第22話 式神との戦い2
犬神山。
花奈は少し離れたところから、椿たちを含む一帯を花の嵐で包み込んだ。
「——伊月、1体ずつ確実に仕留めるよ。背後を狙い撃ちしたいから、誰かの背後に転移させて」
「はい!」
伊月は、少し離れた位置に立っていた楓を最初のターゲットに決めた。
「移動します!」
伊月の掛け声の直後、花奈たちは楓の背後に転移した。
楓は花の嵐で視界を広げようと必死になっており、花奈たちに気づいていない。
花奈は左手の剣を素早く鞘に収め、背後から楓の頭を鷲掴みする。
「——がっ」
楓が焦りの声を出したと同時に、花奈は憑依解除術を直接手から楓の頭に送り込んだ。
すると——。
花奈の術によって、楓の本体が人間の男の体からするりと抜けだす。
花奈はすぐに右手の剣でそれを突き刺して逃亡を防ぎ、鞘から抜いた左手の短剣で切り刻んだ。
「——姉上! 人が2人、結界に侵入! まさか、あれは……」
伊月は途中で言葉を詰まらせた。
「伊月、どうしたの?」
伊月の声色が明らかに動揺していたので、花奈は問い詰める。
「あ……父上が……。あと、もう1人はこの世界の人です——」
「——うそだ……」
伊月の言葉を聞き終わる前に、花奈はもう1人の人物が誰かをすぐに理解した。
よく知る強大な妖力を感じ取っていたからだ。
『姫様、モモが——』
『——ママ!』
イチの知らせと同時に、モモが花奈の前に現れた。
『モモ!』
花奈は慌てて左手の短剣を鞘に収め、その腕でモモを抱き寄せた。
「伊月、状況確認をお願い。私は自分の式神と少し話をしたい」
「はい!」
花奈は視線を伊月からモモへ移し、念話を始める。
『モモ、ゆうちゃんはどうしたの? 眠っていたはずだよね?』
『ごめんなさい。パパが急に起きて外に出ちゃったの。その時に外で倒れてた人を見つけて小屋の中に運ぼうとしてたら、パパがいなくなってて。すぐに見つけてパパの中に入ろうとしたけど、弾かれたの!』
『パパの中に誰かいるの?』
『わからない』
『教えてくれてありがとう。私がどうにかする。モモは隙を見つけてゆうちゃんの中へ入って』
『うん! パパのところに行ってくる!』
モモは夕翔の元へ急いだ。
「伊月、状況は?」
花奈は、怒りで体を震わせながら伊月に問いかけた。
険しい表情で伊月は重い口を開く。
「残り2体の式神は、最初に憑依していた人から抜け、父上ともう1人の人に取り憑いています。……父上は妖魔化が進行中。もう1人の詳しい状態はわかりません」
『姫様、どうかお心を平静に——』
花奈の異変を察知して、イチは話しかけるが……。
すでにイチの言葉は、花奈の耳にも心にも届いていなかった。
「——あいつら……ゆるせない……」
花奈の目は血走っていた。
怒りと憎しみの感情が花奈の中で一気に膨れ上がり、爆発する。
先ほどはどうにか感情を抑えこんだが、今は完全に限界を超えてしまっていた。
——二度モゆうちゃんヲ……母ウエだけでナク、父ウエ……マデ……。
花奈は、怒りに任せて花の嵐を暴走させる。
『——姫様! どうか抑えてください! このままでは山が消滅してしまいます!』
イチは必死に呼びかけるが……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛——」
白目をむいた花奈は天を見上げ、口を大きく開いて苦痛の声を漏らしていた。
そして、花奈の力が暴走した結果、結界にヒビが入り、木々がなぎ倒され、地面が揺れる。
「——これは!? 姉上! どうか落ち着いて!」
『姫様!』
「姉上!」
花奈の両肩に座る伊月とイチは必死に呼びかける。
『ダメだ……我を失っている。ミツ、姫様の体内を調べてくれ! フウは姫様と伊月様の結界を維持! ヨツは脆くなった結界の修復と強化を!』
『はい!』
『了解よ!』
『わかりました!』
イチの指示で花奈の式神3体はすぐさま行動に移った。
『来たか……』
前方から笑みを浮かべながら近づいてくる男へ、イチは鋭い視線を向けた。
その男は国王の体を乗っ取った椿。
その背後には、操り人形のようにおぼつかない足取りで歩く夕翔がいた。
「——ここにおられましたか。花奈様、お迎えに参りましたよ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛——」
花奈はその声掛けにも班のせず、ずっと天を見上げている。
「怒りで我を忘れていますね……はははっ」
椿と葵は笑みを浮かべていた。
伊月を見向きもしない椿の言葉とその様子に、伊月はあることを推測する。
——国王の式神たちの目的は、最初から姉上……。姉上のこの状態は、式神の術が原因……? あの背後の男、どこか姉上と妖力が似ている……まさか、あれで操っているのでは? ならば……。
「——伊月様、勝手な振る舞いは許しませんよ?」
「なに!?」
葵は夕翔の妖力を使って、結界で守られていたはずの伊月を花奈から隔離した。
「はははっ、すごいな! 桁違いの妖力だ。これはいい!」
葵は嬉しそうに笑っていた。
『——イチ! 姫様が乗っ取られ始めている……』
花奈の体を調べていたミツからの報告に、イチは焦りをにじませた。
『モモ! 姫様の体を使え! そうすれば、夕翔様も助かるかもしれん!』
イチは、必死に夕翔に呼びかけていたモモへ叫んだ。
『わかった!』
急いでイチの前に移動したモモは、そう答えた。
『姫様と夕翔様を頼ん——』
イチは言葉の途中でモモの前から消えた。
同時に、フウ、ミツ、ヨツも消えてしまう。
『ママ、モモ頑張るよ!』
モモはそう言うと、花奈の中へ入り込んだ。
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