28話 帝国陸軍の再編成と戦略 その2
「さて、畑陸相。帝国陸軍に欠けているものは何だと思いますか?」
「ふむ、人員は沢山居るけど装備や兵器か」
「当たっていなくもないのですが、ズバリ言うと『兵站(へいたん)』なのです」
「兵站って、つまり補給のことだろう」
「確かに補給も兵站の項目に入っていますが、それだけでありません」
斉藤は、兵站について堰を切ったように語り始めた。
「例えば補給が必要な部隊がいたとします。次には、、、、
・その補給物資を部隊にどうやって運ぶか?
・運搬経路が陸路だとして、トラックで運べる道路はあるのか?
・道路が寸断されていたら、車両が全く使えない。
それでは航空部隊での補給物資輸送は可能か?
・前線部隊の傷病兵の運搬はどうするのか?
・前線部隊の兵器の整備、損失補填はどうするのか?
・戦闘が長引いた場合、交代要員は確保されているのか?
等々の様々なモノを確保、供給していくのが兵站でありロジスティクスというもので、部隊に補給を送るだけでも、コレだけの運用管理が必要なのです」
「なるほど。ただ前線部隊に食料と弾薬を送れば良いのかと思っていたけど、それではダメなのだな」
「ハイ、ただ送るだけならば戦国時代の小荷駄と何ら変わりありません」
斉藤は、さらに兵站の重要性について語り始めていた。
昔から、「戦争の素人は『戦略・戦術』を語り、プロは『兵站』を語る」という格言であった。
斉藤は、地政学者であり歴史学者でもあった。
その歴史専攻も戦史学であり、どの国々が勝ち負けし、その勝敗の原因は何かまで徹底的に頭に叩き込んでいた。
その彼が博士号を取った研究テーマは『戦争と兵站システムの構築方法』であった。
国防総省は以前の自衛隊とは違って、他国に進攻する上で『兵站』が如何に大事であるかを日韓戦争で学んでいた。
そのため、戦略・戦術と兵站研究の第一人者である斉藤博士に早くから目星を付け、国立大学から引き抜き国防大学校大学院専任教授に登用したが、転移事象以降は国防総省国家戦略対策室に配置換えし、専任技監に任命していた。
「斉藤博士、貴男の兵站論はまた別の機会に聞かせてもらうとする。
さて、現在中国と和平をして撤兵中であるが、次に戦略すべきところは何処かな?」
「畑陸相は中国と和平し、満州や日本から石油が産出して南方策が無くなったと思ったのでしょうか?」
「そうだな、石油を手に入れる理由が無くなったからな」
「それは違います。あくまで進攻する時期を遅らせただけの話です」
「何?そうなると、関東軍はル連とは戦わないのか?」
「いえ、間違いなく関東軍はル連と衝突します。
ただ、関東軍は戦う相手がル連だけではないのです。
現在、関東軍の兵士数は60万人ですが、中国の復員兵が一旦日本に帰国し、新たに志願兵として再編成する予定です。
再編成後の兵士数は、総計約100万人になる予定です」
「ほおう、100万の兵士とは凄い数だな」
「この関東軍を半分に分ける予定で、半分をル連方面、残り半分をアメリア進攻軍として活用する予定です」
「だが、そんなに上手く行くものなのか?」
「先程、私は関東軍に機甲軍団を創設すると言いましたが、その軍団の規模は戦車2万台による総勢40万人の機甲師団を20個編成します。
そして、残り60万人を機械化部隊による歩兵師団を30個編成します」
「その機甲師団1個で、どの位の規模なのかね?」
「概算ですが、10式改戦車1,000両、自走砲200両、砲門100門、残りは偵察部隊、迫撃砲部隊、施設大隊、後方支援大隊で総計2万人になります」
「ひ、1つの師団で1,000両の戦車部隊か。それは凄いな」
「この機甲師団で、開戦と同時にノモンハンからモンゴル、沿海州まで一気に進攻占領致します」
「次に真珠湾攻撃は開戦と同時に行いますが、ハワイ占領には強襲揚陸部隊である海兵隊を運用します」
「海兵隊とは海軍陸戦隊のことか?」
「ハイ、そのとおりで前世界でも水陸隊がありましたが、憲法改正で自衛隊が国防軍に変わった際、水陸隊を海兵隊に名称変更して、陸軍から海軍に管轄が変更になりました」
「なるほど、海軍の上陸専門陸戦部隊か」
「ハワイ占領後、次の目標はアラスカ占領を目指しますが、この占領も海兵隊に活躍してもらう予定です」
「何故、アラスカをわざわざ先に攻略するのか?」
「このアラスカは資源の宝庫で、この地域の資源をアメリア本土に奪われないためと、この州都であるアンカレジからアメリアの本土を爆撃に向かうことが可能だからです」
「2つに分けた片方の関東軍は、軍事同盟予定の英国と軍事協定を締結予定のメキシカとの協力により、メキシカとカナダ自治領からそれぞれ関東軍の半分を配置してアメリアに攻め込む予定を検討しています」
「両国との外交交渉は順調なのか?」
「ハイ、先に過去日英同盟を結んでいた英国へ外交団を本日派遣し、多分到着した頃だと思います」
「あのプライドの高い英国だ。上手く行くのかね?」
「コチラの技術提供の一部をちらつかせたところ、向こうから外交使節一行を招待したいと言ってきたみたいで、多分間違いなく上手く行くでしょう」
「英国は何を欲しがっているのかね?」
「おそらく、高性能な戦闘機でしょう」
「だが我が帝国のレシプロ機ならば、英国にも存在するからそんなモノを持参しても喜ばれるのかね?」
「いえ、間違いなくジェット戦闘機を持参して行ったと思います」
「な、何?ジェット機だと?俺はそんな飛行機があるとは聞いてないぞ。国防軍にはジェット機は普通にあるのか?」
「畑陸相はまだジェットエンジンの飛行機は見ていませんでしたか。
後日、帝国と国防軍との兵器比較演習を予定していますので、そこで国防軍の飛行機をご覧になって下さい」
「分かった。その比較演習の見学には俺は必ず参加するぞ」
「分かりました。関係者に畑陸相の席は用意させるよう手配致します」
後日、畑は国防軍の演習見学で、国防軍の進んだ兵器群を見て驚愕するのであった。
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