第22話

 穏やかな心を持ちながら激しい怒りにより、里奈は祓魔師エクソシストとして目覚めた。

 エリカだけでなく街の人々を手にかけた上級悪魔の攻撃などものともせずに防ぐほどの力だ。


「食らうがいい! 魔力弾!」


「そんなの効かないよ!」


 悪魔が派手な動きをすると、里奈がオーラのようなもので壁を作る。

 壁の所でなにか破裂しているらしく、いきなり風圧がやってくる。


「なんて強度だ……!」


 どうやら悪魔の攻撃は里奈が作った壁に阻まれているらしい。


 俺からは悪魔がいきなり踊って風を起こしてみたものの、何故か悔しがっているようにしか見えないが、異能バトル的には里奈が圧倒しているっぽいぞ。


 すごいぞ里奈。

 頑張れ里奈。


「これならどうだ!」


「よく分かんないけど全部防ぐから!」


 次はオーラが里奈と俺の二人を包むように展開する。

 すると上下左右から風圧が散発的にやってくる。


 あ、今里奈のスカートがめくれ上がった。

 惜しい。

 もう少しで見えそうだったのに。


「くっ、これでもダメか。ならば正面から力技で行かせてもらう!」


 いやいや、もうちょっと粘ってくれ。

 主に下から攻撃するやつを。

 あともうちょっとだったんだ。


「うおおおお! 絶対正拳領域突き!」


「だから効かないって――」


 里奈は三度オーラを展開すると、悪魔によるただの正拳突きを防ぐ。

 中空で止められた付きはその勢いを無くしてその場に留まるも――


「っ!?」


 強い風圧――いや、カマイタチが里奈を襲う。


「ちょっと! 制服切れちゃったよ!」


「おお!」


 これは素晴らしい。

 カマイタチによって里奈の制服はボロボロだ。

 その隙間からチラチラと肌色が見えて非常にえっちである。

 しかも切れているのは服だけで里奈の珠のような肌は傷ついていない。


 これぞハプニングスケベ。

 魅了されている里奈なら俺が頼めばいくらでも見せてくれるだろうが、それでは意味がない。

 こういうハプニングがあるからこそ嬉しいものなのだ。


「これなら衝撃は通じるようだ。ならば連続で!」


「これ以上制服切らないで! 裸になっちゃうでしょ! あっくんになら見せてもいいけど!」


「そんなものには興味はないわ! 絶対領域領域を見せろおおお!!」


 いいぞ絶対領域悪魔!

 今俺達の利害は一致している!

 その攻撃で里奈の服を脱がすんだ!


「だったらもっと手前で止めちゃえば!」


「ちぃっ!」


 里奈は先ほどよりも遠くに壁を展開する。

 これでもカマイタチは発生してるが里奈への被害は小さい。


 何をしている絶対領域悪魔!

 お前の力はそんなものか!


「まだまだ! スーパー絶対領域スピードォッ!」


「そこ!」


 いつの間にか里奈の後方に移動した悪魔だが、里奈はそれに追いつき分厚い壁を作り出す。

 しかし壁の距離は先ほどよりもかなり近い。

 カマイタチが里奈を襲う。


「もっと! もっとだ!」


「くうう……!」


 悪魔は里奈の死角から何度も襲いかかる。

 しかし里奈も負けずにそれを防ぐ。


 だがこれでいい。

 いい感じに服に傷がついているぞ!

 あとちょっとだ!

 頑張れ!絶対領域悪魔!


「うおおおお!」


「もおおおっ! とりあえずえーちゃんの真似! 変っ身!」


「ぐわあっ!?」


 里奈が叫ぶと纏っていたオーラが一際輝き里奈を覆う。

 攻撃を仕掛けていた悪魔はそのオーラに弾かれてしまった。


 もう少しという所で……!


