第15話 裏技
夕翔の家、リビング。
「——知識はあっても、なかなか1人だとうまくいかないんだな……」
うまく妖術を使いこなせない夕翔は、肩を落とした。
約1週間、花奈は毎日家で夕翔に妖術の練習をさせていた。
国王の式神がいつ襲ってくるかわからない今、できるだけ早く夕翔に防衛術を学んでもらいたかったからだ。
「妖術がない世界で暮らしてるから、想像力に欠けてるのかもね……」
花奈は腕を組みながら、どうすべきか考える。
「アニメとか映画みたいにかっこよく魔法を繰り出してみたい、って思うのがダメなのかな?」
花奈は昨日見たロボットアニメを思い出し、口角を上げた。
「ゆうちゃん、それいいかも! モモ、おいで〜」
『はーい!』
夕翔の右肩に座っていたモモは、嬉しそうに花奈の胸に飛び込んだ。
「モモ、ゆうちゃんの中に入って」
『はーい!』
モモはするりと夕翔の中へ入り込んだ。
「え!? 何しようとしてるんだ?」
夕翔は慌てていた。
「いいこと思いついたの。試してみるから今はそのままじっとしててね」
花奈は夕翔にウインクした。
「はあ……不安だな……」
「大丈夫だって! モモ、聞こえる?」
『聞こえるー!』
夕翔の口からモモの声が発せられた。
夕翔は慌てて口を押さえる。
「ちょ……、俺の声がモモだったよな?」
夕翔は自分の声を確認するために声を出した。
「念話にすればモモの声は出ないよ。今はわざと声を出してもらってるだけ」
「俺の式神なのに、花奈が制御してるよな……?」
「だって、半分は私の式神だからね〜。私たちの子供でもあるんだし」
「そうなんだけど……」
——モモを使って変ないたずらされたりしそうなんだよな……。
夕翔は不安を募らせる。
「モモ、ゆうちゃんの両手をあげて」
『はーい』
「うわっ!?」
夕翔の両手は勝手に上に上がった。
「次はその場で駆け足!」
『はーい!』
夕翔は軽快に動き始める。
1人で走ってる時とは別人のように動きがスムーズだ。
「次は、私が投げる玉を受け取って、投げ返して」
『はーい!』
花奈は紙玉を夕翔へ投げる。
——俺がキャッチできるわけ……え!?
考える前に体が勝手に反応し、夕翔は難なくキャッチできた。
そして、軽々と片手で投げ返す。
「花奈! 俺、運動神経良くなってる!」
夕翔は嬉しそうに花奈に話しかけた。
「そうだね。モモがゆうちゃんの体を動かしてるからだよ。じゃあ、次はゆうちゃんの周りに結界を出してみようか?」
『はーい!』
モモは夕翔の周りに結界を瞬時に張った。
「俺の妖力で結界張ったよな? こんなに早く張れなかったのに……」
「思った通り。私って天才だな〜」
花奈は腰に手を当て、不敵な笑みを浮かべた。
「ちゃんと説明してくれよな?」
「もちろん! アニメからヒントを得たんだよ。ロボットに人が入って操縦しているアニメ、昨日一緒に見たでしょ?」
「あー、そういうことか。ふっ……、確かに天才だよ」
夕翔は笑いながら花奈を褒めた。
「えへへ〜。ゆうちゃんの意識が残ったままでモモが制御できるか心配だったけど、大丈夫だね。イツがずっとゆうちゃんの中にいたことが要因かも」
「こういうことやる人は、花奈の世界にいないのか?」
「必要ないからいないよ。高度な術者にならないと式神は普通召喚できないからね。まあ、あとは術者自体が嫌がると思うよ」
「なんで? すごくいい方法だと思うけど?」
夕翔は首を傾げた。
「意識がない状態で自分の体が勝手に動くのは嫌でしょ? ゆうちゃん以外はそうなると思うよ。式神は使役するものであって、使役されるものではない、っていう考えが常識だから」
「そっか……俺はそういう常識はわからないからなー」
「先入観がないのは意外と大切なのかもね」
「自分1人だと妖術がうまく使いこなせないし、この方が助かるよ。体の動きもありえないくらいに良かったし。あ、でも、モモが俺の中にいる時、勝手に変な指示出すなよ?」
花奈はわざと目をそらした。
「ゆうちゃんが私を大切にしなかったらするかも〜」
「勘弁してくれよ……」
「ふふふっ」
「さて、腹減ったし夜ご飯つくるかー」
「うん! モモ、もう出てきていいよ〜」
『はーい!』
モモは笑顔で夕翔の中から出てきて、夕翔の肩に座った。
『パパ、楽しかったよ』
「よかったな。これからいっぱい妖術の練習するからよろしくな」
『まかせてー!』
夕翔はモモの頭を優しく撫でた。
「そうだ、明日は外で練習してみる? 人がいなさそうな山とか」
「いいね。室内だと制限あるから。厳しくするからよろしくね!」
「覚悟しておくよ」
「今日は何作るの?」
「唐揚げ」
「やった! 大好物のやつ〜」
花奈は夕翔に抱きつく。
——モモと似てるな。可愛いやつ。
夕翔はモモと同じように優しく頭を撫でる。
「花奈は卵焼き頼むな」
「まかせて!」
2人は自然と顔を近づけ、キスをした。
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