第2話
その瞬間、式場のあちこちが爆発する。逃げ惑う一般客とマスコミ。式場は途端に大パニックに陥った。
――ドオォンッ!
拳銃よりもはるかに重い炸裂音が響いた。
瞬間、全てがスローとなる。
私は咄嗟に腰に携えていた刀に手を添える。
その銃声は、おそらくスナイパーによる狙撃。明らかに仁を狙ったものだ。
仁は私にとって反逆者。上司の命を脅かす敵。でも……。
――雫。
好きだったあの人の言葉が、脳内に響いた気がした。すると何だろう。動かざるを得ない気持ちになった。
私が諦めてしまったもの。それが目の前にある。そして今まさに、銃弾が粉々に砕いてしまう。
そんな気がしたのだ。
――ガキィンッ!
金属と金属がぶつかり合ったような、甲高い音が響いた。私が瞬時に仁の近くまで詰め寄って、そして刀を抜き、その勢いで迫り来る弾丸を弾いたのだ。
「雫姉さんなら、守ってくれると思ってたよ」
仁はそう言って、ニコリと笑った。
「雫、何しちゃってんの!?」
茜が驚いた様子で私に言った。私が邪魔をするとは思っても見なかったようだ。
「呆れたぞ雫。お前なら、いくら身内であっても私情は挟まないと思ったのだが」
望が怒ったように言う。まあ仕方が無いだろう。これは裏切ったも同然だ。
「こっちには人質もいる。そしてあなた達と互角に渡り合える私も。だからお願い。退いて」
私が説得するも、しかし二人は退く様子がなかった。
「二人とも。退いて良いわ」
膠着状態の中、瑛里華様の声が響いた。
「私は大丈夫。そんなことより、避難誘導を」
瑛里華様の言葉により、二人はしぶしぶ退いた。
私たちは、結婚式場を出た。
*
やがて人気のない森に辿り着く。私と、仁と、葵。そして人質となった瑛里華様がいた。
瑛里華様の拘束を葵に任せると、仁は私に向く。
「えっ……」
私は思わず言葉を失う。仁は瑛里華様に向けていたその銃口を、私に向けてきた。
「選べ。共犯者になるか。ここで死ぬか」
鋭く睨む仁に、私は狼狽えた。仁には、恐らくお見通しだったのだろう。
私にはまだ、決心がついていない。仁を助けたのは、身内だったからだ。親戚である私にとって、二人は可愛い弟と妹のようなものだった。
いえ、それだけじゃない。
私はまた、希望を抱いてしまったのか。
考え込んでいると、ふいに手に温もりを感じた。葵が私の手を握っていたのだ。
「雫姉さん。あなたは私たちと同じ」
ドクンと、心臓が強く脈打った。そうだ。この子たちは私と同じ。アイによって、愛する人を引き裂かれた。
アイによって結婚相手が決定された私の恋人は、私と駆け落ちを試みる。しかしあの隊長達が率いる部隊によってあえなく失敗。私の恋人は刑務所行きとなった。
「俺たちの野望が叶えば、恋人は無実になる」
ドクンと、再度心臓が強く脈打った。恋人が無実になる。それだけじゃない。アイがなくなってしまえば、ようやくあの人と結婚できる。
それは、なんて素敵なことなのだろう。
「俺たちと来てくれ。雫」
仁は私に手を差し伸べる。もうお姉さんとは呼ばないらしい。
そんなこと、どうでも良い。
ずっと我慢してきた。何が理想的な相手だ。機械がどうして勝手に決めるんだよ。
――勝手に結婚相手を決められるって、胸糞悪いですよね。
ほんと、胸糞悪い。
――自分が好きになった相手と結婚出来ないって、最低ですよね。
ああ、最低だよ。
――アイ。糞ですよね。
糞だよっ!
「私は、アイを、ぶち壊したい!」
私は叫ぶように言って、仁の手を握る。
「それでは、誓いの言葉だ」
私と仁は見つめ合う。エメラルドファイアの一員となる儀式。
「発光セヨ」
「発光セヨ」
これぞ真愛の閃きナリ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます