第12話
学校の近くに現れた悪魔と対峙するエリカ。
魔力を増幅させているらしい悪魔に対抗するため、エリカは何かを制服のポケットから取り出す。
これは……手鏡?
いや、コンパクトか。
エリカは手のひらサイズのコンパクトをパカッと開け、そして口を開く。
「テクテクマヤコムテクテクマヤコム!」
なんだこの呪文のような言葉。
どこかで聞いたようなフレーズだ。
「エリーカフラッシュ!!」
それも聞いたことがある。
なんというかチョイスが古い。
これパクっ……もとい、オマージュなんじゃないの。
コンパクトのやつも、ひみつのアレだな?
色んな意味で大丈夫なのかこれ。
そんな俺の胸中は知ることもなく、エリカはコンパクトを天に掲げる。
「変! 身!」
「ぬおおお!?」
なんだこれは。
エリカが光の靄みたいなものに包まれていく。
光の中で何かが起こっている。
いつの間にかエリカは制服から解き放たれ、白い素肌が俺の目に飛び込んでくる。
しかし大事な所は光の靄で隠されて見えない。
くそっ! 邪魔な靄だな!
あともうちょっとなのに!
これはこれでエロいがやはり直接見たい!
「あっくん! これは見ちゃダメ!」
「くそぉ! 里奈! 邪魔するなぁ!」
「帰ったら私の見せてあげるから!」
「そうじゃない! これは男のロマンなんだ!」
魔法少女の変身シーンにロマンを覚えない男がいるだろうか。
「魔法少女の変身シーンは色々な意味での見せ場なんだ! 普段はか弱い女の子が変身するというカタルシス、これから戦うという高揚感、そして単純にかっこいい! あとサービス的な意味で男にはたまらないんだ!」
「そんな熱弁されるとさすがの私もそれはちょっと引くよ!?」
「知ったことか!」
男にロマンを捨てろというのは無理な話なのである。
「見ろ! あの悪魔もエリカの変身シーンに釘付けだぞ!」
エリカの対面に位置する悪魔も光の靄をどうにか避けようとしきりに視点を移動させている。
俊敏な動きだ。
胸筋をピクピクさせながら上下左右に身体を動かしている。
「この隙に攻撃とかしないのかな。というか動きが気持ち悪いね」
「変身シーン中に攻撃するのはマナー違反だ。動きが気持ち悪いのは同意するが」
「裸の女の子を凝視するのはモラルに欠けてると思うよ。あとあっくんもさっきあんな感じだったよ」
いやいやそんなバカな。
あんな人外じみた動きを俺ができるわけがないじゃないか。
「というか、あっくんはツッコミいれないの?」
「何にだ」
「えーちゃんの変身に。いつもなら唾飛ばして色々言うのに」
「ああ……うん、なんかもういいや」
変身シーンでそれどころじゃなくなってしまった。
唾を飛ばしてたのは悪かったな。
いやほんとは色々あるよ。
変身前のあの呪文必要だったのかとか、着てた服どこ行ったのかとか、都合よく現れた光の靄はなんなんだとか。
なにより変身に時間かけすぎだろ。
俺と里奈でどれだけやり取りしてるんだよ。
そう思っていた矢先、光の靄が徐々に薄くなってくる。
やっと変身が終わったようだ。
しかし
ぶっちゃけ祓魔師が変身するイメージとか全くないが、まぁヒーローやヒロインが変身すること自体はよくある話といえばよくある話だ。
創作の世界なら。
一体どんな変身を……
エリカの衣装は当然制服から別のものになっている。
赤いフリフリのミニスカートに上は白い……掛襟の服。
これは祓魔師というより神社にいるあの――
「魔法少女みこみこエリカ! 神に変わってお仕置よ!」
「まさかの巫女さん!? お前もう祓魔師名乗るのやめろよ!」
「いきなり喧嘩売ってんのあんた!?」
だって自分で巫女って言っちゃってるじゃん。
魔法少女か巫女かのどっちかじゃん。
少なくとも口上に祓魔師要素なかったじゃん。
もういいやってなってたけど、さすがにこれは無視できないわ。
「うおおおおお! 巫女さん萌ええええ!」
悪魔にも巫女さん判定されてるし。
というかお前はツインテール推しじゃなかったのかよ。
「どこからどう見ても祓魔師でしょうが!」
「どこからどう見ても巫女さんだよ。百歩譲っても魔法少女か巫女さんかの二択だよ」
確かに衣装は神社にいる巫女さんの服からアレンジされてる。
ミニスカートだし上着も肩とか見えてるし。
清潔感がありつつも、かわいらしくて動きやすそうだし色気もある。
こういうのもいいと思う。
これを着てるのが自称祓魔師じゃなければ。
でも祓魔師って名前からして西洋系の衣装じゃないとダメだろ。
「ちゃんと神に変わってって言ってるじゃない!」
「神社で祀ってるのも神様だな」
というか、そ決めゼリフもパクリじゃん。
セーラー服着た美少女戦士が言ってるセリフだよ。
色々とアウトだよ。
ちなみにうちの高校はブレザーなのでエリカにはセーラー服要素もない。
「隙ありぃ! ツインテールタックル!」
「くっ! 危ないわね!」
俺と言い争いをしている所を悪魔に狙われてしまった。
エリカはそれをすんでのところでヒラリと躱す。
短いスカートもヒラリと舞うが、補正がかかっているかのようにギリギリの所でその中は見えない。
そういえば悪魔と戦うんだったな。
もうすっかり忘れてたよ。
「まだまだぁ! ツインテールパンチ!」
「甘いわっ!」
悪魔とエリカの攻防が始まった。
攻めるのは悪魔。
屈強な肉体を用いて荒々しい攻撃を繰り出していく。
ひとつひとつの攻撃が重そうで、華奢なエリカがまともに食らったらかなりのダメージになりそうだ。
あと技名がものすごくダサい。
ツインテール関係ないやろ。
エリカはそれらを技で捌く。
最小限の動きで攻撃を紙一重で躱している。
まるで宙に舞う木の葉のように掴み所がない。
「…………っ」
息の詰まる攻防。
固唾を飲みながら食い入るように見てしまう。
でもさ、ちょっと言いたいことがあるんだけど。
「はあっ!」
「ていやっ!」
君達なんで肉弾戦やってるの?
