22話 帝国への説得


「ふむ、米内と畑については思考が柔軟なので問題無いけど、他の連中の頭がコチコチなのよね。

 よし、まず私自身が先に『博仁ひろひと』に会い、取り巻き連中に気合いを入れるか。

 ガヴリエル、否、ここはミカエルの方が良いな」


 ガイアはミカエルを呼んだ。


「ミカエル、私と一緒にPW地球の1940年の日本に降臨するぞ」


「了解です、ガイア様」


 ガイアは『アマテラス』に、ミカエルは神に仕える侍女にそれぞれ扮して、1940年の日本に降臨した。




PW地球年月 1940年1月15日



 皇居宮殿 表御座所にて



 御座所室内の執務机に向かって、背広に蝶ネクタイをして顔に丸眼鏡を掛けた中年男性が椅子に座り、何やら決裁書類の類いを読みながらその書類に印鑑を押していた。


 その男の横には、侍従長と思われる男が次々と書類を丸眼鏡の男の前に順に並べ、決済が終わった書類を受け取っていた。


 そう、執務机に着いていた丸眼鏡の男は、このPW地球の日本帝国における照和天皇である『博仁(ひろひと)』であった。


「おい、侍従長。この決済書類は何処まであるのか?」


「陛下、もう少しで終わります故に御辛抱を」


「だけど沢山あるの。僕はいい加減飽きて来たぞ」


「陛下、あと少しでございます。コレだけは何とか決済をお願い致します」


「分かった。だが一度に持ってくる量が多過ぎるんだ。今後は加減してくれ」


「了解致しました。以後気を付けるように致します」



 博仁と侍従長の会話が終了するか否や、博仁の頭の中で声が響いた。



『我はアマテラスなるぞ!』



 博仁は頭の中で響いた声に驚き、机から顔を上げて周囲を見渡すと、室内の中央の空間が歪み、その歪んだ空間の中から白い光が漏れ始め、白い光は室内を白一色に輝いたかと思うと、床から天井まで届きそうな大きさの卵形をした白い空間が残り、その空間の一部が開いて中から人影が見え始めたかと思うとその卵形の白い空間が消えて、人影は徐々に姿が濃くなると2人の女性の姿に変わっていた。


 2人の女性の内で、1人は白色を基調とした神官服を身に纏い、頭部に太陽をモチーフにした丸い鏡をティアラのように装着しており、もう1人は神社の巫女風の服装に黒髪ロングヘアを後ろに束ねた者であった。


 頭の中に響いた声と空間転移で登場した2人の女性の姿を見て、間違いなく『神様』であることを確信し、2人が現れた直後の目の前で床に頭を擦り付けるように平伏し、侍従長も博仁に習って3歩下がった位置で平伏していた。



「面を上げい!博仁」


「ハッ、ハイ!お、親神様」



 ガイアは、博仁に対してテレパシーではなく自らの声で会話を始めた。


「今日、其方の前に我が姿を現した理由は、、、、、」



 ガイアは、博仁に今後日本に起きる出来事を伝えに来た旨を説明した。



「それより、博仁。其方は最近『現人神』と崇められているそうじゃな」


「全く親神様の言われるとおりで、お恥ずかしながら間違いございません」


「フーン、其方が神か。私と同じ能力を持つ者なのか?答えてみよ」


 ガイアは再び博仁に質問した時に、殺気とは違う神意(オーラ)を全身から発散させたところ、部屋中が白く輝くように見え、博仁はその神意に怯えて、身体を震わせながらガイアに答えざるを得なかった。



「は、ハイ。わ、私は只の人間でございます」


「フン、統治する立場とはいえ、他人から勧められたから神様になるわけか。

 本来、恐れ多くて断るのが筋じゃろうて。

 何処の誰が、其方を神にすることを勧めたのじゃ?」


「た、例え他人から勧められたとはいえ、それを認めたのは私の責任であり、決して勧めた者には責はありませぬ故に、その者の名を親神様といえど決して言うわけには参りません」


「ほおう、他人の過ちを自らの責として認めるとは見上げた心意気だの。

 まあ良いわ、その人物は分かっておる。ふむ、『加藤元地』という学者か」


「あのう、親神様。加藤教授には決して類が及ばぬようお願い申し上げます」


「ふむ、神の名を穢した大罪人だが、取りあえず神罰は与えぬから心配するでない。だが、この現人神に奉られたことを博仁はどう解決するのじゃ?」


「それは、私自身が神ではなく、只の人間であることを臣民に宣言すればよろしいかと思います」


「まだボンクラな子孫ではなかったの。博仁!」


「ハイ、近日中に私が人間であることを宣言するように段取り致します」



「それよりも、この陸軍の暴走はどうしたのじゃ?彼奴らはこの日本を滅ぼすつもりなのか?」


 博仁はガイアから陸軍の暴走について質問された途端、それまで人間宣言を思い付いた時の晴れやかな顔と打って変わり、一気に苦虫を噛み潰したような顔付きに変わり、その質問に答えていた。


「海軍は私の意向を汲んで動いてくれますが、陸軍は私の命を効かないことが多く、別の生き物のように私を押さえ、作戦案を許可するように押し切られてしまいます」


「その件は分かった。我の力で解決しようぞ」



 ガイアは博仁に、明日もう一度宮殿に来ることを伝えて、その時に総理大臣、陸軍大臣、外務大臣、加藤元地に列席するよう申し渡して、2人は御座所室内から一瞬で姿を消した。



 ガイアは、明日宮殿内で行われる秘密会議を、東条秀樹以下10人の腹心の手で、クーデターによる襲撃を企てを決起させるように考えていた。

 そこで、ミカエルに天使の能力の一つである睡眠時意識による夢枕で脳内の意識をコントロールすることで、東条秀樹以下10人の腹心が宮殿内クーデターを決起をさせるように指示を与えた。

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