29話 日本国防軍の実力 その1


1940年3月10日


陸上自衛隊 東富士演習場にて



 新日本の転移後、日本帝国軍幹部は国防陸軍の招致により、東富士演習場に演習視察に来ていた。


 演習場には富士教導団所属の10式改、90式改、74式、61式戦車、他装甲車両等が並べられていた。


「ふむ、どの戦車も帝国軍の95式重戦車より一回り大きいぞ。それに、やけに砲身が長いけど威力はあるのか?」


『それでは74式戦車による移動標的への実射演習を行います』


『戦車隊、用意。撃て!』


「ドドゥゥン、ドドゥ、ドドドン、ドパァーン!」


『4発、標的に命中!』


 74式戦車4台は、移動標的4カ所に1発ずつ全弾外すことなく命中させていた。


『次に比較対象演習のため、61式戦車が移動標的実射を行います』


『戦車隊、用意。撃て!』


「ドヒューン、パーン!」


『外れ!』


『このように61式に比べ、74式は射撃能力が大変優秀です』



「おい、見たか。あの61式戦車を。アレでも我が帝国戦車より強力だぞ。

 それに、あの74式の正確な射撃は何なんだ?」


「普通、戦車砲は動く相手にはなかなか当たらないが、全車百発百中とは一体どうなっているんだ?」


「お、次のが始まるぞ」



『次は、90式改戦車による移動標的を走行射撃します』


『戦車隊、用意。撃て!』


 4台の90式戦車は、60km/h以上の速度で前進しながら、横でジグザク走行している移動標的を射撃した。


「ドドドドゥ、パパパパーン!」


『全弾命中。次は10式改のスラローム(蛇行)走行射撃で、ジグザグ走行の移動標的を射撃します』


『戦車隊、用意。撃て!』


「ドドドドゥ、パパパパーン!」


『全弾命中!』



「あ、あり得ない!車体が舵を切った方向とは別に砲塔が的に向けて回転して、さらに車体が上下に揺れても砲身が同時に上下して、狙った標的を外さないとは恐るべき技術だ」


「どうですか?我々の戦車達は」


「あの10式改戦車は、どの位の速度が出せるのか?」


「ハイ、比較対象で出した61式は45km/h、74式は53km/hです。90式改と10式改は以前は70km/hで、双方共に改仕様で80km/hの最高速度です」


「な、80km/hですか?速過ぎる。74式でも帝国の軽戦車並の動きをして、火力は重戦車以上か。

 ふむ、満州関東軍の機甲師団も夢ではないな」


「参謀本部では、満州国内の工場で戦闘車両を増産をする予定でいます」


「どの位の規模を増産するのかね?」


「戦車2万両を増産し、2万人規模の機甲師団20個を揃える予定です」


「そんな大規模な機甲師団を使えるところがあるのか?」


「現在、帝国軍の大半は徴兵で集まられた兵士達です。この兵士達を、、、、、」


 国防陸軍幹部は、帝国軍幹部達に今後の軍略について説明を始めた。


 この当時の兵士の大半は徴兵制により集められた兵士であったが、他の外国軍人では徴兵ではやる気のない者が大部分であったが、日本人の場合は性根が真面目だから、例え徴兵であっても最後までやり遂げるという気概に満ちていたため、大半の者は職業軍人と変わらなかった。


 しかし、長年中国内戦に参加していた兵士達は、疲労困憊であるのは確かであり、一旦日本に帰国させた後、改めて志願兵を募って職業軍人並のやる気を持った兵士を揃えようと、国防総省参謀本部は考えていた。


 中国帰還兵60万人と関東軍40万人を併せて100万人の軍を編成し、その内の40万人を機甲師団20個に編成、次に残り歩兵60万人を歩兵機械化師団として編成、合計100万人の軍団を編成する。


