2 襲来! 美少女エクソシスト! の巻
第5話
雨の中里奈と登校するという中々にハードな試練を越え、疲れた状態で授業を受ける。
途中、雨が止んで教室に昼の日差しが差し込もうが一度落ち込んだテンションが戻るわけでもなく、授業はいつもよりも長く感じられた。
眠気と戦いながら午前の授業を乗り越えて、ようやくこの時間がやってきた。
「んんー、やっと昼休みかー」
凝り固まった身体をほぐすために伸びをする。
昨日は里奈に呼び出されたからあまりゆっくりと過ごせなかった。
今日はゆるりと昼飯を食いたい。
「あっくん、お弁当作ってきたから食べよー!」
「本当に作ってきたのか」
そういえば昨日、里奈から作ってこようかと言われていたな。
朝飯も作ってくれた上に弁当まで作ってもらうとか頭が上がらん。
「あっくんの好きなタコさんウインナー入れてあるよ! あとハンバーグも!」
「それは嬉しいが人目のある所で言うのはやめてくれ」
子ども舌なのがクラスの連中にバレる。
ただでさえ色んな意味で目立つ里奈が俺にこうして話しかけていることで注目を浴びているのに。
ほら、こんな声が聞こえてくる。
「ちくしょう……どうして一色ばかり……」
「なんであんな厨二のことを……!」
「俺達のアイドルがぁ!」
「里奈たんの手料理hshs」
「おっぱい揉みたい」
「俺も一色のこと狙ってたのに!」
最後だけなんかおかしいな?
いや、聞き間違いか。
聞き間違いだな。
そういうことにしておこう。
「とりあえず場所移そうぜ」
ここだと落ち着いて飯も食えそうにない。
「分かった! 人気のない所に連れ込んでくれるんだね!」
「人聞きの悪い言い方だな!? 連れ込むつもりもないし!」
ってかこの学校に人気のない所ってどこやねん。
体育館の倉庫とかだろうか。
いや、体育館は運動部の連中が自主練で使ってたりもするしな。
あそこも人はそれなりにいるだろう。
「ま、とりあえず屋上にでも行くか」
「はーい」
今日は朝から雨だったが座れる所くらいはあるはずだ。
屋上も居心地がいい場所ではないんだが、クラスで飯食うよりはマシだ。
学食は混んでるから持ち込みだけだと嫌な目で見られるし。
俺は二人分の荷物を持っている里奈を引き連れて屋上へと向かった。
「ってか荷物持たせて悪いな。持つよ」
「ありがとう、優しいね?」
「むしろ朝言ってくれれば持ったのに」
さっき弁当を出したということは、里奈は俺の弁当を持って登校したということになるわけで。
そこまでしてもらうのは普通に申し訳ない。
「だってあっくんが早弁しちゃうかもしれないし、二人分先に食べちゃうかもしれないし」
「俺を食いしん坊キャラにすんな」
そうじゃないのは里奈も知ってるだろ。
「ほんとは、この方がラブコメっぽいかなって」
「自分でコメディって言っちゃうのかよ」
いいのかそれで。
ってかこっちが本命の理由なのか。
確かによくあるシチュエーションだとは思うけど。
ともあれ、こうして里奈と駄べりながら階段を登っていくと屋上に着く。
まだチラホラ濡れている所はあるが、座れそうな所はあるな。
同じように弁当を持参して昼飯を食べてる人も何人かいる。
うちの屋上は生徒に解放されており、割と人気のスポットだ。
人気がないなんてことはない。
え? 昨日里奈に告白された時は人はいなかったのかって?
いたよ。
バッチリと。
もはや里奈が俺に気があることは周知の事実なのである。
その原因が俺がインキュバスのハーフであることまでは公にしてないが。
ええ? 昨日そのことを大声で話してたって?
