第2話

 その瞬間、式場のあちこちが爆発する。逃げ惑う一般客とマスコミ。式場は途端に大パニックに陥った。


――ドオォンッ!


 拳銃よりもはるかに重い炸裂音が響いた。


 瞬間、全てがスローとなる。


 私は咄嗟に腰に携えていた刀に手を添える。


 その銃声は、おそらくスナイパーによる狙撃。明らかに仁を狙ったものだ。


 仁は私にとって反逆者。上司の命を脅かす敵。でも……。


――雫。


 好きだったあの人の言葉が、脳内に響いた気がした。すると何だろう。動かざるを得ない気持ちになった。


 私が諦めてしまったもの。それが目の前にある。そして今まさに、銃弾が粉々に砕いてしまう。


 そんな気がしたのだ。


――ガキィンッ!


 金属と金属がぶつかり合ったような、甲高い音が響いた。私が瞬時に仁の近くまで詰め寄って、そして刀を抜き、その勢いで迫り来る弾丸を弾いたのだ。


「雫姉さんなら、守ってくれると思ってたよ」


 仁はそう言って、ニコリと笑った。


「雫、何しちゃってんの!?」


 茜が驚いた様子で私に言った。私が邪魔をするとは思っても見なかったようだ。


「呆れたぞ雫。お前なら、いくら身内であっても私情は挟まないと思ったのだが」


 望が怒ったように言う。まあ仕方が無いだろう。これは裏切ったも同然だ。


「こっちには人質もいる。そしてあなた達と互角に渡り合える私も。だからお願い。退いて」


 私が説得するも、しかし二人は退く様子がなかった。


「二人とも。退いて良いわ」


 膠着状態の中、瑛里華様の声が響いた。


「私は大丈夫。そんなことより、避難誘導を」


 瑛里華様の言葉により、二人はしぶしぶ退いた。


 私たちは、結婚式場を出た。





 やがて人気のない森に辿り着く。私と、仁と、葵。そして人質となった瑛里華様がいた。


 瑛里華様の拘束を葵に任せると、仁は私に向く。


「えっ……」


 私は思わず言葉を失う。仁は瑛里華様に向けていたその銃口を、私に向けてきた。


「選べ。共犯者になるか。ここで死ぬか」


 鋭く睨む仁に、私は狼狽えた。仁には、恐らくお見通しだったのだろう。


 私にはまだ、決心がついていない。仁を助けたのは、身内だったからだ。親戚である私にとって、二人は可愛い弟と妹のようなものだった。


 いえ、それだけじゃない。


 私はまた、希望を抱いてしまったのか。


 考え込んでいると、ふいに手に温もりを感じた。葵が私の手を握っていたのだ。


「雫姉さん。あなたは私たちと同じ」


 ドクンと、心臓が強く脈打った。そうだ。この子たちは私と同じ。アイによって、愛する人を引き裂かれた。


 アイによって結婚相手が決定された私の恋人は、私と駆け落ちを試みる。しかしあの隊長達が率いる部隊によってあえなく失敗。私の恋人は刑務所行きとなった。


「俺たちの野望が叶えば、恋人は無実になる」


 ドクンと、再度心臓が強く脈打った。恋人が無実になる。それだけじゃない。アイがなくなってしまえば、ようやくあの人と結婚できる。


 それは、なんて素敵なことなのだろう。


「俺たちと来てくれ。雫」


 仁は私に手を差し伸べる。もうお姉さんとは呼ばないらしい。


 そんなこと、どうでも良い。


 ずっと我慢してきた。何が理想的な相手だ。機械がどうして勝手に決めるんだよ。


――勝手に結婚相手を決められるって、胸糞悪いですよね。


 ほんと、胸糞悪い。


――自分が好きになった相手と結婚出来ないって、最低ですよね。


 ああ、最低だよ。


――アイ。糞ですよね。


 糞だよっ!


「私は、アイを、ぶち壊したい!」


 私は叫ぶように言って、仁の手を握る。


「それでは、誓いの言葉だ」


 私と仁は見つめ合う。エメラルドファイアの一員となる儀式。真愛マナの祝詞と言ったか。それを斉唱するのだ。


「発光セヨ」

「発光セヨ」


 これぞ真愛の閃きナリ。

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