第26話

 親父と電話した後は普通に登校し、今は昼休み。

 俺はいつものように屋上で里奈とエリカと昼飯を食べていた。


「今日も里奈のお弁当はおいしいわね!」


「ふっふっふっ。国産和牛を使ったピーマンの肉詰めだよ」


「相変わらず豪華だな」


 里奈が作ってくれる弁当は一見すると素朴なメニューだが、素材が非常に豪華である。

 家計大丈夫なのだろうか。


 エリカはそんなことを気にする素振りも見せずにパクパクと弁当を平らげていく。

 たまにこの豪胆さが羨ましい。


「飛鳥は今日どうしたのよ。元気ないわね」


「まぁ、な……」


 元気じゃないというわけでもないのだが、考えに耽りたい気分ではある。

 なにせ親父に十年近く嘘を教えられ続けて去の努力は無駄であることがわかり、問題解決のためには今まで否定し続けてたタンクトップ悪魔式の魔力操作法が正解だと言われたのだ。

 身の振り方くらいは考えたい。


「そんなオーストラリアにいる深海魚みたいな顔してても何も生まれないわよ。前を向きなさい」


「なんだっけ、その魚の名前? 確か何かのランキングで一位に……」


「誰がブサイクな生き物ナンバーワンのブロブフィッシュじゃ」


 ブロブフィッシュは体長三十センチほどの体格ながら深海の甲殻類を丸呑みにするような立派な捕食者なんだぞ。

 俺には謝らなくていいからブロブフィッシュさんに謝りなさい。


「まぁ色々考えたくもなるんだよ。魔力を操作できるようになるには自分の欲望に素直にならないといけない。でもそんなの二人とも嫌だろ?」


「それであっくんが変わるイメージがあまり湧かない……かな?」


「むしろ今まで欲望を抑制していたということが驚きだわ」


 散々な言われように悔しいが反論できない。

 なぜなら俺自身もあまり自分の欲望を抑えていた自覚がないし。

 ここから欲望を解き放つってどうすればええねん。


「ともかくだ、これからの方針は見えたものの、具体的なやり方が分からなくて困ってるんだよ」


「とりあえず私のおっぱい揉む?」


「とりあえず生みたいな感覚で言うなよ」


 もう少し自分を大事にしなさい。

 痴女か。

 お兄さん心配だよ。


「誰がお通しみたいなポジションの女よ!」


「何も言ってないけど!?」


「うう……どうせ私は里奈のおまけなのよ……」


 エリカはエリカで先日の絶対領域悪魔との戦いからこんな感じに自分を卑下するようになった。

 よほど里奈が祓魔師の力を手に入れたことがショックらしい。

 それだけならまだよかったのかもしれないが、自分が勝てなかった相手に里奈が勝利したというのもあるだろう。

 里奈が勝った理由の九割以上は衣装が理由だとは思うが。


「別にエリカはエリカなんだから気にする必要ないだろ。むしろ戦力的には増強してよかったんじゃないか? プ○キュアみたいに二人で戦えばいいじゃん」


「えーちゃんとの合体技とか考えなきゃ!」


「嫌よ! 私は一人で目立ちたいわ!」


「結構最低なこと言ったなお前」


 仲良くしろよ。

 今も仲が悪いわけじゃないけど。


「じゃあ私のオーラでえーちゃんの周りをピカピカ光らせるとかは?」


「それはいいわね!」


「いいのかよそれで」


 他人に引き立ててもらってるだけやんけ。

 自分の力でなんとかしろよ。


 というか里奈のオーラって戦いに使うものだろう。

 エリカを光らせるのに使うなんて勿体なさすぎる。

 いざと言う時の防御とかには使えそうだけど。


 いやでも同じ祓魔師なんだから、エリカが自分で使えばいいよな。

 しかし、振り返ってみれば今までエリカが使っている所を見たことがない。


「あのオーラってエリカは出せたりしないのか?」


「出せるわよ。変身の時に周りに出てるでしょ?」


「ああ、あの謎の光の靄か」


 あれはオーラだったのか。

 変身シーンに必要なお約束的な何かってわけじゃかったとは。


「祓魔師はオーラを身に纏ったり、武器にして戦うの。それによって通常では考えられない身体能力や威力を出すことができるわ。オーラとして使うよりも具現化した方が効率はいいのよ」