 次にこの軍団を2つに分けて、1つをル連方面、もう1つをアメリア本土への上陸占領に使用する予定であった。


「戦車隊の他に工兵、砲兵用に順次兵器を増産配備していますから」


「本当にアメリア本土に攻め込むのか?アンタら正気か?」


「モチロン正気ですよ。次に海軍、空軍の兵器を紹介します。

 これらの兵器を見たら、ル連の他にアメリア攻略が本気であることが分かると思いますよ」



 帝国軍幹部達は、国防軍の指示によりヘリに搭乗し、東富士演習場から相模湾に停泊していた『いずも改』の甲板に到着した。


 この海域で演習していたのは、第1護衛艦隊であった。

 帝国軍幹部達はいずも改の艦橋に移動していた。



「それでは皆様、艦橋後部から左側を抜けて前方に飛行する航空部隊をご覧下さい」


「え?」


「何?」


「「キーン、ブモーウーーー!!!、ゴォー!」」


「何だ??あの物凄い爆音は?」


「しかも物凄い速さで2機飛んでいるぞ!」


「灰色の機体がF-18改で、青色の機体がF-2改です。

 コレから標的艦にそれぞれミサイルを発射します。

 距離が遠いので、手元にある望遠鏡か又はコチラのスクリーンで演習の様子をご覧下さい」



 帝国軍幹部の1人が、艦橋に設置されているレーダー台の画面を見ながら、レーダー担当係員に質問を始めていた。



「コレは電探画面か?」


「で、でん?ああ、レーダーの画面です。この白い点が味方艦、赤いのが敵艦ですね」


「この電探の探知範囲は?」


「約400kmというところですか」


「な、何と帝国軍の10倍以上の性能か。全く恐れ入るな」



「それでは皆様、コチラの画面を注目して下さい」


「おお、画面がデカいな。まるで映画館並だ」


「それに画面が天然色で美しいぞ」


「あ!灰色の方が何かを発射したぞ」


「爆弾の尻から噴煙が出てるから、おそらく噴進弾だろう」


「だが、あの方向では検討違いで多分当たらないぞ」


「アレ?急に方向を変えて標的に向かって行く?」


「か、加速した!当たるぞ!!]


「す、凄すぎる!艦の半分近くを破壊したぞ」


「あ、もう1機の青色も何かを落としたぞ」


「爆弾なのか?」


「だけど、あの方向では爆弾は命中しないぞ」


「おや?段々艦の方に方向が変わって行くぞ?」


「もしや、誘導爆弾なのか?」


「あ!上空で何個か分裂したぞ」


「え?さらに沢山のモノに分裂した?」


「何だ?一体アレは?」


「艦の後方全てにあの小さいモノが当たって爆発しているぞ」



 帝国幹部達は、航空部隊2機の実射演習を見て、しばらく絶句していた。

 F-18改が発射したミサイルは対艦ミサイル、F-2改が投下した爆弾はクラスター爆弾の海軍仕様であった。



 次は空軍から海軍の演習に移行していた。



「えー、それでは国防海軍護衛艦『まや改』と、帝国海軍重巡洋艦『摩耶』の比較対決演習を行います。

 奇しくも同名艦で対決するというのは、運命的なモノを感じてしまいます。


 なお、両艦の科学技術差を埋めるためにハンディキャップ、つまり技量差を付けます。

 帝国側が2.5海里、国防側が12.5海里の位置で10海里の距離を取ります。


 標的船はそれぞれ10隻用意しています。

 この標的船は1,000tクラスで民間の廃船予定で、魚礁として沈める予定のモノで、使用燃料とオイルはバイオ製品を使用して、汚染物質が生分解出来るため、地球環境には悪影響を与えないモノです。


 標的船は無人で遠隔操作仕様としており、速力15ノットで8の字楕円に航行します。

 制限時間は10分間で、先に全艦撃沈させた方を勝ちとします。

 それでは開始願います」



 国防海軍の案内人の指示は、いずも改艦内のラウドスピーカーに流れた他、対決する両艦にも無線で開始合図が流され、両艦の攻撃が始められた。


 勝敗の行方はあまりに一方的であった。

 帝国の摩耶が標的船1隻の舳先を破壊した頃、国防軍のまや改は全船に砲弾を当てて全て撃沈させ、所要時間は約1分であった。



「す、凄い!1分でカタが付くとは何という腕前じゃ」


「残りの標的船10隻を全て魚礁として沈めなければなりません。

 もう一度、ハンデ戦を開始したいと思います。

 先に帝国側が開始し、その後5分後に国防側が開始します。

 なお、標的船の速度を10ノットとし、帝国側の摩耶を1.5海里まで接近させます。この勝負も全船が撃沈された時点で終了致します。

 それでは準備をお願いします」



 帝国海軍の摩耶が指定の海域に移動したところで、開始合図が出された。


 開始直後、摩耶は船腹を標的船に向けて全砲門で対処するT字戦法で標的船を撃沈する策に出てきた。

 しかし、船足が遅くなったとはいえ、10ノットで航行する船を当時の海軍の射撃盤で狙いを付けて射撃するのは、職人的センスが求められて困難に近いことであった。


 それでも開始1分後にようやく1隻を撃沈させ、2隻目を撃沈させた時は既に3分半を過ぎていた。

 時が迫れば、気持ちが焦るのは当然のことであり、3隻目に狙いを付けて砲弾を発射した時点で5分が過ぎていた。


 5分経ったため、国防海軍のまやは単装砲の射撃を開始し、砲弾が到達する時間を入れても約30秒後には全船に砲弾が命中し、その1分後には全ての船が沈没していた。

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