30話 日本国防軍の実力 その2
「これは凄い命中率だな」
「我々帝国海軍の射撃装置を根本的に見直す必要があるぞ」
比較演習とはいえ、帝国海軍と国防海軍の圧倒的な技術差を見せ付けられた帝国軍幹部は内輪話を話し始めていた。
「山元長官、コチラの人物を紹介します。
彼は水島技官で、国防装備庁の船舶設計士を担当しています」
「それでは、これから先は私が説明致します。
先程の艦砲対決は、我が国防海軍に軍配が上がりましたが、国防海軍の艦砲は単装砲というモノで、本来軍艦等の装甲の厚い艦船と近接戦闘を行った場合は正直言って勝てません。
この単装砲は、本来の使い方は敵が爆弾や魚雷等を投下した時、その爆弾や魚雷等を事前に撃墜したりするもので、敵艦船を撃沈させるだけの威力は無いはずですが、昔の艦砲より性能が向上しているため、装甲の薄い艦船は簡単に撃沈できるようです。
そこで、軍艦等を相手する場合は極力距離を取るアウトレンジ攻撃に徹し、長距離から攻撃出来る武器としてミサイル、帝国風の名称では噴進弾、否、誘導噴進弾で攻撃するように形を取っています」
「ゆ、誘導の噴進弾を完成させているのか?そちらの国防軍では」
「ハイ、艦船以外には陸、空軍全てにミサイルは配備されていますね」
その話を聞いた帝国幹部達は驚愕していた。
というのも、1940年当時ではロケット弾を無反動砲で使用される程度で、命中率は大変低いもので、この時代ではドイツが開発したV1飛行爆弾や、V2ロケットはまだ開発以前の段階であり、或る意味夢の技術であった。
「それでミサイルとかいう噴進弾の威力は如何に?」
「そうですね、巡洋艦や軽空母クラスなら1発で撃沈し、大和や武蔵クラスの戦艦はかなり頑丈ですから、2発以上は必要でしょう」
「お主、何故大和と武蔵の名を何故知っているのか?」
「ハイ、大和、武蔵の2艦はあまりに有名で、小学生の幼子でも知っている艦名ですよ。この後に信濃が戦艦から空母に変更して建造されるのですよね」
「貴様!マル3だけなく、マル4計画まで知っているとは、何処の敵国スパイなのか?」
「よせ、宮河。いい加減にしろ!国防軍の制服を着ている士官がスパイな訳がなかろう」
「しかし山元長官。ここまで帝国の機密事項が漏れているのは些か問題かと」
「何が問題なのかね?宮河中佐!」
「いえ、ですから、我が帝国の機密事項が外部に流失していることです!」
「急にどうしたのですか?彼は」
「山田将軍、実は宮河中佐は今まで『大和』の艤装担当だったのです。
マル3作戦は秘密裏に進められて、一部の軍関係者しか知らない機密事項であり、家族にも一切話していなかったのです。
それを山田将軍の世界では、小学生の幼子まで知っていることだと分かり、或る意味精神的ショックを受けたようです」
「そうですか、大和の艤装担当でしたか」
「宮河君、君は考え違いをしていないか。
国防軍の方々がいた世界では先程言っていたとおり、小学校の幼子でも大和や武蔵の艦名は知れ渡っているとのこと。
そんな未来世界の日本の人々が、我々の帝国に丸ごと国土が転移したんだ。
機密も何もあったものではないと思わぬか?」
「ハイ、確かに言われてみればそのとおりですが、仮にもずっと機密事項として過ごしてきたものですから、まだ頭の切替が出来ないのです」
「それでは困るな、宮河君。さっさと新しい方法に頭を切替しないと軍部では生き残ることが出来ないぞ。
それにな、この国防軍の人達は我々に先進、先端技術を惜しげも無く披露し、その技術を提供してくれるという。
誠に有り難い話じゃないか。それを君はぶち壊しにするのかね?」
「いえ、そんなつもりは毛頭ありません」
「良いか宮河君、よく聞けよ。彼等はこれからこの日本帝国に起きようとする戦争を既に体験し、その戦争で敗戦を知り、戦後復興でここまで科学技術を発展させて来たんだ。
しかし、彼等の世界に訪れた平和は見せ掛けであり、終戦当初はアメリカとソ連が対決していたが、そのソ連が国家機能を崩壊して、アメリカによる世界一極支配構造が生まれたのだ。
そのアメリカが石油エネルギーを浪費し、地球温暖化を迎えて人類滅亡の道を歩んでいるという。
そこで人類の未来を救う方法として、歴史改変を起こして未来を変えようとしたのが神々であり、その超常的な力で別な未来の日本が国ごと転移したことを君は理解していなかったのか?」
「ハイ、そのことを失念しておりました」
