感情欠落者見物施設

「責任感が強いね」

 銀朱は、幼いころからそう言われてきた。

 そう言われることで、銀朱自身、みんなのイメージに寄せていたところもあった。中学校では生徒会長を務め、成績も優秀で、このままいけば順風満帆な人生を送れること間違いなしであった。

 そして、それが叶わないことはもう決まっている。

「おい銀朱、そのカップ麺俺にも分けて」

「あ? あー、嫌」

「あっそ。じゃ俺はチョコ食うからいいですよっと」

 掃除の行き届いていない狭い部屋で、友人と呼べるのかも分からない相手と同居をしている。いや、同居という表現は少し違う。狭い部屋に、収納されている。

「なあ、濡羽」

「なに」

「お前、こんなとこにずっといて不安とかはないの?」

「はっ、それを俺に聞くのかよ。それは素なのか意地悪なのか」

「素かなあ」

「性格悪いな、お前は」

 2人の会話を、男女複数人のグループがガラス越しに聞いている。

「そんなん初めて言われたよ」

「ここに来る前は結構人望あったんだろ? でも取り柄が無くなった今はただの性格が悪いやつだよ」

「言い返せないなあ」

 意外と他の人と変わらないんだねー、こんなとこにいるとか可哀そう(笑)

 そんな声が聞こえた。

 感情欠落者見物施設、略してKKKS。

 これは移動式で、様々なところに出没する。感情欠落者は小さな箱に収められ、最低限の食料を与えられ飼育される。そして、生活の全てをどこかの場所で人に見られている。

 銀朱と濡羽はステージ3の感情欠落者として、常に大衆の目にその身を晒している。

 感情欠落者はステージ10まであり、8~10の者は殺されることが多い。ステージ7までの者は、何らかの理由で感情を取り戻す可能性があるが、8以上にはその望みはないらしい。

 1~7の者は感情欠落者とは何かを世に示すための道具として使われるのである。

「濡羽は生まれたときからこの環境なんだろ? ヤバいとは思わないの?」

「ヤバいと思う理由が俺にはないからね。俺にそんな不安はないし、もう慣れた。感情欠落者なんてそんなもんだよ。常人を恨む気持ちと多少の憧れはあるけれど、どうにかしようとは思わない」

「そんなもんか」

「そうさ。銀朱なんかはすごく珍しいケースだよな。どう、これで俺たちの気持ちが分かった?」

「まあな。でも俺みたいなのも最近は増えてるっぽいよ。急に欠落者扱いされたやつらが反抗してるって」

「ふうん……。なんか物騒な気配だな。戦争とかにならなきゃいいけど」

「そうだな」

 ぼんやりと外を眺める。

 気が付けば、辺りはもやもやとした霧に包まれていた。先ほどまでいたグループの姿は見当たらず、辺りはやや閑散としていた。

「なーんか、嫌な予感がするんだよな」

 白っぽい空気にやがて少量の雨が混じり始めた。

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