 なるほど、だからエリカは今までオーラを使うことはなかったと。

 里奈だけが使える特別な力とかじゃなかったんだな。


 そんな折、屋上に新たな人影がやってくる。

 もう昼休みも中頃で、飯を食うには遅い時間なのだが。


 何しに来たんだろうと見てみると、そこにいたのは珍しく俺の見知った後輩の顔だった。


「エリカ先輩、里奈先輩! 助けてくださいー!」


「咲じゃない。いきなりどうしたのよ」


「何か困り事?」


 やってきたのは咲だった。

 呼んだ名前に俺の名前がないのが微妙に悲しい。


「学校で声を掛けてくるなんて珍しいわね」


 咲とは学年が違うこともあってか、ほとんど学校で接する機会がない。

 もっぱら咲の行きつけのビリヤード店で会うか、メッセージでやり取りは終わっている。


「そりゃあ普段から先輩達と一緒にいたら私まで変な目で見られ……胸が大きい二人と一緒にいたら惨めな気持ちになりますから」


「言い直したけどどっちも本音だよな」


「黙らないとぶん殴りますよ?」


 なんで俺が殴られなきゃいけないんだ。

 言い出したの咲の方じゃん。

 怖いから黙るけど。


「それで、助けてほしいってどういうことなのよ」


「そうなんですよ! 実はですね……」


 咲は話を振られて興奮気味だが、口に手を当てて小さい声で話始める。


「ちょっと悪魔に狙われてまして……」


「ええ!? 悪魔ですって!?」


「わざわざ声小さくした私の配慮を無視しないでくれませんか!?」


 咲の言いたいことは分かるが、エリカにそれを期待してはいけない。

 外で堂々と悪魔を見なかったかと尋ねるような子だからな。

 気遣いとかそういうのとは無縁なのだ。


 エリカが大声でこんなことを言うもんだから屋上にいる他の生徒から注目が集まる。


「ああ……学校ではちょっとクールな知的女子を目指していたのに私のイメージが……」


 そんなの目指してたのかよ。

 と、言いたくなるが咲は黙ってればそう見えなくもない。

 特に読書する時に眼鏡を掛けている時はまさにそれの通りであり、あながち間違ったイメージ戦略とは言い切れない。


 ほら、実際にこれを聞いた他の生徒からも……


「おい、あれって一年の広井さんだよな」

「あの妹にしたいナンバーワンの広井さんか!」

「動きが小動物みたいでかわいいんだよな」

「でも胸の話をすると凄い目で睨んでくるらしいぞ」

「実際ほとんど……いや、全く無いぞ」

「おいバカお前殺されるぞ」


 残念ながらそんな風には見られてないようだ。


 安心しろよ。

 元々そんなイメージないらしいぞ。

 それ以前の問題もある。


「というか、そんなこと気にするならわざわざ俺達に声掛けてこなければよかったじゃんか」


「仕方ないんですよ! さっきまで追われてて、撒くために屋上まで来たら御三方が見えちゃったんですから!」


「全然仕方なくなくね?」


 そこは素知らぬ振りをすればよかったのでは。

 こっちだってすぐには話かけなかっただろうし。


「それはともかく、追われてたってどういうことなのよ?」


 エリカが先ほどの咲の言葉に別の切り口から反応する。

 追われていた――つまり、さっきまで悪魔と一緒にいたということなのか?


「そうなんですよ! この学校に悪魔がいたんです!」


 咲は興奮した様子だが、質問をしたエリカの反応は薄い。

 里奈もあまりピンと来ていない様子だ。

 二人とも不思議そうな表情で顔を見合わせている。


「ひどい! 私の言うこと信じられないんですか!」


「そうじゃないわよ。里奈は飛鳥と咲以外の邪気を感じたことある?」


「それがないんだよねぇ。咲ちゃんも悪魔の気配を隠すの上手いけど、その悪魔はもっと上手なのかな?」


 どうも祓魔師である二人は咲の言っている悪魔の邪気を感じたことがないらしい。

 だからこそのあの反応か。


 とはいえ、エリカは俺の邪気を感じたのは最近だし、咲のことは本人が言うまで感じ取っていなかった。

 俺と咲はハーフという例外ではあるが、悪魔全部が尻尾を出しているわけではないだろう。


 ともあれ、咲がここまで慌てるなら言っていることの信憑性はある。

 ならばやることはひとつだ。


「咲、その悪魔のことを教えてくれ」

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幼馴染が俺を好きになる呪いにかかったけど、嫌だから解呪を試みます ~その呪いの原因、実は俺なんだけど~ ぬま @numa_h

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