第59話 竜神祠のアイドル
「うわぁ、まんざらでもないナモリ。こんな可愛い顔してビッチナモリ」
ナモリは赤くなったサクラの頬をつつく。
それから少しギョッとしてカヲルに耳打ちした。
(カヲル姫、ひょっとしてサクラちゃんメチャクチャ熱があるナモリ?)
カヲルも気にしていたことだった。
さっきから背中に伝わるサクラの体温が高い。照れているせいかと思ったが、それだけではなさそうだ。
「サクラちゃん、熱あるよね。休憩しようか?」
「うん、ちょっと熱いけど、痛くも苦しくもないよ。むしろ心地いいくらい。こんなに気分がいいのって久しぶりかも」
「ホントに?」
「やっぱり、カヲルちゃんからエネルギーをもらってるのかな」
「でも、無理しないほうがいいよ」
先を行くナモリが叫んだ。
「もうすぐ、竜神様のお社があるからそこでいったん休憩しよう」
* * *
竜神の社は、カヲルたちが幼い頃よく遊びに来た場所だった。
人が数人入れば一杯になるくらいの小さなお社だけれど、手入れが行き届いていて雨風を防ぐには申し分ない。
社の中に入って扉を閉めると、カヲルはサクラに床に寝かせて膝枕をした。
担いできたトランクを開けたナモリがため息をつく。
「薬とか、毛布とか、なにか役に立ちそうなものでも入ってるかと思ったら、服ばっかナモリ」
「……靴もあるよ」
半分うなされたようにサクラは答えた。どうやら意識が朦朧としているようだ。
思った以上に、サクラの容態は悪いらしい。
「はいはい、靴もありますね。しかも、ロングブーツが二つ。ナモリは先にヨシノブ兄のところに行ってくるナモリ。そこで、もうちょっと役に立つものを調達してくるナモリ」
たしかにナモリ一人なら、県境までは十分かからずにたどりつくだろう。
「すまない、頼む」
頭を下げるカヲルに向かって、ナモリはこっそり耳打ちした。
「もしこのまま熱が引かなかったら、村に戻ることも考えたほうがいいナモリ」
ナモリが行ってしまうと、社の中は雨音だけになった。
サクラは眠るわけでもなく、ただ目を閉じて休んでいる。やはり、体にかなりの負担がきていたらしい。
ほんの数分が、まるで何時間でもあるかのように感じられた。
突然、サクラが口を開いた。
「着替える」
「えっ?」
それからゆっくりと身体を起こすと、着ていたワンピースを脱ぎ始める。カヲルは驚いて両手で目を覆った。
「さ、サクラちゃん、何してるの?」
「カヲルちゃんも着替えて。わたしがピンクでカヲルちゃんがブルーだよ」
か細いけれど、有無を言わせぬ口調だ。
トランクを開けると、中には二着のドレスが入っていた。まるでアイドルのステージ衣装のようなきらびやかなドレスだ。
サクラは一着をカヲルに渡して、もう一着に袖を通しはじめる。
(これに着替えるのか?)
着替え中に男だとバレないか心配になったが、サクラは自分の服を着るので精一杯のようだ。
カヲルは素早く服を脱いで、ブルーのドレスに袖を通した。
ドレスは上品な光沢を放つサテン生地。
リボンのついた胸元が大きく開いて鎖骨が露出している。ウエストはキュッと絞られていて、そこから広がったスカートにはフリルがこれでもかというくらい縫い付けられていた。
そのわりにスカート丈は短く、太腿がほぼ露出している。
(スカート短けぇ。まあ、普段のくのいち装束で慣れているから気にしないけどさ。まさか、サクラちゃんもこんなミニ!?)
あわてて隣を見ると、ピンクのスカート丈はブルーの三倍以上ですっぽりと膝を覆っていた。
「サクラちゃん……あたしのだけ超ミニにしたでしょ」
「てへへ」
確信犯らしい。
悪戯を咎められた子供のように笑うサクラちゃんだが、ブーツに紐を通すのもつらそうだった。
「あたしが結んであげる」
カヲルがサクラにブーツを履かせて、二人のお着替えが完了した。
薄暗い社の中に、ピンクとブルーのドレスに身を包んだまるでアイドルコンビのような美少女が二人。
知らぬ人が見たら、きっと狐につままれたとしか思えないだろう。
「カヲルちゃん、やっぱりすごく似合う。きれい」
「サクラちゃんこそ、めちゃめちゃ可愛いよ」
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