4 悪魔な後輩現る! の巻
第13話
魔法少女みこみこエリカはツインテール好きだった悪魔を巫女好きに改宗させて打ち倒した。
トドメの一撃は超能力だとか祓魔師的な能力だとかそんなものではなく、物理的な飛び蹴りだった。
何を言ってるか分からないと思うが俺も何を言ってるか分からない。
いいのかこれで。
ともあれ、緊張感に欠ける戦いはこれで終わった……と思われたのだが。
「まだ終わってないわよ」
「そうなのか?」
エリカは俺の疑問に答えず、すたすたと倒れた悪魔へと歩いていく。
そして悪魔が被っていた紙袋を取り上げる。
出てきたのは普通のお兄さんって感じの顔だ。
モブ顔と言ってもいい。
特徴は特にない。
エリカは取り上げた紙袋をくしゃっと握り潰した。
すると紙袋から何か黒い靄のようなものが漏れていく。
「これは……?」
「端的に言うと、悪魔の本体ね。憑依型の悪魔だったってこと」
「そんな悪魔もいるのか」
エリカは宙に漂う靄を軽く手で振り払うと、黒い靄は最初からなかったかのように消えていった。
「中級悪魔ね。その割には中々のもんだったけど。中の上って所かしら」
その口ぶりから悪魔にも階級があることが伺える。
悪魔の階級ってどう決まるんだろうか。
まさか上級になると変態度が増すとかじゃないだろうな……
「悪魔ってみんなあんな感じなのか?」
「中級悪魔は実態を持たない憑依型が多いわね。上級になると実体を持ってる奴がほとんどだけど」
「下級だと?」
「下級はほとんど現世に現れないわ。現れてもゴミみたいなものよ」
説明するエリカの顔は苦々しい。
エリカは悪魔が嫌いだって言ってたしな。
でも分かる気もする。
悪魔全部がそうじゃないと思いたいが、紙袋被ってタンクトップで性癖叫んで。
そりゃ嫌いにもなるわ。
うちの親父も昔はあんな感じだったんだろうか。
……実の父が紙袋タンクトップなのを想像したら吐きそうになってきた。
ってか実体があるってことは、親父って上級悪魔なのかな。
そういえば、悪魔について親父からそういう話を聞いたことなかった。
あまり興味なかったし、俺も勝手に暴走する悪魔の力が好きじゃなかったし。
極力そういう話題を避けていた。
「えーちゃん!」
「大丈夫、今行くわ」
焦ったような声で里奈がエリカを呼ぶ。
里奈のすぐ近くにはさっきの女の子――ツインテールの呪いにかかった子が倒れていた。
「呪いから解き放たれたことで、意識を失ったんだと思うわ。倒れたこと自体で怪我をしてなければ大丈夫なはず」
「あ、それなら私が受け止めたから大丈夫だと思うよ!」
いつの間に。
さすがは里奈。
さり気ない気を利かせられるデキる女である。
俺なんてこの子の存在を完全に忘れてたよ。
目の前の光景がショッキングすぎて。
「悪魔を倒すと呪いも解かれるんだっけか」
「そうね。この様子だと、おそらく呪いにかかってる時の記憶はなくなるんじゃないかしら」
「そうなのか?」
里奈は何度か俺の呪いにかかっているが、親父に解呪された後は呪いにかかっていた時のことも覚えていた。
過去に里奈以外の女の子を魅了したこともあるのだが、その子も同様だ。
「なんて言えばいいのかしら。要は雑なのよ。呪いにかけるのが」
「というと?」
「雑に呪いをかけるから心身に負担が出る。その呪いが剥がれる時も同じね」
なるほど、分からん。
別に俺も丁寧に呪いをかけてるわけじゃないんだけど。
というか、無意識でやってるから雑も丁寧もない。
ともあれ、その辺はよく分からないしそういうものだと思っておけばいいや。
$
しばらくすると、悪魔が憑依されていたモブのお兄さんとツインテールだった子は目を覚ました。
「お、俺は一体……」
「わ、私は一体……」
二人とも同じように自分に何が起こっていたのか分からない様子で辺りをキョロキョロと見渡す。
そしてツインテールにしたままの里奈を見て、こう言った。
「「ツインテール……うっ、頭が」」
しっかりトラウマになってんじゃねーか。
かわいそうに。
ツインテール、俺はいいと思いますよ。
でもとりあえず里奈は髪型もとに戻しておこうな。
起きた二人にはいつの間にか制服姿に戻ったエリカがなんやかんやと説明していた。
きっとご都合のよろしい感じで言っておいたのだと思う。
二人とも自分が気絶していたことに戦々恐々といった感じではあったが、これは仕方ないだろう。
理由がなんであれ気が付いたら自分が外で寝てたとか恐怖以外の何者でもない。
ちなみにお兄さんの方はタンクトップであることにもビックリしていた。
うん、そうだよね。
ともあれ、こうして事件は本当に終わったのである。
「しかし、どうしたもんかなぁ」
事件は終わったわけだが、まだ片付いていない問題がある。
「あっくんどうしたの? 両生類みたいな顔して」
「オオサンショウウオの子どもみたいな顔してるわよ」
「誰がウーパールーパーじゃ」
ちょっと真面目な顔しただけだよ。
二人ともほんとに魅了されてる?
もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃないの。
「いや、元々俺がここについてきた目的について考えててな」
「……ああ、悪魔退治デートだったわね。ま、まぁそれなりに楽しめたわ」
「違うよ。ってか楽しかったのかよ」
面白いものは見れたけど、楽しい要素なんてこれっぽっちもなかったよ。
紙袋被ったタンクトップの男がいる時点でもうデートとして成立しないだろ。
「悪魔が魔力を使ってる所を見るのが目的な」
「あっくん、何か分かった?」
「全然。ってか肉弾戦ばっかで何を参考にすりゃいいのかって感じだったわ」
悪魔が使っていた技らしい技といえばツインテールタックルにツインテールパンチくらいだ。
つまりただの体当たりとパンチだ。
俺にもできる。
「奴の攻撃には呪いが込められていたわよ」
「え、そうなのか」
「あれをまともに食らっていたら私もツインテールになっていたわ。危ないところだった……」
「そんな神妙な顔しなくても別によくね?」
自分からツインテールになろうとしてたじゃん。
全然シリアスになる必要ないよ。
毒とかじゃあるまいし。
「確かになんか嫌な雰囲気あったねー」
「里奈は奴の魔力を感じ取ってたのね」
「うん、なんかモヤモヤ〜ってしたよ」
「マジかよ。俺は全然分からなかった」
里奈も祓魔師である大聖さんの子どもだしなぁ。
母親の香織さんも悪魔と戦ったことあるって言ってたし祓魔師なんだろう。
実は祓魔師のサラブレッドだな。
だから魔力を感じることができるのかもしれない。
「うぐぐぐ……俺も親は悪魔なんだがなぁ」
「悪魔と人間では扱う力の根源が違うのよ。ハーフならそれが入り乱れてしまって簡単に扱うのは難しいかもしれないわね」
「……親父もそんなこと言ってたな」
人間と悪魔の力は基本的に相反するらしい。
理由の部分は小難しくてあまり覚えていないが、俺は人間としての帰属意識が強いから魔力はうんちゃらかんちゃら言ってた。
でも待てよ……?
「俺が祓魔師になるという手もあるんじゃないか?」
悪魔としてうまく力が使えないのであれば、人間として力を使えるようになるという手もあるのではないか。
魔法少女になるのは勘弁だが、大聖さんが祓魔師である以上は男の祓魔師もいるはずだ。
まさか大聖さんが魔法少女、もとい魔法おっさんに変身するわけがない。
……ないよな?
「解呪は高等技術ってパパが言ってなかったっけ?」
「でも自分でかけた呪いを解くのは難しくないとも言ってたぜ?」
「悪魔の力でかけた呪いを、その本人が祓魔師の力で解くって聞いたことはないけど……さっき言ったように力の根源が違うから他者の呪いとして扱われるんじゃないかしら」
「我が事ながらややこしいな」
「例外すぎて実際の所はわからないけど、他者の呪い扱いなら今から修行しても何十年もかかるわね」
それなら俺が祓魔師流の解呪を習得するよりも親父が出張から帰ってくる方が早い。
将来的には親父に頼らず済むようにしたいが、かける時間に反してリターンが見合ってるかと言われると微妙だ。
エリカの推測が間違ってないとも言えないが……
「私は悪魔の力を制御できるようにした方がいいと思うわよ。呪いを掛けられるなら、魔力を扱う素養自体はあるんじゃないかしら」
「くそぅ……やっぱそれが近道なのか」
中々結果が出ないが、エリカの言っていることは道理である。
「千里の道も一歩からよ。一緒に頑張りましょ」
「エリカ……ありがとな」
「ふ、ふん! これ以上飛鳥の犠牲者を増やさないためよ!」
相変わらずのツンっぷりだが、これが本心でないことくらいは俺にも分かる。
「たまには素直に応援してくれてもいいんだぜ……」
「いや、本心だけど。人の気持ちを勝手に変えるなんて許されることじゃないわよ。里奈がかわいそうでしょ」
「私は呪いにかかってるわけじゃないけど、気持ちを塗り替えるのは鬼畜だとは思うよ! えーちゃんがかわいそうだよ!」
「すみませんでしたぁ!」
そう言われたらぐうの音も出ない。
できるだけ早く二人とも解呪してやるからな。
二人ともかわいそうだよな。
申し訳ねえ。
「ともかく、引き続き地道に調べたり修行していくしかないわね」
「おうよ。これからももし悪魔退治に行くなら一緒に行かせてもらってもいいか? 悪魔がちゃんと魔力を使ってるってんならやっぱり参考になるかもしれないしな」
「いいわよ。なら、この後もついてくる?」
この後?
まさか、まだ何かあるんだろうか。
「近くに邪気の残滓があるのよ。念のため確認しておくわ。おそらくさっきの悪魔のものだと思うけど、別の悪魔かもしれないし」
「そうなのか。ならついていってもいいだろうか。里奈はどうする?」
「あっくんが行くなら私も行く!」
「決まりね。こっちの方よ」
こうして、俺達は再びエリカの後ろについて進んでいった。
さっきのような緊急性はないようで、エリカはゆっくり歩いて進んでいく。
多少の雑談を交えつつ、学校近くの街道を進んだ。
しばらく歩くとエリカの足が止まる。
「……ここか?」
「そうね。間違いないわ」
そこは木製の看板が立て掛けられたお店だ。
看板にはカラフルなボールがいくつか描かれている。
かなり昔に作られたのか塗装が剥げていたり黒ずんでいる箇所がちらほらある。
「なんかレトロだけどお洒落な場所だねー」
「そりゃそうだが。ここは……」
着いた場所は、ビリヤード場だった。
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