第15話
ビリヤード店に来た俺達は、ビリヤードと併設されているダーツコーナーで遊ぶことに。
そこにエリカが邪気の残滓を感じたからだ。
決して遊ぶためではない。
「エリカ、二手に分かれちゃったけどどっちが本命なんだ?」
エリカは男女から感じたと言っていた。
男の方は今はダーツをやめてビリヤードの方に移動している。
ターゲットはどちらか一方、あるいは両方なんてこともあるかもな。
「ほ、本命!? そ、そんなの飛鳥だけ……って何言わせんのよ!」
「そういう意味で聞いてないよ」
顔を赤くしてデレたエリカはかわいいが、今はそういう話ではない。
邪気の残滓を感じるのはどちらかと言う話だ。
「女の子の方かしら。うちの学校の生徒よね」
エリカの言う通り、その女の子はうちの制服を着ている。
といっても俺の知った顔ではない。
俺の交友関係は非常に狭いので同じクラスとかじゃないと顔など覚えていないのだ。
二年になってから編入してきたエリカも似たようなものだろう。
「里奈はあの子のこと知ってるか?」
「うーん、私も知らないなぁ。二年の子なら大体分かるから、多分一年生だと思うけど」
友達付き合いをしっかりしている里奈も知らないらしい。
というか二年の女子の大体を把握してるってすごいな。
俺なんて里奈とエリカくらいしかまともに話したことないのに。
俺のぼっち具合はともかくとして、一年生だろうというのは分かる。
というのもこの子は非常に小さいのだ。
背も小さいし、その他の箇所の発育具合も……そんなにって感じだ。
こういう高校三年生もいるかもしれないが、全体的に幼い印象を受ける。
「それより早くダーツやろうよー!」
件の女の子も気にはなるが、これから食事をするならすぐにどこかへ行くこともないだろう。
なのでダーツで遊ぶというのも吝かではない。
「あっくんはやったことないよね? えーちゃんは経験ある?」
「ないわね」
俺がやったことない前提なのは気になるが、事実やったことはないので文句は言うまい。
エリカも未経験のようだ。
「それならやり方教えてあげるからねっ」
「ありがとう。お願いするわ」
「俺はいいや」
確かに俺はダーツなんてやったことはない。
しかし里奈に教えてもらうとなると、手取り足取り教えるついでにあらぬ所まで触ってきそうだから遠慮しておきたい。
それに言ってはなんだが、たかがダーツだろう。
そんなに難しいものではあるまい。
「あ、ダーツを舐めてるね? 結構奥が深いんだよっ」
舐めてるかと言われれば舐めてる。
だってちっちゃい矢を投げて的に当てるだけだぜ?
楽勝ですよそんなもん。
「ま、やってみれば分かるだろ。とりあえず始めようぜ」
「それならまずはカウントアップからかなー」
里奈はそう言うと俺達に百円ずつダーツ台に入れさせて、その後何やら操作してゲームモードを選択する。
「よーしそれじゃ始めよー!」
こうしてゲームが始まった。
$
そして、ゲームは俺の惨敗で幕を閉じた。
ちょっと言い訳をさせてくれ。
「いやー昨日七時間しか寝てないからなー。睡眠不足でつれーわー。本調子じゃねーわー七時間しか寝てないからなー」
「ばっちり寝てるじゃない」
「理想的な睡眠時間だね!」
すみません、ダーツを舐めてました。
的に当てるだけでもこんなに難しいなんて。
高得点を狙う所か、半分くらいは的にも当たらなかった。
エリカは筋がいいのか里奈の教え方が上手いのか、ちゃんと矢を的に当てていたしブルにも当てていたりした。
里奈はもちろん俺達の中でのトップ。
矢が吸い込まれるように何度もブルに当たっていった。
どうやったらあんな風になるんだ。
「もう一回やる?」
「んー、俺は少し疲れたから休憩」
「情けないわね。まだ一回しかやってないじゃない」
そりゃ当たれば楽しいし疲れも感じにくいだろう。
しかしこちとら外しまくってるのであまり面白くはない。
そのせいで余計な運動もさせられる。
「ダーツ拾いしすぎて腰が疲れたんだ」
「あっくんは負けて拗ねてるんだよ。こういう所もかわいいでしょ?」
「ほっとけ」
いやーつれーわー。
ダーツ拾いすぎて腰痛てーわー。
大体百本くらい拾ったかなー。
腰が折れそうだわー。
「私はもうちょっとやろうかしら。楽しいわね、ダーツ」
「お、じゃあ二人でやろー! 次はゼロワンいってみよう!」
女子二人は俺を置いて盛り上がっている。
どうぞどうぞやってくれ。
俺は後ろに下がって椅子に座り、自分が頼んだコーラを飲む。
すぐ近くには高さ三十センチはありそうな大きいグラスに並々と注がれたラブラブコーラがふたつ。
俺は一切手をつけていないし、里奈もエリカもちまちま飲んでいるだけでほとんど減っていない。
どうすんじゃこれ。
「…………」
ふと視線を感じる。
その方向を見てみると、そこには例の女の子がパスタをもりもり食べながら俺を見ていた。
小動物みたいでかわいい。
そういえば当初は邪気の残滓がこの女の子から感じられるってことで、ここに来たんだったな。
