21話 日本転移前の準備


2036年9月某日


 総理大臣兼国防大臣である中破守は、昨年行われた国自党総裁選挙にて他の対立候補は存在していたがパフォーマンス的な対抗馬であり、一応選挙も行われたものの投票数は95%支持で当選していた。


 中破は、総裁戦の根回し活動は一切していなかった。

 他の反対議員達は徹底追求して、毒舌、悪口等の言いたいことは散々言っていたが、何故当選していたかというと彼の実力と人気の高さもあったが、他にガヴリエルの裏工作が支持率を上げていると言っても過言ではなかった。


 ガヴリエルが支配する秘書型セクスロイドを国自党議員全てに就かせ、その上に皇民党議員の大半にも秘書型セクスロイドを派遣し、スキャンダル防止に努めていた。

 また野党にも籠絡型セクスロイドを派遣し、与党議員とは逆にセックススキャンダルをマスコミにリークさせて、人気を地に落とさせていた。

 コレは野党に多い女性議員も同様で、J系イケメン男性型セクスロイドで、不倫疑惑スキャンダルを次々と報道され、コチラも人気を地の底に落とした。


 だが、与党及び与党系協力党のスキャンダルはマスコミから一切出なかったというより、マスコミ幹部や政治担当記者を完全に籠絡していた他、と同時に与党の完全な敵である反日マスコミと呼ばれている朝○新聞社の社員、役員、記者等を籠絡して、新聞社自身をスキャンダルに追い込み、過去の捏造報道への賠償請求等やネガティブキャンペーンを展開し、ついに読者が愛想を尽かし廃社に追い込んでいた。



 ネット関係の情報操作は、レミエルのお手の物であった。

 特にネトウヨを操って在日韓国人を追い込み、日本への帰化を促していったが、未だに訳の分からないことに拘る連中は放置していった。


 レミエルの能力の凄まじさは、単なるネット操作の噂等に留まらず、ネット接続されている全てのデータベース等に容易に入り込み、株式業界等に食い込んでいる暴力団関係会社、またはその協力会社等の資金口座等の凍結、差押えして暴力団事務所等の資金を押さえていた。


 さらに暴力団員の日頃の暴力行為等を日本中の防犯、監視カメラ等の映像をデータベースに照合し、次々と警察関係に情報を流すことで、暴力団員は一切犯罪行為に手を染めることが出来ないため、暴力団を廃業するところが続出し、日本から暴力団という組織が存在出来ない状態に追い込まれていたが、全ての暴力団員を排除しなかった。

 何故ならば、転移後に日本では戦前日本に相当数の暴力団員が存在し、そのパイプ役として活用する可能性を見出していたからである。


 つまり、レミエルは自分自身が日本版エシュロンであると言っても過言ではなかった。

 彼女は日本中の暴力団のみならず、各宗教団体や非合法団体、グレーゾーン企業等の資金源を全て押さえ、一切活動出来ないよう情報操作していた。

 もっとも、これらの事を行っているのはレミエル本人ではなく、彼女の手下である技術系ロイドがレミエルの指示に従って仕事をしていたのだが。



2037年7月


 衆参両院総選挙が実施された。

 結果は与党である国自党が全体の75%、極右系の皇民党が20%で、野党は全体の5%と両院共に同じ結果であった。


 これらの与党の勝因は、ガヴリエルの籠絡ロイドによるスキャンダル報道もかなり敵勢力の人気低下は絶大であったが、某反日新聞社を廃社させたことが最大の効果と言えた。

 さらにレミエルのネット操作もかなり影響が大であった。



 この選挙結果から、中破は両院の指名を受けて天皇から内閣総理大臣に任命され、中破内閣が誕生して中破は総理大臣の他に国防大臣も兼任した。


 中破がまず手掛けたのは食料自給率の向上と、非常時の食料備蓄率、缶詰等を含めた長期保存食の開発、増産のため食品メーカー等への要請、エネルギー自給率の向上のため、原子力発電所の敷地内に核融合発電所を設置して、設置順に原発を停止させていった。


 次に国防海軍艦船に留まらず、日本中の商船のディーゼルエンジンやガスタービンエンジンを小型核融合エンジンに載せ替え、石油の消費を抑える他、核融合発電で得られる電気、水素を利用した自動車普及に力を入れ、水素利用社会の展開に力を入れた。


 また、全国の石油製油所数カ所の内で、石油消費量減少に伴って廃止された製油所もあったが、転移後の戦時状況では大量の石油が必要になることは目に見えていたため、製油所の何カ所を逆に復活させていた。


 中破は、日韓戦争時に国防大臣であったが、この時に陸上基地から発進する空軍機の支援で、海戦を完勝出来た事実を受け止め、より大型空母の必要性を痛感し、日韓戦争後に空母建造予算を毎年請求していた。

