第23話
魔法少女に変身した里奈は、絶対領域を悪魔に見せつけ悪魔を降参させた。
自ら首を差し出した悪魔に里奈はピコピコハンマーによって頭を打ち、見事に勝利したのだった。
「とりあえず、終わったのかな?」
「多分な」
そう思っていいだろう。
近くにいた人が「はっ……私はなんでこんな長い靴下を……」と分かりやすい反応をしている。
「それじゃあ変身解除っと」
里奈がそう言うと、着ていた衣装がピカリと光っていつもの制服姿に戻る。
悪魔の攻撃の余波によって切り裂かれていたはずの制服は、そうなる前の綺麗な状態に戻っていた。
咲じゃないけど一体どういう仕組みになってるんだ。
時間が巻き戻っているのか、変身している間に破れた袋が直ったのか。
あと変身する時はそれなりに時間かかってるのに、戻る時は一瞬なのも気になる。
「ふあ〜」
そんなことを考えていると、後ろの方で気の抜けるような声がする。
「さっちゃん!」
咲の声だ。
どうやら目を覚ましたらしい。
「咲、大丈夫か」
「あ、はい。寝てました」
「寝てた!?」
気絶していただろうから寝てたっちゃ寝てたんだとは思うが、そんな軽い話じゃなかろうに。
呪いをかけまくっていた絶対領域悪魔だが、唯一まともに攻撃したのは咲に対してくらいだ。
咲は今回の一番の被害者と言ってもいい。
「ご心配おかけしました。けど大丈夫ですよ。こう見えて結構頑丈なんです」
そう言う咲は確かにけろりとしている。
大きく伸びをして、よく寝たと言わんばかりだ。
あれ、人間と悪魔のハーフは頑丈だとかいう設定あったっけな。
いや少なくとも俺の頑丈さは人間準拠だ。
咲だけ特別ってことはあるまい。
「……とりあえず、大丈夫そうならそれでいいけど一応病院行っておけよ?」
「そんなに心配しなくても大丈夫です。私を貧乳呼ばわりしたあの悪魔を死体蹴りしてやりたい気分ですが、攻撃自体はそこまででもなかったので」
「いや貧乳なのは本と――」
「ああん?」
「ナンデモアリマセン」
いかんいかん。
今度は俺が咲から攻撃される所だった。
こんな風に俺を睨みつけられるならきっと咲は大丈夫だろう、うん。
「ところで……」
「どうした?」
「いつのまにか新手の悪魔がそこにいるんですが、その悪魔はどうしたんです?」
んん? 新手の悪魔?
ハハ、まさかそんなわけないだろう。
それなら
「いや、先輩の後ろにいますよ」
「おいおいそんなわけ――うおおおおえええっ?!」
咲に言われて振り向いてみたら、タイツを頭に被った悪魔がそこにいた。
$
……結論から言うと、そいつは悪魔ではなかった。
更に言うと頭に被っていたのはタイツでもなかった。
何を隠そう、その正体はサイハイソックスを被ったエリカだったのである。
悪魔から呪いを受け、敵前にもかかわらずサイハイソックスを買いに出かけたエリカ。
無事に買い物を終えたエリカは急いでこちらに戻ろうとするも、途中で呪いが解けたらしい。
それで悪魔を祓えたことは分かったが、呪いが理由とはいえ途中で離脱したことをエリカは強く後悔した。
非常に俺達に顔が合わせづらい。
しかし俺達の元に戻らないわけにもいかない。
そこで苦肉の策として履かずに手元にあったサイハイソックスを被り、顔を隠して俺達の元に姿を現した。
どうしてそんな罰ゲームみたいなことを。
「ふごふご、ふご」
「っていうわけなんだって」
ちなみに事情はサイハイソックスを被ったまま説明されている。
そんな状態でまともに喋れるはずもなく「ふごふご」としか聞こえないのだが、何故かエリカの言っていることが分かる里奈がこうして通訳しながら話を聞いている。
「ふご、ふごふごふご」
「本当に申し訳ないと思ってるって」
「別に気にしてないぞ。というか、今その恰好なのが気になってしかたねーよ」
なんで一人で勝手に罰ゲームみたいなことしてんねん。
ソックスなんだから普通に履いてくれ。
エリカなら呪いにかかってなくてもサイハイソックス似合うから。