「何?失念だと!この転移事案は陛下自らが帝国臣民に向けて発表したことであり、さらに貴様は1カ月前から日本各地の街並みが未来的に変わり、見知らぬ人々が日本各地に出現したことを肌で体験しているはず。
それを失念などと言う輩は断じて許されるものではないぞ!」
「ちょ、長官。言葉足らずで誠に申し訳ございませんでした。一つ言い訳をすることになりますが、発言をお許し願います」
「ん?仕方がないな。一応聞いておこうか」
「ハイ、発言を認めて頂き有り難うございます。
自分はここ数年、大和、武蔵の建造計画に携わり、この計画は家族等にも一切話せない機密事項でありました。
それを会ったばかりの青年技官に、機密事項にしていた両艦の名前をいきなり言われ、さらに両艦名だけでなく信濃の艦名まで知っていたことに逆上し、彼等を別の世界から来た人物ということをつい忘れて、あのような言葉を口にしたのです」
「成る程、宮河の言い訳は理解した。
水島技官と言いましたか?このようにウチの宮河も反省しておりますので、何卒御赦免を願いたいのです」
「分かりました、山元長官。頭をお上げ下さい」
「それより、水島技官の経歴等を聞きたいのですが」
「それは私、山田から説明致しましょう。
彼は東京海洋大学、この時代では東京商船高等学校ですね。
この学校は後に東京商船大学に格上げされ、後に東京水産大学と統合されて東京海洋大学になったのです。
その大学卒業後、同大学院で船舶工学の博士号を取得している優秀な若手であり、先程は宮河中佐に罵倒されましたが、一応大佐待遇になります」
「おお、あの東京商船高等学校に入学し、大学院修了して博士様でしたか。
部下の非礼な言動による失態、改めて私から謝罪申し上げます」
「山元長官、頭をお上げ下さい」
「分かりました、水島博士。つかぬ事を伺いますが、アレはどうしますか?」
宮河は山元長官が水島技官に頭を下げていることを目にするとともに、自分よりも階級が上の者を罵倒してしまったことに、自分自身が処分されるのではないかという恐怖が心の中を支配して、その場で水島に向かって土下座を敢行して、自分自身が出来る最大限の謝罪をしていた。
「ああ、あの方ですか。先程の私に対する無礼は、自分の仕事に誇りを持っていたから出た言動だと思います。
処分は山元長官にお任せしますが、出来れば譴責というよりはせいぜい厳重注意程度の軽い処分で良いと思います」
宮河は水島に向け土下座をし、その姿勢を崩さずにその場で固まっていた。
「分かりました。ほれ、立ち上がれ宮河君。水島博士からお許しが出たぞ。
今まで一生懸命に軍に尽くしてくれた君を処分するのは忍びないし、今後の改装計画に支障をきたすことから、あえて君を処分しない。その代わり、国防軍の人達には全面協力することを忘れずに」
「ハ、ハイ。誠心誠意、国防軍の方々に協力することを約束します」
「それでは、互いのわだかまりが解消したというところで、水島技官の経歴についてもう少し説明致します。
彼は幼き物心付いた頃から、海軍の軍艦一般公開行事には必ずと言って良いほど参加する軍艦マニア(オタク)でした。
大学院修了後、三菱造船に入社して全国各地に点在する造船所を渡り歩き、休日中は職権で工場内部に入り、いつも艦船に触れていないと気が済まない程、趣味と仕事が一致した人間です。
そこで、軍関係者が彼に目を付けて高待遇で企業から引き抜き、国防装備庁に採用した人材なのです」
「水島博士は、我が帝国の艦船を今後どのようにしていくのでしょうか?」
「まず、大和、武蔵、信濃3隻について改装計画について説明すると、、、、」
水島は帝国軍幹部達に代表的な3隻の改装計画の説明を始めた。
・大和、武蔵(以下2艦略)の全艦砲、砲門、火器類を自動装填化する。
・全艦砲をFCS(射撃統制システム)化する。
・艦の動力にNF炉を搭載し、蒸気タービンを最新型に換装する。
・艦全体の照明を全てLED化する。
・電探(レーダー、ソナー)を最新型に換装する。
・後部航空カタパルトを撤廃し、ヘリポート(VTOL機発着場)を設置する。
・船首、船尾にサイドスラスターを装備する。
・船体表面にステルス素材塗料を塗布し、光学迷彩機能を装備する。
・船体に電磁バリア発生装置を設置する。
・大口径砲は、前1門のみとし、他の砲門は全て単装砲とする。
・通信機器を全てデジタル機器に換装する。
・砲塔回りの余剰空間にVLS(垂直ミサイル発射機)を搭載する。
・全ての対空機銃を廃し、CIWS(GAU-8改)及び近SAMを搭載する。
・これら大和、武蔵に実施したモノを可能な限り、他艦船に実施すること。