 その努力により、年々建造予算が増額することとなり、最終的にはアメリカ海軍の空母と同等規模である10万トン級空母を建造することが決定していた。



2038年1月


 国防装備庁は、電子装備研究所が開発したステルス素材で、素材表面に一定の電流を流すことで、光学迷彩機能が働くことを発見した。

 この素材は、ステルス塗料と同じ効果があり、同時に電流を流すことにより光学迷彩機能が働くという優れモノであった。


 これらの技術応用は、陸海空軍全てに応用されていた。


 また、ラジエルの実験で使用された電磁バリア発生装置は、電子装備研究所でさらに研究を重ね、あらゆる兵器やバトルスーツ等に装着出来るまで小型化が進み、コレも陸海空軍に配備されつつあった。



1 光学迷彩機能付ステルス素材(塗料)


 陸軍では、レーダーに探知出来ず、敵には見えない戦車、装甲車等。

 見えない特殊部隊や見えない一般兵。敵には幽霊部隊に感じるだろう。


 海軍では、陸軍と同様に見えない幽霊艦隊の誕生であった。

 あまりに見えないことから、巡視船や民間船等とのニアミスが多発したことで、日本近海では戦闘時以外は光学迷彩機能を使用制限する規定が出来た。


 空軍では、陸海軍と同様に幽霊航空編隊が誕生した。

 全ての戦闘機、爆撃機、輸送機等の機体表面にステルス素材を塗布することで、敵レーダー波に全く感知されず、また光学迷彩機能で敵奥地まで侵入しても全く気付かれずに任務を遂行出来ることが可能になった。

 海軍と同様に全く見えないことから、日本国領空内では戦闘時以外には光学迷彩機能を使用制限する規定が定められた。


 陸軍兵士や各戦闘車両等が光学迷彩機能を働かしている場合、味方車両同士での判別が困難になる怖れがあり、同士撃ち防止のために陸軍兵士には、特殊偏光レンズバイザーの着用が義務付けた他、戦闘車両等の窓、光学照準装置レンズに特殊偏光フィルターを装着して、同士撃ち防止に寄与した。


 海軍乗組員も陸軍と同様に特殊偏光レンズバイザーや艦橋の窓、光学照準装置レンズに特殊偏光フィルターを搭載することにより、陸軍同様に同士撃ち防止に寄与した。


 空軍機を含め、全軍の航空戦力には全ての操縦席風防に特殊偏光バイザーを装着した他、光学照準機能関連の兵器には全て特殊偏光フィルターを装着し、同士撃ち防止に努めた。



2 電磁バリア改


 この電磁バリアの特長は、味方から敵を攻撃する銃弾、砲弾等がバリア層を通過する場合は無抵抗で通過し、逆に敵からの攻撃等は全て弾き返すというチート的な性能を有していた。


 陸軍では、戦車や装甲車等に敵砲弾やミサイル、ロケット弾等が当たっても弾き返すことで、戦闘車両の『損傷0』が実現。

 特殊部隊のアーマードスーツだと、30mm機関砲の砲弾でも弾き返す。

 一般兵の場合、戦闘服に装備すると12.7mm重機関銃の連射攻撃でも充分に弾き返して『死者0』が実現のモノとなっていた。


 海軍では、艦船全体を覆い尽くして、攻撃時に自艦から発射した砲弾やミサイルには干渉しない機能を持つバリアを搭載した他、艦底からの機雷や魚雷等の攻撃にも対処したバリアを搭載したことで、防御上のメリットの他に、移動時の水流抵抗が軽減されて艦艇の速度が上がった。


 いずも型空母では最高速度は30ノットであったが、巡航速度で30ノット、最高速度は50ノットまで向上し、いずも型に限らず小型核融合炉を搭載した艦船は、豊富な電力によって常時バリアを展開することが出来るため、大半の艦船速度が上がった。


 また、潜水艦部隊には光学迷彩機能は必要無いため、あえて搭載しなかったが、電磁バリア機能は潜水艦にとっては、敵の磁力機雷を含めたあらゆる機雷群や機雷機能付魚雷等への防御には最大の味方であった。

 さらに、バリアのもう一つ嬉しい効果としては、海上艦艇と同様に水の抵抗を軽減することで、潜水艦の移動速度が最高約20ノットであったが、最高で倍の40ノット以上に上がり、巡航速度で楽に30ノットをキープ出来ることから、水上艦隊と共に艦隊行動が取ることが容易になった。


 空軍では、機体全体をバリアで覆うことで、敵ミサイルや機関砲からの攻撃から機体を守れる他、音速飛行時では空力抵抗が少なくなるため、最高速度の向上と燃費が向上した。また低空飛行時にバリア展開した場合では騒音が低下する機能があることを発見し、隠密性がより向上した。