も、もちろん忘れてたわけじゃないぞ。
俺が休もうとしたのはそのためなのだ。
「コーラ、好きなんですか?」
おおう、話しかけられてしまった。
こんな時になんて答えればいいんだ。
というか、なぜその質問を。
確かにコーラに囲まれてるが。
「……いや、普通。そっちこそパスタ好きなのか?」
「ここのパスタは美味しいですよ。おすすめメニューです」
確かに美味しそうに見える。
この娘が美味しそう食べるから尚更そう感じる。
「ここは初めてですか?」
「そうだな。あー……」
「広井咲。一年生です」
「俺は二年の一色飛鳥。そういう広井はこなれてるな」
「私は常連ですからね、一応。飛鳥先輩のお噂はかねがね」
どうやら広井は俺のことを知っているらしい。
俺、なにか噂されているのか。
心当たりといえばエリカに並んで厨二ツートップと呼ばれていることくらいしかない。
まさか一年にも流れているとは。
「言っておくが俺は厨二病ではないぞ」
「それもありますけど、色んな女子に手を出してる浮気野郎だとか人知れずハーレムを作ろうとしているとか」
「悪意を感じる噂だなおい」
高校生になってから魅了してしまったのは里奈とエリカくらいだ。
色んなと言われるほど手を出してるわけじゃないぞ。
「あとは実は男が好きだとか」
「その噂を流した奴ぶん殴ってやる」
絶対あいつだろ。
ガヤの中で最後に発言してる奴。
いつか正体を突き止めてやる。
「……実は私のこともハーレムに組み込もうとしてます? さっきからチラチラ見てましたよね」
「そりゃ失礼、同じ学校の奴がいるとは思ってなくてな。一人でも手を焼いてる状態だからこれ以上増やすつもりはないし、できればゼロにしたいくらいだよ」
「……やっぱり男の人が好きなんですか?」
「ちげーよ!」
どうしてそうなる。
俺だって女子にはチヤホヤされたいとは思ってるよ。
それが
このことについては是非丁寧に説明したい所ではあるが、そうもいかないし本題はそこではない。
せっかく向こうから声を掛けてくれたんだ。
このまま聞いてしまおう。
「今日ここに紙袋被ったツインテールって叫ぶタンクトップの男が来なかったか?」
「そんな変態来てたら今頃警察呼んでますよ。急になんですか」
「デスヨネ」
ちょっと質問の仕方を間違えた気がする。
広井の視線が痛い。
とはいえ、この反応ならやはりさっきのツインテール悪魔は来ていないということだろう。
……そうなると、エリカが感じた邪気の残滓ってやつはどこから来たんだ?
そう疑問を持つ俺に、広井は意外な言葉を投げかけてきた。
「先輩、もしかして悪魔をお探しですか?」
あまりにも突然な質問だった。
驚きを隠せないとはこのことか。
まさか初対面の広井からこんなことを聞かれるなんて。
広井は俺の知りたいことを正確に捉えている。
どうして広井が悪魔のことを知っている。
「……そんな噂まで流れてんのか」
思わず話を逸らしてしまう。
「そこの藤宮エリカ先輩がよく悪魔を探しているらしいので。そうかなって」
なんだよ。
そういえばエリカは堂々と悪魔だのなんだの言ってるもんな。
驚いて損した。
「まぁそんな所だ」
「飛鳥先輩的には仲間探しですか? それとも普通に退治するんです。実際あいつら迷惑ですもんね」
ん? やっぱりなんかおかしい。
話が通じているような気がする。
「あいつらのお陰でこっちも迷惑ですよ。変に疑われることが極たま〜にあって」
「いやちょっと待て。疑われるってどういうことだ」
やはり広井は悪魔のことをちゃんと分かっているような口振りだ。
しかし疑われるってどういう意味だ。
俺の質問に広井は目をパチクリさせている。
「あれ? もしかして飛鳥先輩は分かってないんです?」
「一体何の話だ」
「あー、これもしかしてやっちゃったかな……」
「いやだから何の話なんだよ」
広井の話は要領を得ない。
俺と広井の間になんとなく気まずい空気が流れた所で、ダーツをしているはずの里奈が割って入ってくる。
「広井さんもあっくんと同じってことかな。そんな気はしてたんだよねー。あっくんと似た感じがしてたもの」
「うん……まぁご明察です」
「どゆこと?」
俺と同じ?
似てる?
何が?
頭にクエスチョンマークを何個も浮かべている俺に対して、里奈はなんてことないように大きなコーラをストローからゴクゴク飲んでいる。
「つまり、広井さんもあっくんと同じハーフだってことだよ」
「ふーん、ハーフね。あー知ってる知ってる。いい香りがする葉っぱでしょ。確かに俺からもいい匂いするもんな」
「それはハーブね。あと多分あっくんがいい匂いだと思うのは私限定だよ」
「……癒しの音色を奏でるやつ? 確かに俺の声って癒し系だよな」
「それはハープ。あっくんの声で癒されるのも私限定」
「……ってことはつまり?」
ハーブでもハープでもなく。
俺と同じってことは。
広井咲は、人間と悪魔のハーフってこと?
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