっと……冒険者ってやつだ!」
「冒険者……! 私も冒険者!」
それを知ったシュラウドは、太陽に負けないくらいの眩しい笑顔を浮かべ、私の手を握ってきた。
「マジマジマジ! てことはキミもあの声を聞いて?」
「うん! よかった、同じ人がいて……」
彼も冒険者だとわかり、私は安堵する。
ルガーさんだけだと不安だし、しばらくはこの人と一緒に行動しよう。
「よろしくねシュラウドくん。私はノノ。で、この態度のデカい骨はルガーさん」
「一言余計だ」
「事実じゃん」
私の紹介にいじけてか、下を向くルガーさん。
でもなぜが、シュラウドくんはルガーさんを不思議そうな目で見つめていました。
「……ノノ、そいつ、お前の仲間なんだよな?」
「そうだよ。なんならシュラウドくんの仲間と交換してもいいよ?」
半分冗談で言ったつもりの私に対し、彼は暗い表情で背後にいた仲間を見せてくれた。
ルガーさんが空飛ぶ頭蓋骨なら、その仲間はやや丸みを帯びた鳥だった。こちらも宙を浮いている。
ただ、どうしても気がかりなのが、
「何か目、死んでない?」
ルガーさんに肉眼はないが、目は見えているみたいだ。
一方、シュラウドくんの仲間の目は、まるで生気を宿してないかのように虚だった。
形はあるけど、魂はない剥製のような雰囲気を醸している。
「コイツ、オレの仲間みたいなんだけどよ、喋んないし、不気味だけど、死んでるわけじゃないみたい。ちゃんとオレの後ついてくるからな。喋れる分、ノノのガイコツとなら交換してやってもいいな」
「え!? いや、やっぱさっきのナシで!」
「なんだよ。まあ、そりゃ仲間だもんな。簡単には売れないよな」
自分の仲間に不満があるようなシュラウドくんだった。
ルガーさんも十分なハズレかもしれないけど、彼の仲間も別の意味で地雷かもしれない。
「何か白けちまったな。ノノもこの世界のことが気になるんだろ? なら、一緒に街を探検、いや冒険しに行こうぜ!」
「うん、そうだね! 行こ、ルガーさん」
「ああ」
気になることも、知りたいこともいっぱいあるけど、私たちは冒険者!
私たちは、この港湾都市を冒険する。
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