3 その他の開発事項


 陸軍では、特殊部隊で使用しているアーマードスーツが重く、動かせる体力のある隊員にしか運用が出来ず、全隊員が運用出来るように、パワーアシスト機能を搭載した。


 また、通常兵士が着用する戦闘服を新たに開発した。

 特殊繊維と特殊金属ワイヤー、カーボンファイバー等を織り込んだ特殊繊維製で縫製し、通常の9mm拳銃などの防弾機能があり、また銃剣を含めた刃物等は、日本刀等の大型刃物以外は通らない程の防刃機能があった。

 それまでの防弾ベストの重量は10~15kg程あったが、新開発の戦闘服は1~1.5kg位の1/10まで軽量化し、兵士の機動力が一気に向上した他、陸軍の戦闘服に限らず、海軍用、空軍用も開発され、全兵士に配布した。


 この戦闘服の素材は、全国警察官の制服素材に活用することで、今まで重い防刃ベスト等を常時着用していた地域警察官の体力負担が解消された他に、銀行強盗や暴力団抗争等の修羅場以外では、重い防弾防刃ベスト等の殆ど必要が無くなった。

 警察以外には海上保安庁を含めた公安職の公務員や、税関職員や民間警備員等の制服等に採用され、これらの職員の殉職率低下に寄与した。


 海軍では、潜水艦の機関部のディーゼルエンジンを非常用のみとし、通常はカーボンナノチューブ利用の水素タンクによる燃料電池によるモーター駆動として静粛性を高めた。

 また、今まではアクティブソナーによる視覚化は成功していたが、パッシブソナーでの水中内の視覚化は成功していなかったが、これらについて、水中で発する音を全て集音し、その集音距離と角度等のデータを集積して、パッシブソナーの状態でも視覚化を可能とした。



 空軍では、後ろ向きでも撃てるミサイルポッドを開発した。

 コレは先の日韓戦争にてB-1Rに換装した際、空対空ミサイルが8発搭載出来たが、爆撃機の殆どが後ろから追跡されて撃たれるパターンが多く、コレを防ぐために、B-1Rのアップグレードの際にワザと後部ポットのミサイルを後ろ向きに取り付けした。


 コレが奏して、敵迎撃機を撃墜することが出来た訳で、F-35にも前向きにミサイルを撃って、ミサイルがUターンして後ろの戦闘機を撃墜出来る機能があるが、Uターンするぶんだけタイムラグが生じる。

 そこで、B-1Rは武器搭載に余裕がある爆撃機であるため、全ての機に後部ポットを後ろ向き発射出来るように設置した。

 なお、B-1Rは光学迷彩機能付ステルス仕様と電磁バリアを装備し、アップグレード仕様として、B-1sと名称を変更していた。


 空軍は日韓戦争時、艦船に対する有効な攻撃機としてF-2を大変高く評価しており、さらに空中格闘戦に必要な運動性能も高く、ステルス性能と光学迷彩機能を搭載すれば、F-15J以上に活躍出来るマルチロール機になることを空軍上層部は確信し、再び国内にて量産化することを決定した。


 F-2の能力向上策として、アビオニクスを開発中のi3ファイターシステムを搭載した他、他の空軍機と同様に光学迷彩機能付ステルス仕様と電磁バリア機能を搭載し、F-2は『改』仕様として日本国内で500機量産することとなった。


 さらに、空軍は次期主力戦闘機を国防装備庁にF-3の早期開発を依頼していたが、既に先進技術実証機『X-2』で殆どの実証実験は終了しており、予算化されれば何時でも取り掛かることが可能であった。



2038年10月


 政府は、大手メーカー経営者等と話し合いの場を持ち、今後日本に転移災害が起きることを話し、現時点で所有している海外資産を出来るだけ紙切れのみの株券の置き換えを実施し、かつドル紙幣は全て金地金(延べ棒)に換金するように指導していた。


 さらに、転移災害後の日本は戦時中の日本に突入するため、特に軍需産業の最大手である三菱重工業を始め、各軍需産業や武器メーカー等に武器、弾薬等を増産するよう要請をしていた。



2039年4月


 政府は、アメリカ軍部や軍事関連メーカー等から、ミサイル、爆弾等を含めた軍事関連兵器を大量に調達するように指示していた。

 この調達には、ミカエル達がガヴリエルやサリエルから借り受けした籠絡系ロイドや隠密系ロイドを暗躍させて、半年以上に渡って日本に輸入し、大量に兵器、弾薬等を秘密裏に集積させていた。



2039年9月


 政府は、食品メーカー等に冷凍食品、缶詰等の保存食は可能な限り保存するように各会社に通達を出していたが、事前にガヴリエルが日本国民全体の脳内潜在意識に今後起きる災害に備えるように危機感を植え付けていた。

 そのため、意外とスムーズに政府通達等の命令には、食品メーカー及び国民の動きは大変協力的であった。



「残り半年か。さらに備蓄に励むように各メーカーに働き掛けをするか」


 中破は来年の転移事象について、万全の体制で臨めるよう準備に心掛けるのであった。

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