・信濃計画は、横須賀工廠にて前倒しで建造に取り掛かること。
武装については対空機銃を廃し、CIWS及び近SAMを搭載する。
敵艦船に対する防御として単装砲を搭載する。
なお、武装の艦砲については全てFCS化する。
・信濃の甲板はアングルドデッキとし、電磁カタパルトを装備すること。
・建造・艤装期間は1年半とし、鹵獲品の米空母仕様を参考すること。
「大和、武蔵、信濃の3艦の改造点は、取りあえずこんなところでしょう」
「あのう、水島博士。自動装填は素晴らしいのですが、FCSとは一体何の装置ですか?」
「FCSとは、射撃統制システムのことです。
先程の新旧対抗模擬戦で、国防軍側が一方的に目標船を撃沈させた射撃統制装置です」
「おお、あの百発百中の装置が我が大和に搭載されるとは誠に素晴らしい。
しかし、水島博士。信濃の建造、艤装期間が1年半というのは、かなり酷な事ではないのですか?」
「山元長官。我々の前世界では信濃の建造は戦争末期の頃で物資が不足していた時であり、何度も計画変更をし直しを掛けた船ですが、実質約2年以内に完成しています。
その劣悪な環境下と比べると、現在の我々が使用している自動化、機械化した工場、さらに卓越した技術者が新旧併せて倍の人数がいるわけで、建造期間は大幅に短縮出来ると思います」
「なるほど。そういえば日本の人口が倍になり、職人や技術者も倍になるわけですし、自動機械も多数導入されているのでしたな」
「それと各艦船の艦砲装填自動化で、相当人員の削減が実現出来て、他の艦船に人員を回せることで、鹵獲品の元米軍艦船を動かせる人員が確保出来るわけです」
「水島博士。このVLSとは噴進弾のことですか?」
「ハイ、そのとおりです。例え主砲46cm砲を装備していても、46cm砲には出来ない部分をミサイルに任せます。
逆にミサイルで出来ないところを、主砲46cm砲に任せます。
余談ですが、私は大和の主砲は無用の長物のように思っていました。
しかし、この時代の艦船の装甲はかなり厚く丈夫なため、コレを確実に破るために46cm砲弾とミサイルの価格比較をした結果、圧倒的に砲弾の方が安価に済むことが判明しました。
後は砲塔の命中精度を上げれば砲弾の無駄遣いが無くなるため、あえてこの主砲を残したのです」
「そうだったのか、水島博士。私も何故大和の主砲を残すのか疑問に思っていた1人だったのだ」
「ハイ、山田幕僚長。この経済的理由で主砲を残したわけです」
「なるほど、巨砲は男のロマンだな」
「それより、次についての説明に移って宜しいでしょうか?」
「ハイ、どうぞ」
水島は先に続いて帝国海軍艦船等について、改装計画等の説明を始めた。
・帝国海軍全ての艦船建造計画を中止すること。
・船齢が40年以上の船は、練習艦以外は廃船か標的艦にする。
・戦闘艦船で25ノット未満の船は戦闘艦船を除籍、武装を取り外し別艦船として使用する。
・赤城、瑞鶴、翔鶴、隼鷹、飛鷹の航空母艦5隻は全てNF炉に換装して、アングルドデッキ及び電磁カタパルト装備、ジェット機対応化改装のために艦船大型化すること。
・帝国海軍の潜水艦は全て廃船すること。
廃船理由は、潜水深度が200mを超えるのが不可で、水中船速が15ノット以上出ないため。
「取りあえずこんなところでしょうか」
「我が帝国海軍の潜水艦を全て廃船にするということですが、そんなに他国の潜水艦と性能差があるのですか?」
「ハイ、この時代のドイツ製Uボートは水深200mは楽に潜れますが、帝国の潜水艦はせいぜい100m潜れる程度。
おまけに水中速度が極端に遅くて、どれも15ノット以下です」
「それは確かに遅いな。だが潜水艦乗りが余ってしまうではないのか?」
「その点は心配ありません。鹵獲品の米軍原潜が20隻ほどあり、コレをNF炉換装後に運用しますが、その時の運用人員に潜水艦乗りが欲しいものですから帝国海軍潜水艦を全て廃船しても良いわけです」
「この鹵獲品は相当性能が良いのか?」
「ハイ、静粛性は国防軍側に軍配が上がりますが、火力、速度、航続距離等は他の国より抜きん出ていますね」
「むう、どちらにせよ早急に海軍幹部連中にこれらの事を伝えておかなければならんな」
「宜しくお願いします」
水島技官は、山元長官に帝国海軍の艦船改革を依頼して、来たるべき大戦に備えを万全にしなければならないと改めて思った。
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