悪魔と祓魔師なんだからもうちょっと何かあるでしょ。
エリカに至ってはなんで変身したの?
武器も魔法も使ってないじゃん。
純粋な体術だけで戦ってるじゃん。
「ここよっ!」
「ぐああっ!!」
エリカは大振りのツインテールパンチを避けると同時に悪魔の腕を掴んで一本背負い。
悪魔は背中からエリカの足元に叩きつけられる。
下はコンクリートだからものすごく痛そう。
しかし悪魔はまだ動けるようだ。
「ぐっ……中々やるな……! しかしパンツは見えたぞ!」
「ぶっ殺す!」
「うおおおお!?」
激昂したエリカの拳が悪魔めがけて振り下ろされる。
悪魔はそれを転がりながら避けると代わりにコンクリートに砕け散った。
文字通り、エリカの拳がコンクリートに突き刺さっている。
「うわー! えーちゃんすごーい!」
里奈もその威力に驚いている。
変身することでエリカのパワーが増したのだろうか。
実は変身に意味があったのかもしれない。
はやくそういう所見せてよ。
魔法的な戦いの方が見たいけど。
「あんたは握り潰して踏み潰して磨り潰してから殺してやるわ」
「そうはいかない! 俺にはツインテールで世界を埋め尽くすという野望があるのだ! いくら巫女さん相手だろうとも俺が諦めることはない!」
「そんなクソみたいな望みが叶うことはないわよ。覚悟しなさい」
エリカは跪く悪魔にじりじりと近づいていく。
ものすごい迫力だ。
正義と悪の立場が逆転しているような気もしなくないが気にしないことにする。
それを言うと俺がエリカに潰されそう。
「ぐっ……ツインテールよ! 俺に力を分けてくれ!」
悪魔はそう言うと両手を上に掲げる。
エリカはすかさず悪魔に駆け寄り横蹴りを放った。
「汚らしい腋を見せるんじゃないわよ!」
「うほぉっ!」
確かにまったく処理されていない腋だったな。
男なんてあんなもんだとは思うが、まぁ女の子からしたらあんま見たいものでもないだろうな。
俺も紙袋被った変態の腋毛なんて見たくはない。
さて、悪魔はここからどうする。
何か技でも出しそうな雰囲気だったが……
そう思って悪魔の方を見てみると、悪魔の様子が何かおかしい。
「おかしい……ツインテールパワーが抜けていく……何故だ……」
悪魔は自分の両手を見ながら呆然としている。
一体何が起こったんだ。
「みこみこなえーちゃんに浮気したからじゃないかなー。なんか蹴られた時微妙に嬉しそうだったし」
「ふんっ。悪魔に好かれても嬉しくないわね」
つまり、浮気した分だけツインテールへの愛が薄れていって、結果ツインテールパワーが減ったと。
なんだそれ。
「そ、そんな……俺のツインテール愛が……」
「さあ観念なさいっ。行くわよ!」
するとエリカは天高く飛ぶ。
俺の頭の位置よりもかなり高く、太陽を背にして構えた。
その所為で俺からは逆光になっていてスカートの中身は見えない。
くそっ! なんで俺には見えないんだ!
「みこみこキーック!」
「ぬおわあああああ!! 巫女さんばんざああああああああい!!」
エリカの飛び蹴りが悪魔に命中する。
悪魔は大袈裟に吹っ飛び、そしてそのまま地面に伏してピクリとも動かなくなった。
見事な勝利である。
非常に喜ばしい。
でもな、これだけは言わせてくれ。
最後まで肉弾戦なのかよ!
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