たとえ感情を失っても

月環 時雨

始まり

 1.目の前に、一人の女の子が倒れている。

 2.その女の子は恐らく敵だと思われる。

 3.自分の立場的に、女の子にとどめを刺さなければならない。

 4.正直立場とかどうでもいい。

 5.この女の子を助けたい。

 6.女の子に見覚えがある。


 


 1つの機能が形を変えた。それを「進化」と捉えるか「退化」と捉えるかは人それぞれであるが、形が変わったことには変わりない。

 そして人間は、異質な存在を排除しようとする。だが、その異質な存在にとっては迷惑極まりない話だ。よって、争いがおこる。

 争いに反対する者もいるだろう。その場合、反対したものがまた異質な存在となるのだ。なんとも生きにくい世の中である。

 さて、数年前に、新種の人間が発見された。

 新種というからには、普通の人間とは何かが違う。その何かは、話してみないと分からない。姿かたちは普通の人間と同じで、何か1つの感情が欠落している。それが新種の人間だ。

 好奇心、悲しみ、喜び、不安、焦り、好意。感情といってもその種類は多い。どの感情が欠落しているのかは分かりにくい。だが、長く話していれば必ず違和感というものが出てくる。一度感じてしまった違和感は、中々ぬぐえないものだ。

 感情の1つくらいなくてもいいじゃないか、と思う人もいるだろうが、それは間違いだ。

 理性がない者が犯罪を犯す。

 本能がない者が死んでいく。

 感情欠落者が世の平和をかき乱す。

 よって、感情欠落者は排除対象または展示物となった。

 要は他の動物と同じだ。

 動物園で飼われるものもいれば、駆除されるものもいる。人間にとって都合のいいように扱われる。

 感情欠落者はそれと同じ扱いを受けることとなった。

 だが、感情が欠落していると言ってもすべてではない。ほぼ感情はある。

 だから、自分たちの扱いに不満を抱く。

 そして、争いは起きる。


 これから始まる話は、争いの最中の物語である。

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