ははっ、まっさかぁ。
そんなこと言うわけないじゃあないか。
俺が悪魔と人間のハーフってことは里奈以外には内緒にしていることだ。
まさかその場の勢いで人がいる場所で内緒の話をするわけもない。
「ね、ねぇ……また一色君と高石さんが来たよ」
「また告白タイムか?」
「今日はどんな厨二的理由で断るんだろう」
「高石もよく一色のアレに付き合うよなぁ……」
「俺も一色に告白しちゃおっかなぁ」
おい誰だ最後の奴。
さっきもいたな。
クラスの誰かだろ。
とにかく、俺の秘密は公にはなっていないのだ。
「あっくん、ここ空いてるよー」
里奈が乾いてる場所を見繕ってくれた。
ここなら二人余裕で座れるだろう。
俺は里奈が余裕を持って座れるようにスペースを空けてそこに座る。
そして、里奈はその雄大な空間を俺の隣でこじんまりと使った。
「近いよ。もうちょっとスペース広く使えよ」
「あっくんの近くがいいんだもん」
「いいからもうちょい離れてくれ」
俺は里奈を肩で押してスペースを確保しようとする。
「このくらい近い方が恋人っぽいよ!」
「恋人じゃないわ!」
しかし里奈も負けじと俺の肩を押す。
危ない危ない。
余裕のある里奈と違って俺は少し動けば濡れてる場所に行ってしまうのだ。
「おまっ、このやろっ!」
「押し合いだねっ。えいっえいっ」
そのまま何故か里奈と俺の肩で押し合いが始まった。
俺の肩がぶつかる度に里奈は少しよろめくが、すぐに体勢を立て直して反撃してくる。
そしてその時に里奈の大きな胸が揺れる。
ぶるんぶるん揺れる。
まるでプリンのようだ。
薄いシャツ越しだが、だからこそ素晴らしい眺めである。
里奈の肩も細くて押されてるというよりは突かれているようでくすぐったい。
ツボを突かれて少し気持ちいいくらいだ。
ずっと続けていたい。
いやいや、これはまずい。
なんか変な気になってくる。
「ストップ! ストーップ!!」
「えー、これから必殺技出そうとしてたのに」
「必殺技なんてあんの!?」
ただの押し合いでどうしてそんなものが出てくるのか。
というか、目的おかしいよ。
俺はただ広く座りたいだけなんだよ。
「まぁいいや、とりあえず飯食うか……」
「そうしよそうしよ」
里奈との距離は近いままだが仕方ない。
ひとまず俺は里奈から預かっていた弁当箱を取り出して、小さい方を里奈へと渡す。
「あ、逆だよ。大きい方が私の」
「お前こんなに食べないだろ」
二つある弁当箱のサイズは倍くらい違う。
大きい方は俺でもこんなに食べるかどうか、というサイズだ。
小さい方では逆に全然足らない。
ちなみに小さい方を開けてみると……
「米しかないじゃん」
「うん、そっちはご飯だけ。おかずはこっちの大きい方に入ってるよ」
「作ってもらっておいてなんだが、面倒な作り方したな」
俺がおかずを食べるなら里奈の弁当箱を突く形になる。
別に里奈とならそれでも気にはしないが、米とおかずは同じ弁当箱に入ってくれてた方がありがたいのは間違いない。
「おかずは私が全部あーんして食べさせてあげるからねっ」
「本当に面倒だな!」
飯くらい自分で食べたいよ。
「はい、あーん」
「……あむっ」
とはいえ、差し出されたら普通に食べてしまう自分もいる。
くそっ、身体は正直だぜ……
そして里奈の料理はやっぱりおいしい。
タコさんウインナー最高。
そんなこんなで里奈から差し出される品に舌鼓を打ちながら昼食を頂いた。
「ふぅ、ご馳走様。うまかった」
「えへへ、お粗末様でした」
結局ほとんどのおかずを里奈から食べさせてもらい、ゆっくりとだが食べきるに至った。
いつもならもうちょい早く食べ終わるのだが、自分で食べなければそりゃこうなる。
もう昼休みも終わる時間だ。
弁当箱と箸を片付けそろそろ教室に戻ろうとしていると、この時間にも関わらず校舎から一人女の子がやってきた。
「おかしい……確かに邪気を感じたのに……」
その子は屋上に出てきて開口一番こんなことを言い出した。
何言ってんだこいつ。
女の子は何かを探すようにしばらく周囲をきょろきょろすると、やがてこちらにやってくる。
「すみません、この辺に悪魔がいませんでしたか?」
こ、これはなんて答えればいいんだ。
悪魔なんているわけないじゃん。
あ、いや俺半分悪魔だわ。
でもこの子はそんなこと知らないしな。
あれか、ごっこ遊びみたいなもんか。
それなら付き合ってやろう。
「くっ……! 奴はここで大暴れした後に西に向かった!」
「なんですって!?」
俺は負傷したっぽい演技をしてみた。
そしたら相手も迫真の演技で返してくる。
中々やるな。
「はっ、貴方怪我をしているのでは!」
「へへ……このくらいなんともねぇよ……」
「でも!」
「大丈夫だ! 俺に構わず行ってくれ!」
「くっ……! 悪魔め、許さないわよ!」
これだけ言って、謎の女の子は校舎へと駆け戻って行った。
「むー。あっくん、いつの間に藤宮さんと仲良くなったの?」
女の子が見えなくなると、隣で里奈が頬を膨らませている。
あの子の名前、藤宮って言うのか。
「余裕で初絡みだ。名前も知らん」
「それでよくあんなふざけたこと言えたね!?」
「俺にかかればこんなもんよ」
普段はツッコミに回ることが多いが、ボケだってできるんだぜ。
「で、あの藤宮さんって誰なんだ。里奈の知り合いか?」
「隣のクラスの子だよ。藤宮エリカさん。二年になってから転入してきた。可愛くて結構噂になってたし、今も色んな意味で有名だよ。知らないの?」
「そんな噂聞いたこともない」
高校生の転入ってのも珍しいもんな。
そりゃ当時は噂になるだろう。
でも俺には友達なんていないのだ。
俺の学校情報の九割は里奈からの情報だからな。
でも、今も有名なのか。
確かに美人だったな。
しかしそれだけなら色んな意味でって枕言葉はつかないか。
「その藤宮さんってのは何で有名なんだ?」
「えっとね、あっくんが厨二ツートップの一角って言われてるのは知ってるでしょ?」
「知ってるけど、いきなりどうした」
「そのもう一人が藤宮さんなんだよ」
そういや邪気がどうとか悪魔がどうとか言ってたな。
そりゃ厨二って言われても仕方ないわ。
微妙に厨二からズレてる気もするが、まぁ分かる。
いや、でも待てよ?
俺があの子と同列なのかよ。
……嘘やろ。
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