助けてよ

 少女は千草と名乗った。

 絹のようにつややかな髪は、肩に着くかつかないかのところで揺れている。

「あなたたち、生き残りたい?」

 視線を合わせずに聞く。

「まあ、殺されたくはないよ」

「そう。やっぱり、そういうものよね」

 千草は小さくため息を吐いた。

 かちゃり、腰につけられた銃が音を立てる。

「殺されたくないなら、助けてあげる」

「え? 千草は軍人だろ?」

「そう、だけど……。これはただの気まぐれよ。というか、人を殺すの、疲れてしまったから。ついてきて。私の家に案内してあげる」


 千草が歩くたびに、かちゃりかちゃりと音が鳴る。

 どうやら、羽織っているコートの内側に、多くのナイフが隠されているようだった。

「感情欠落者も、他人とつるんだりするのね」

 あまりに小さく、遠くから聞こえる雑音に紛れてしまいそうな声。

 しかしそれを、濡羽は聞き逃さなかった。

「そりゃあ、俺達だって人間だから」

「私が見てきた感情欠落者は、自分が生き残ることだけを考えていたわ。醜い仲間割れもして。やっぱり、ステージの違いなのかしら」

「仲間割れすんのは、人間だって同じだろ」

「どういうこと」

「人間だって内輪で揉めてんだろってこと。俺たちとそう変わりゃしねえ」

「そうなのかもしれないわね。ただ、私はずっと軍にいたから、他の人のことは知らないわ。軍は命令に逆らったらすぐ殺されるもの、仲間割れなんてしている場合じゃない」

「俺たちをかくまおうとしてるのは、命令違反じゃないの?」

「違反に決まってるじゃない。ただ、まあ、私なら大丈夫よ」

 ぽたぽたと、千草が歩いた場所に血が落ちる。

 この血は一体誰のものなのか。

「なんで大丈夫なの?」

「……教えない。今のあなたたちに話せるのはここまでよ」

「なんで」

「あなたたちは、信頼できるか分からない相手に、べらべらと情報を流せるの?」

 沈黙。

「知りたいのなら、私から信頼をもぎ取りなさい。でも、言っておくけれど、私は感情欠落者を信頼するつもりなんてないわ」

 ふうん、小さく相槌をうつ。

 銀朱は駆け足で千草に追いつくと、ゆっくり笑みを浮かべた。

「じゃあ、さ。俺たちを感情欠落者から普通の人間にしてみてよ。俺たちを、助けてよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る