「なんという力だ……!」


 オーラに包まれている里奈を見て悪魔は圧倒されている。

 俺ですらエリカの変身シーンより力強さを感じる。


 オーラの中では里奈の生着替えが行われている。

 相変わらず大事な所は隠されている。

 空気を読むオーラである。


 やがて傷ひとつついていない魔法少女服を纏った里奈が姿を表す。

 里奈の白い肌は再び守られてしまった。


 エリカと違い、里奈の服は人形に着せていた服をそのまま持ってきたような西洋風の衣装だ。

 身体にぴっちりと合った細かい刺繍が施された上着に、フリフリのミニスカートに太腿までのびたソックス。

 魔法少女と名乗ってもなんら違和感はない。


「変身完了っ! 魔法少女、えーと……あっくんとラブラブ里奈!」


「改めてあっくんとラブラブ里奈とやら、手合わせ願おう!」


「恥ずかしいからその名前やめて?」


 明らかに今考えた名前だろ。

 里奈も悪魔も言ってて恥ずかしくないのか。

 俺は呼ばれたら恥ずかしいよ。


「今度はこっちからも攻撃するからね!」


 里奈は手元にオーラを凝縮させる。

 集まった光は棒状に形成されていき、光から解き放たれる。

 それは五十センチにも満たない細い柄に、先端には赤い打突部がついている。


「……なんだその武器は」


 悪魔は里奈の手にある武器を見て目を見開いている。


 そりゃそうだ。

 だってこんなの武器と言えるか非常に怪しい。

 文字通り子どもの玩具だ。


「えーと、ピコピコハンマー?」


「疑問に思うまでもなくピコピコハンマーだな」


 武器を作り出した里奈本人がなんで疑問の声を上げるのか。

 どこからどう見てもピコピコハンマーである。


「と、とにかくこれで私も戦うんだから! 当たったら痛いよ!」


 里奈はピコピコハンマーを振りかざすが、どう見ても痛そうではない。

 これでどうやって戦うつもりなんだ。

 悪魔の攻撃は人を軽く吹っ飛ばし、防御してもカマイタチができる程の威力だ。

 それに比べたらピコピコハンマーの攻撃など威力がないのと等しい。


 どうして君達は何か抜けているんだろうか。

 さっきまでは俺が不真面目だったけど、ちょっといい感じのバトルやってたじゃん。

 里奈はダーツ得意なんだから、そういうの武器にしてもよかったんじゃなかろうか。


「祓魔師め……私を愚弄するか! いいだろう、私の渾身の一撃をもってそれへの返させてもらう!」


 ほら悪魔も怒っているぞ。

 拳を腰だめに構えて引き絞り、今にも強力な突きを放とうと構えている。


「行くぞおおおっ! 超スーパー絶対領域スピード!」


「っ!?」


 悪魔は気合いの入った声と共に姿を消した。

 さきほどスーパー絶対領域スピードなる技を使っていたが、今度はそれに超がついた強化バージョン。

 頭痛が痛いみたいな技名だが、速さは増しているようで変身した里奈ですら悪魔を見失ったように周りを見ている。


「ここだ! 真・絶対正拳――」


「くっ!」


 突如として里奈の正面に現れた悪魔。

 だが里奈の注意は他の方向に行っている。


 まずい。

 里奈が反応しきれていない。

 ピコピコハンマーにしてしまったからか、里奈を守っていたオーラは消えている。

 このままではまともに食らってしまう。

 どうしてピコピコハンマーなんて作った。


「領域突き……ぃ?」


「……ん?」


 悪魔の拳が里奈に刺さる……と思いきや、悪魔の手は途中で止まってしまった。

 里奈が止めたわけではない。

 オーラは出ていないし、防いだ時に発生するカマイタチもできていない。

 何より里奈本人が攻撃が来なかったことに驚いている。


「私には……攻撃できない……」


「……どういうこと?」


 悪魔は拳を下ろし、膝をついて項垂れてしまう。

 一体何があったのか。

 さっきまでの勢いはどこに。


「もう……既に絶対領域があったなんて」


「気付くの遅っ!?」


 変身した時に気付こうよ。

 俺も「ミニスカートに太腿までのびたソックス」があるって触れてたじゃん。


「ふふ……私の負けだ。絶対領域を持つ祓魔師よ。貴様を攻撃する理由が私にはない。好きにするがよい」


 悪魔はニヒルに笑いながら首を差し出す。

 まるで断頭台に立ったようだ。

 数秒前とのギャップがすごい。


「えーと、じゃあ叩くね?」


 里奈はそう言うと、ピコっと悪魔の頭を叩く。

 ピコピコハンマーに叩かれた悪魔は一言だけ残し、ゆっくりと地面へ倒れ伏した。


「良い……絶対領域だった……」


 こうして、よく分からんけど里奈は戦いに勝った。

 いいのかこれで。

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