ともあれ、エリカは頑なに顔のサイハイソックスを外さないのでそのまま顛末だけは話しておいた。
「ふご……ふごふごぉ……」
「里奈が変身したなんて……私のアイデンティティが……だって。そんなの気にしなくていいのに」
ほんとだよ。
その前にサイハイソックス被ってることを気にしてくれよ。
そうじゃなくてもエリカは十分に個性的だから気にする必要よ。
ともあれ、こうして悪魔との戦いも終わり、人々にかかっていた呪いは解けた。
咲は無事だったしエリカとも合流できた。
後は……
「こいつ、どうするん?」
そう、悪魔本人をどうするのかである。
ピコピコハンマーで叩かれて気絶したこの悪魔だが、このまま放置していいものか。
別に心配をする義理などないのだが、悪魔が目を覚ました時にまた呪いをかけるなんてことになったらよろしくない。
あと微妙に人目が気になる。
事情の知らない人から見れば、俺達と倒れている悪魔は無関係には見えないだろう。
「ふごふごふご」
「精神が浄化されたはずだから、放置してても大丈夫らしいよ」
「エリカはいい加減に普通に喋れよ」
「ふごふご!」
「祓魔師としてそれはできないんだって。今日は一日このままでいるみたい。気にする必要ないのにねー」
逆に迷惑だからやめてほしいんだが?
どちらかというと、倒れてる悪魔よりもエリカの方が人目を集めている要因だと思うし。
やってることが悪魔とほとんど変わらないよ。
「ふごふご(とりあえ起こしてみましょう)」
「ぬぐおっ!?」
エリカは寝ている悪魔を蹴る。
普通に酷い。
「あっ、私もやります」
「ぐふうっ!?」
すると咲もエリカに便乗して寝ている悪魔を一蹴りした。
確かに死体蹴りしたいとは言ってたけど。
まぁ咲の場合は物理的に酷い目に遭っているし、報復したくはなるだろうが。
「じゃあ私も?」
「いややめておけよ」
里奈も咲に続こうとするがさすがに止めておく。
相手は悪魔とはいえ、一応倫理的にね?
ここ日本ですから。
「くっ……もう蹴ってはくれないのですか……!」
里奈が蹴りを入れる前に悪魔がなんか言い出した。
どうやら悪魔が目覚めたようだ。
二つの意味で。
「私を目覚めさせてくれて、ありがとうございます」
悪魔はゆっくりと起き上がると、その場に正座して俺達に礼を言った。
このままだと周りに誤解されそうなので慌てて悪魔を立たせる。
そしてこの礼がどっちの意味で言ったのかがすごく気になる。
追及したら面倒なことになりそうだから何も言わないけど。
「今はとても晴れやかな気分です。これからはまっとうな悪魔としてやっていくつもりです」
まっとうな悪魔ってなんだろうか。
とりあえず改心したと思っていいのか。
「今後は人に自分の性癖を押し付けることをしません。絶対領域に執着せず、他のことにも目を向けようと思います」
ともあれ、これからは人に迷惑をかけるようなことはしないようだ。
エリカにも相談した所、一旦はこれで十分という結論になった。
呪いに掛けたことは警察ではどうしようもないだろうし、傷害でなら咲という被害者はいるものの、咲本人が面倒だからという理由でそれを望まなかった。
まぁ本人がそれでいいならそれでいいんだが。
「この償いは必ず……私の新たな悪魔生をもって返させて頂きます」
なんというか、悪魔は綺麗な目をしている。
新たな船出をする少年のような目だ。
これなら心配はないだろう。
そう思わせる。
「まずは……そうですね。新しい趣味としてSMクラブにも通ってみようと思います」
やっぱりそっち方面に目覚めてるじゃねーか。
朗らかな顔して何言ってんだこいつ。
要らなかったよその情報。
人に迷惑かけないってことだけ分かればそれで十分だったのに。
ともあれ、こうして戦いの幕は閉じ、平和な街が戻ったのだった。
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