第21話
上級悪魔の戦闘したエリカは悪魔の呪いを受けてサイハイソックスを買うために戦線離脱してしまった。
邪魔する者がいなくなった上級悪魔は集まったギャラリー達に絶対領域を布教しようとしている。
このまま俺達はなすすべもなく絶対領域好きになってしまうのか……!
……いや、冷静に考えると別によくね?
絶対領域自体は俺も好きだし。
「そこの娘! 今のショートパンツには黒のサイハイソックスがピッタリだぞ!」
「ああああ! 脚が勝手にお店の方へ!」
「貴様はロングスカートをやめてミニにしなさい! 足を隠すならサイハイソックスだ!」
「私、なんでこんな長いスカートを履いてたんだろう……」
「ヘイそこの彼氏! 彼女に絶対領域があったら嬉しいと思わないか!?」
「嬉しいに決まってる! 買いに行ってくるぜ!」
悪魔は人々にどんどん呪いを掛けていく。
やがて周りにはほとんど人がいなくなり、俺達だけが残された。
「ふふふ、この商店街の売り上げに貢献してしまったな……」
悪魔は自らが生み出した買い物客で賑わっている商店街を見ながら勝ち誇っている。
「悪魔のくせに微妙に地域貢献してる感じなのがムカつきますね」
「実際売上は上がっていそうではあるけどな」
これまでサイハイソックスの需要がどれほどのもんだったのかは分からないが、今日だけでかなり売れたことは間違いないだろう。
呪い恐るべしである。
「二人とも、騙されちゃダメだよっ!」
感心している俺達に里奈が制止をかける。
「新型ウイルスが流行った時のことは記憶に新しいけどこういう一時的な需要過多は市場に混乱を生み出すんだよ例えば小売店は無駄な問い合わせに対応しないといけないし注文を受ける側の卸やメーカー側も負担が増えるしこの一時的なブームがいつ終わるか分からない中で生産計画を立てるのは難しいし不良在庫を抱えるリスクを犯すことになるんだよそれ以前に他の長さのソックスやロングのスカートとパンツの需要は減って長期的に見れば必ずしも利益になるとは言えないからね」
「「お、おう……」」
途中から何言ってるのかよく分からなかったけど、とりあえずいいことばかりじゃないことは理解しました。
「最後のメインディッシュに取っておいた娘が、中々に博識なことを言うではないか」
悪魔は手を鳴らしながらこちらへゆっくりと近づいてくる。
その立ち振る舞いは優雅だ。
下半身が短パンサイハイソックスの変態とは思えない。
それにしても……
「メインディッシュ……?」
「そう、メインディッシュだ。その肉付きのいい太腿は素晴らしい。私はショートケーキのイチゴは最後に食べる派なのだよ」
ちょっと何言っているのか分からないが、悪魔は舐るように里奈を見ながら俺達に近づいてくる。
確かに里奈にサイハイソックスを履かせたら童貞を瀕死にする程度の威力があるだろう。
ソックスの縁の部分で凹むあの部分がいいんだよな。
里奈のむっちり太腿ならそれがきっとできる。
「私の太腿はあっくんだけのものなんだからっ!」
「好きにするが良い。私はただ絶対領域を増やせればそれでいいのだ。少しつまみ食いはするがな」
悪魔はニヤリと口元を上げると、里奈の隣にいる咲に目をやる。
「貴様は……」
「わ、私にも何か用ですか……私なんてガリガリですから似合いませんよ」
「そうだな。貴様の細い脚など見る価値もないわ。出直してこい」
「これはこれでイラッとくる返事ですね」
「黙れ貧乳」
「お前ぶん殴るぞ」
あかん、咲さんがお怒りや。
拳を握りしめて震えるほど力が入っている。
しかし、その拳が悪魔に向かって振られることはない。
それも当然だ。
俺達はエリカと違って戦う術があるわけではない。
返り討ちにされるのが関の山だろう。
かといって、身体能力が上がっていた変身状態のエリカと戦える相手から逃げられるとも思えない。
咲もそれが分かっているのか歯噛みしている。
