27話 帝国陸軍の再編成と戦略 その1


1940年3月5日


 国防総省市ヶ谷地区 国防ビル内の陸軍省陸軍大臣執務室内にて


 執務室談話スペースには、応接セットが設置されており、その応接セットに座る4人の男がいた。

 1人はこの部屋の主である旧帝国政府内閣閣僚 畑陸相で、残りの3人の1人目は陸軍幕僚長 杉村大将、2人目が国防装備庁陸軍開発担当技官 森山哲雄、最後に国防総省国家戦略対策室主務技監 斉藤貴史であった。



「畑陸相、コチラの建物は慣れましたか?」


「うん、実に良い。温度、空調はこの上なく快適で、この国防軍の制服も凄く着心地が良い。ただ、しいて難点を挙げるとすればこの建物は簡素過ぎて重厚さに欠けるが、質実を旨とすれば大変好感が持てるぞ」



 畑陸軍大臣には、旧軍服から国防軍の陸軍制服に着替えてもらい、他の者から奇異の目で見られないように配慮していた。

 コレは帝国総理大臣から海軍大臣に降格していた米内光正も同様であり、他の帝国軍幹部達も同様であった。



「陸相、今日コチラにお伺いしたのは帝国陸軍の再編成と士官、兵士の再教育です」


「杉村大将、具体的にはどのようにするのか?」


「まずコチラのリストをご覧下さい。このリスト一覧の人物を今のポストから外し、御勇退願いたい訳であります」


「確かに東条秀樹とその一派は一掃され、かなり陸軍内は風通しが良くなったと思っていたが」


「ええ、確かに現時点では陸軍内に不利益を与えるような言動、行動等はしておりません。しかし、将来的に何らかの形で災いになるかと」


「ふむ、成る程な。結構クセの強い人物がいるな。おや?この二重丸は何かね?」


「そのマークは絶対排除すべき人物ですね」


 二重丸が付いた人物は、無多口連也と辻正伸の2人であった。


 無多口は、前世界では『牟田口廉也』という人物で、官僚肌で指揮能力が乏しく自意識過剰であり、インパール作戦という精神論を重視した杜撰な作戦を積極的に軍部にねじ込んで実行し、それらの作戦指揮を執るも始めから補給上問題があるため失敗することは目に見えていた。

 その失敗を率直に認める精神的勇気が欠如していたことで、撤退が遅れ多数の日本軍兵士を死なせたが、自らの失敗を責任を取らなかった人物である。


 辻は、前世界では『辻政信』という名前で、人物像は実情無視で無謀な作戦を立てる精神主義者、目的のためなら手段を選ばないマキュベリスト、我意強く小才に長じ、ずる賢い男等々であり、日本陸軍の元凶を体現していると一人であると言っても過言ではなく、PW地球でも同様に旧帝国陸軍の悪の元凶といえた。


「うん、無多口とは?ああ、全然指揮能力が欠如している割に自分を高く売り込もうとする謙虚さが欠ける人物で、部下から無駄口連発と揶揄される程に問題が多い人物だったな。


 辻正伸?あ!コイツはノモンハンの前線で偽電報を打ち、自らの誤りを認めず、部下を次々と自殺に追い込んだトンデモない奴だったな。

 やはりコイツらは絶対排除すべき人物だよな。

 しかし、よく調べ上げてあるな。このリストアップされた人物を間違いなく排除すれば良いのか?」


「そのとおりです、畑陸相。排除リストに掲載された人物の件、宜しくお願いします。次に八原弘道、石黒秀男の2人を登用したく国防総省に召致して欲しいのです」


「ふむ、八原はよく知らんが、、、、」


 杉村は、八原は優秀な作戦参謀として、今後の人材として確保したい旨を話し、石黒はあの昇戸研究所の創設者であり、この時代の先端技術と現代日本の技術を比較研究したい面もあり、優秀な技術者を野放しにするわけに行かないことから、石黒を含めて研究所丸ごと国防装備庁に引き取る旨を畑に申し渡していた。


「なるほど、八原という優秀な作戦参謀がいるとは知らなかったわい」


「彼はアメリカ留学をして、その工業力の底力を知っているため、他の参謀とは一段違う観点から戦局を望める能力に長けているのです」


「それと、昇戸研究所の石黒に目を付けるとは流石だの」


「将来、彼等は放って置けない存在になりますので、石黒と併せて国防装備庁の技術部に研究所員ごと引き取ります」


 正史地球では、昇戸研究所は『登戸研究所』で『岩畔豪雄』が中心になり、当時は陸軍科学研究所の下に特殊電波・特殊科学材料など秘密戦の研究部門を成立させており、それはPW地球でも同様であった。


