第18話

 ……はっ!?


 俺は一体何を……


 どうやらゲップの我慢しすぎて意識が飛んでいたようだ。

 これまでの経緯がフラッシュバックしたような気がする。


「まだまだっ! ホーリーサンクチュアリデビュタントレーザー!」


 ともあれ、3ゲーム勝負のラストで里奈が披露したのはこのアクロバティックな投げ方だった。

 里奈曰く必殺技らしい。


 必殺技って、必ず殺す技って書いて必殺技だよ?

 確かに人を殺せそうな勢いでダーツが飛んでってるけどさ。


「負けません! グレートアメージングエクストラアロー!」


 そして広井よ。

 お前もなぜ里奈に乗っかってるんだ。


 お前ツッコミキャラだったろ。

 なぜそっち側にいる。


「知らないんですか先輩。今度のオリンピックからエクストリームダーツって競技が正式種目になるんですよ。なので私も里奈先輩も真面目にやってます」


 ほんまかいな。

 これがオリンピックで行われるのか。

 テレビでやっちゃうの?


「はぁ……はぁ……あと少し……」


 里奈は方で息をしながらダーツボードの上に表示されている自分の得点を見ている。

 もう普通にやったら?


 元々は手早く終わらせるためにって必殺技使い始めたけど、モーションが大きすぎて逆に時間かかってるんですけど。

 確かに狙った所には当たるようになってるっぽいが。

 普通に投げた方が当たりそうなものなのに不思議である。


「これで決めるよっ!」


 里奈はそう言って構えを取る。

 あと一投でカウントをゼロにできる状況だ。


 見ているこちらも緊張する。

 俺がコーラをまた飲むかどうかの瀬戸際だ。


 隣にいるエリカも同様に緊張しているのか、俺の方をチラチラ見ながらラブラブコーラをちゅぱちゅぱ飲んでいる。

 そんな遠慮しないでもっと飲んでくれ。

 あと俺じゃなくて里奈を見てやれよ。


 しかし俺もそろそろやばい。

 もう少しでも動いてしまえばゲップが出てしまいそうだ。

 早く終わらせてくれ。


「行けっ! あっくんは小学五年生までおねしょをしてたビーム!」


「なんで今ここでその技名!?」


 さっきまでカタカナばっかの格好良さそうな技だったじゃん。

 俺の秘密をなんで暴露したの。


「あっ――」


 ってつい声を出してしまった。

 それと共に胃の中にある空気が溢れ出す。


「げえええええっぷ」


 バヒューンッ!


「うおおおお! これであの娘の勝ちだ!」

「見事だった!」

「おっぱい大きい女の子の勝ちだ!」

「これがおっぱい力の差か……」


 とうとう我慢しきれずゲップが飛び出すも、里奈が放ったダーツがボードに当たる音で俺のゲップは掻き消える。

 ギャラリー達も、俺の秘密含めて気にしている様子はない。

 どうやら尊厳は守られた……と思いたい。


「おい私の胸に文句ある奴は前に出ろ」


 広井はギャラリーの野次が気に入らないようで後ろで騒いでいるおっさん達を睨んでいる。

 おっさん達は一斉に目を逸らした。

 こわいこわい。


「私の勝ちだねっ!」


「里奈先輩、お見事です」


 二人は額の汗を拭いながら青春よろしく握手を交わしいている。

 ダーツでなんでこんな絵面になるんだろう。


 ともあれ、勝負はついた。

 3ゲーム勝負で2ゲーム落としたから結局負けは負けだが、俺がコーラをガブ飲みしたこと以外は問題はない。


 泣きの1ゲームはエリカのリクエストによるものだが、これならエリカも文句は言わないだろう。


「〜〜っ! 飛鳥、コーラを賭けて私と勝負よ!」


「ゲップ我慢しなくていいならいいよ」


 まぁこのくらいならいいだろう。

 エリカと俺は同じ初心者なわけだし、一応の勝負にはなる。

 それでもハンデが欲しいくらいには俺は下手くそだが。


「里奈先輩、もう一回やりましょう!」


「もちろんだよっ! 次は勝ち越すぞー!」


 里奈と広井もまた勝負するようだ。

 広井は練習相手が欲しいと言っていただけあって、同じくらいの実力がある里奈と一緒にできて喜んでいるな。


 こうして俺の罰ゲームはなかったかのように、その後もみんなで遊んだのだった。


 $


「で、飛鳥先輩への罰ゲームはどうしましょうかねー」


 さてそろそろ帰るかとなった時間、広井がこんなことを言い出した。


「もう罰ゲームはしっかりやっただろ。これ以上何をしろと」


「いやいや、私言ったじゃないですか。ゲップを我慢できなかったら別の罰ゲームを考えるって。ちゃんと見てましたよ」


「うぐっ」


 こいつ俺が我慢しきれなくなった瞬間を見ていたのか。

 確かに俺のゲップが出たのは里奈の最後のダーツが刺さる前。

 条件は満たしている。


「うーん、どうしましょうかね〜」


 広井は小悪魔みたいな顔でニヤニヤしながらこちらを見ている。

 いや、実際こいつ半分は悪魔だった。


「それなら私も考えたいっ!」


「里奈はもうダメよ。今度こそ私も一枚噛むわ!」


 近くでは里奈とエリカが必死にアピールしている。

 俺をこれ以上苦しめてどうしようってんだ。


「いえいえ、今回は私に譲ってください。そんな酷いことにはしませんので」


 里奈とエリカは俺を守ろうとして言ってるわけじゃないと思うが、広井は二人を制止する。


「くそっ……そんな邪悪な顔して俺に何をやらせるつもりだ……!」


「失礼ですね!? 至って普通の顔ですよ!」


「悪巧みしてる悪代官みたいな顔してるぞ」


「先輩に言われたくありません!」


 俺だってそんなに変な顔していないぞ。

 爽やか系なつもりだ。

 自分では。


「そうですね。じゃあ先輩への罰ゲームは私のことは咲って呼んでもらうことにしましょう」


「……そんなんでいいの?」


 別に罰ゲームでもなんでもないような。

 あれほど邪悪な顔して考えていた内容とは思えない。

 何か裏があるのでは。


「実は天使な小悪魔咲たんちゅっちゅって呼ばないと返事してくれないとか?」


「それで呼ばれる私の身にもなってください。むしろ返事しませんよ」


「じゃあミドルネームがめちゃくちゃ長くて広井・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアノ・デ・ラ・サンテシマ・トリニダード・ルイス・イ・咲とかでそれを全部言えとか?」


「今言えたことが私的には驚きですけど!?」


 ちなみにこれはピカソのミドルネームである。

 昔暇だったから覚えたんだよな。


「普通に呼んでください。飛鳥先輩に上の名前で呼ばれるのは、なんだかこそばゆいので。これからもお会いすることになるわけですし」


「ふむ、広井――咲がそれでいいならいいけど」


「はい、これからよろしくお願いしますね? 飛鳥先輩」


「お願いするのはこっちだとは思うが、まぁ頼む」


 こうして、俺は広井から魔力について教えてもらうことになったのだった。

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