しかし、この状態は長く続かなかった。
「貴様は邪魔だ。退け」
「づぅっ!?」
悪魔が手を振ると、いきなり咲が後ろに吹っ飛ぶ。
「さっちゃん!?」
「咲っ!」
悪魔の魔力弾が当たったのだろうか。
咲は衝撃で数メートル吹っ飛ばされてそのまま道に倒れ込む。
これで咲も呪いに掛かってしまった。
「……あれ?」
しかし倒れている咲は不思議そうな顔をしている。
なにか異常でもあったのか。
「貴様の絶対領域など見たくないと言っただろう。今のは呪いのついていない純粋な魔力弾だ」
「ちく……しょ……明日から牛乳飲みまくって……や……」
言葉は最後まで紡がれることはなく、非常に悔しそうな表情で咲はがくりと頭を垂れた。
「さっちゃーーん!」
里奈が叫ぶが返事はない。
どうやら気絶してしまったようだ。
大丈夫だ、咲。
世の中には細身の女の子が好きな男も多い。
俺はどっちかっていうとむっちりしてるくらいが好きだけど。
しかし悪魔め。
まさか直接攻撃をしてくるなんて。
魔力なんて下らない呪いをかけるだけだと思ったがこんなことまでできるのか。
一気に脅威度が上がる。
「次は貴様だ。そこのガーゴイルみたいな顔をした男よ」
「誰がガーゴイルみたいな顔じゃ」
というかガーゴイルなんて見たことないわ。
どんな顔だよ。
「貴様はこの娘のボーイフレンドか。ククク……絶対領域が好きになったら他の女子にも目移りしてしまう浮気性の男になってしまうなぁ……どうする、娘よ」
「あっくんは元々色んな女の子のこといやらしい目で見る癖があるから変わりませんっ!」
「そこはもうちょっと否定してよ」
確かに女性の胸元とかに目が行っちゃうことあるけど、それは男として当然のことだよ。
むしろ見ないのは失礼に当たるのではないか。
咲のを除いて。
「お……い……」
ヒェッ。
今、咲から悪霊のような、うめくような声がした気がする。
おかしい、夏なのに背筋が冷たいぞ。
冗談はさておき、俺は悪魔に狙われている。
くっ……どうする。
「では邪魔な男はさっさと退散してもらうことにしよう」
悪魔は俺の準備が整うのを待ってはくれない。
咲にした時のように手を振りかざす。
くそっ、俺にも魔力弾が来る!
「むっ?」
「……あれ?」
来るだろう衝撃に備えて身構えるが、それは一向に来ない。
その代わりに届いたのは悪魔の疑問が含まれた声だ。
「もう一度だ。はぁっ!」
「……えーと?」
悪魔はまた手を振るが俺には何も届かない。
その後も何度か同じことを繰り返すが、やはり結果は変わらない。
「こ、これは一体……」
それを聞きたいのはこちらの方だ。
こっちはやられる覚悟をしていたというのに。
俺の覚悟を返せ。
「もう、許さないんだからね」
「……里奈?」
聞き慣れない低い里奈の声が聞こえてくる。
普段と様子が違う……?
「なっ……まさかこれは……貴様は……!」
「えーちゃんやさっちゃんだけじゃなくて、あっくんまで傷つけるなら許さないんだから!」
里奈が珍しく怒っている。
いや、怒っているだけならまだいい。
それよりも、里奈の周りにあるオーラのようなものが問題だ。
「里奈、それなんだ!?」
「分からないけど力が溢れてくるんだよ!」
里奈のオーラは、里奈だけでなく俺の周りをまるで守るように覆っている。
まさか、これで悪魔の攻撃から守ってくれたのか?
「こ、これは
そうか、里奈の両親は祓魔師だ。
いつも心優しい里奈が怒ったことによってその力が目覚めたんだ。
どこぞのサ○ヤ人のように。
「よーし! よく分からないけど私がやっつけるんだからね!」
「思わぬところに伏兵がいたものだ。上級悪魔たる私がお相手しよう。さあ来い、目覚めたばかりの祓魔師よ!」
祓魔師として目覚めた里奈が悪魔と対峙する。
これは勝ちフラグだ!
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