「分かった。昇戸は頼むぞ。

 それより、人事関係はとりあえずコレで良しとして、他に何かあるのか?」


「ハイ、大ありです。実は、、、、、」


 杉村は、帝国陸軍省と国防陸軍省を一まとめにする話を畑に話した。


「確かに重なっている部署は殆どだし、国防側の方が合理的だし無駄が無いから、帝国陸軍の方を無くす方向で行こうと思っている。

 一まとめにする期日はいつが良い?」


「残り1カ月も無いですが、4月1日にしたいと思っています」


「うむ、分かった」



 畑陸相と杉村大将は意外と馬が合うようで、陸軍省人事改革の他に各部署の統廃合についても順調に進んでいた。



 畑陸相と杉村大将の話が終了し、次に話し掛けたのは国防装備庁陸軍開発担当技官の森山であった。


「閣下、それでは戦車と砲門関係の、、、、」


「ちょっと待った!森山君。私のことを『閣下』と呼ばないで欲しい。

 非常に照れるので、閣下だけは止めてくれないか」


「それでは、何とお呼びすれば宜しいのでしょうか?」


「杉山大将のように『陸相』と呼ばれるのが一番しっくり来るかな」


「分かりました、畑陸相」


「うむ、その呼び方で頼むぞ」


「ハイ、まず陸軍の、、、、、、」


 森山は、陸軍の兵器開発と兵器配備状況について説明を始めた。


 61式戦車は、軍事博物館で展示品扱いであったが、中国に武器供与するには丁度良い威力の兵器といえた。

 そこで、高田玲美の能力で61式戦車の設計図、組立図、部品図等を起こして、これらの図面に基づいて満州国内にあったGM工場を買収し、そこで61式戦車500両を再生産し、この戦車を中国、東南アジア諸国用として武器供与を予定していた。


 一方、74式戦車は更新等で廃棄寸前だったモノも含め、何とか各陸軍基地からかき集め、500台を日本連邦加入予定国への武器供与分の戦車とした。


 また、日本陸軍の主力を担う関東軍機甲師団の主力戦車として10式戦車を改仕様として満州国内工場で増産する他、自走砲、装甲車や軍用トラック等の生産体制を整えていた。


 満州で製造された10式戦車は元々ある自動砲弾装填装置を充実させ、電磁バリア装備、ステルス素材及び光学迷彩機能等を装備した他、シベリアの極寒の地やアメリア進攻の際、デスバレー等の酷暑地帯に対応するため、戦車内の居住性を高めるため断熱性能をアップさせ、ヒーター・エアコンを標準装備とした。これらの装備を充実させることで、新開発中の45式戦車(仮称)等に遜色ない程に性能がアップしていた。


 10式戦車は電磁バリア発生装置とステルス素材及び光学迷彩機能等が新設されたことで防護力が飛躍的に向上して、これらの改良を加えた10式戦車は『10式改戦車』と称した。

 なお、他の自走砲、装甲車も同様の改造を加えた『改』仕様となり、以後は満州国内で生産される戦車、自走砲、装甲車は全て『改』仕様となっていた。

 この10式改戦車は2万両増産され、コレと並行して89式改装甲戦闘車や、99式改自走155mm榴弾砲、96式改自走120mm迫撃砲、96式改装輪装甲車、87式改自走高射機関砲、16式改機動戦闘車、MLRS改、戦車回収車や輸送車両等々の他、16式改機動戦闘車から発展させた新開発ファミリーモデル等も併せて多数増産していた。


 さらに、転移前に中破総理が国防大臣であった時に密かに豊和工業に20式自動小銃を増産させ、名目上は全ての陸海空軍兵士が同じ武器を使えるようにしないとダメであると提言し、国防装備庁に命じて20式自動小銃を全兵士分配布した。

 そのため、64式自動小銃と89式自動小銃は双方合わせると30万丁以上国内に余っていたが、万一の為にこれらの小銃をモスボール保管していた。



「幕僚長、森山技官の説明したとおりに兵器の増産は順調に進んでいますが、関東軍の編成指揮については若干心配しています」


「うむ、それだがな。関東軍のまとめ役が必要だが、誰か適任者に目星は付いているのか、斉藤博士?」


「ハイ、畑陸相。失礼ながら石原完治将軍はまだ満州にいるのですか?」


「否、東条派の嫌がらせを受けて日本国内の京都で師団長のはずだな。

 お、そうか。斉藤博士は石原を活用したいわけか」


「ハイ、早急に石原将軍をコチラに呼んで欲しいわけです」


「うむ、彼ならば色々とやってくれそうだ」


「それと、もう一人関東軍に必要な人材を呼んで欲しいのです」


「それは誰かね?」


「ハイ、酒井尚次将軍です」


「おお、彼も東条と衝突して左遷されて、現在日本で予備役だったから丁度良いかな」


「石原将軍には関東軍総司令官、酒井将軍には参謀長には適任だと思います。

 それと、酒井将軍は石原将軍の下で歩兵旅団を指揮しています。

 機甲師団と機械化、自動車化部隊の運用については国防軍第7師団から適任者を配属し、国防軍と共に部隊指導に当たってもらいたいと思っています。」


「この人物達で一体何をするのかね?」


「関東軍に機甲軍団を創設します。そのための戦車、自走砲、装甲車、輸送用トラック等の増産を満州国内でしているのですから」


 斉藤は、畑陸相、杉村陸幕長の2人に対し、自分の戦略論について語り始めるのであった。


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