第64話 睡蓮寺流合体奥義「日月食」
「お願いします。妹を、……いや、あの化け物をこの世から抹殺して下さい。妹もきっとそれを望んでいる」
「バカ言うな!」
反発するカヲルを無視して、ハルトとチアキはうなずきあった。
「わかった。その依頼、請け負おう。まあ依頼がなくとも、あれをこのままにはしておけないしな」
「親父! 母さん!」
「嫌なら、おまえは黙って見ていなさい。でもよく考えてごらん。おまえはサクラちゃんをあのままにしておくのかい。それが本当にサクラちゃんのためになるのかい」
こうして話している間にも、かつてサクラだった肉塊はみるみる膨れ上がっていた。
無数に伸びた桃色の触手があっという間に辺りの森を喰い尽くし、瘴気の立ちこめる毒の沼地へと変えていく。
チアキが山々に向かって叫んだ。
「現時刻より、睡蓮寺流くのいち忍法は総力を結集してこの化け物を退治する! ただし攻撃は朱組で行う! それ以外のくのいちは援護にまわること! これは首領命令である!」
「御意!」
短い返答が山中に響き渡る。
いつのまにか、周囲の森には睡蓮寺のくのいちたちが大集結していた。
「第一攻撃目標は、化け物の触手! 直接攻撃は返り討ちに合う可能性が高い! 距離を取りつつ、全力でこれを掃討せよ!」
「御意!」
チアキの指示のもと、くのいちたちは一糸乱れぬ連携をみせた。
火遁、水遁、木遁、金遁、それぞれの得意忍法がモンスターの触手を吹き飛ばしていく。
あっという間に、ピンクの肉塊は触手を失って丸裸になった。
「とどめはあたしたちで刺します。アナタ、久しぶりにお願い」
「ああ、こいつは本気を出さなきゃダメなやつだ」
ハルトはそう言うと、呪文を唱えた。
「睡蓮寺流くのいち忍法奥義『紅白梅』!」
その身体が光に包まれ、小さかった銀髪の幼女がみるみるうちに筋肉質な成人男性へと変わっていく。
伸びた髪、ぼうぼうの髭、汚い肌。
上腕の筋肉を擦りながらハルトは愚痴った。
「この姿にはあまり戻りたくなかったんだがな」
「あたしはこっちのアナタも好きよ。行きましょう!」
「おう、睡蓮寺流くのいち忍法合体奥義『日月食』!」
ハルトとチアキはしっかり手を握り合うと、触手を削り取られむき出しになった肉塊の本体目掛けて突進した。
二人の身体から陽気のオーラが立ち上る。
合体奥義『日月食』――
皆伝者二人が揃ってはじめて行える睡蓮寺流くのいち忍法の秘奥義だ。
巨大肉塊が賢者の石によって不死化した細胞の塊なら、倒し方は屍鬼と同じ。細胞の増殖能力を上回る莫大な量の陽気をぶち込んでやればいい。
奥義『日月食』は、二人の術者が互いの陽気を循環させることによって、その陽気を限界にまで高める究極の忍法だった。
「だぁあああああああ!!」
「はぁああああああ!!」
全身に陽気をまとったハルトとチアキの渾身の一撃が、不死の化け物を直撃した。
ほとばしる陽気が濁流となって桃色の肉の塊へと流れ込んでいく。
グシャラギュガガガァアアア!
肉塊全体が振動して轟音が鳴り響いた。
それはまるで、断末魔の叫びのようだった。
莫大な量の陽気を受けて、不死細胞の増殖サイクルが追いつかなくなったのだろう。ショッキングピンクのあちこちから青白い炎が上がった。
肉塊が消滅していく。
サクラが、サクラの細胞が消えていく。
『可愛いわたしを覚えていてね』
サクラはそう言った。
彼女は、自分がこうなることを知っていたのだろうか。その上で、自らの運命と戦っていたんだろうか。
カヲルが叫んだ。
「ダメだ! やめるんだ!」
その身体をトウコが押さえる。
「兄上様、あきめてください! サクラさんはもう手遅れです!」
しかし、カヲルの目は冷静だった。
「違う、その攻撃じゃダメなんだ!」
青白い炎は急激に燃えひろがり、不死の化け物はまるで膨れすぎた風船のように木っ端微塵に破裂した。
ピンク色の肉の塊が四方八方に飛び散る。
「やった!」
「さすがハルト様、チアキ様!」
くのいちたちから歓声があがる。しかし――それが悲鳴に変わるまで数秒もかからなかった。
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