第55話 兄と妹の合体技!
「睡蓮寺流くのいち忍法天の巻『鬼神剣・光』!」
忍者刀が陽気を帯びて超振動し始めた。
「そんなに行ったり来たりじゃ閻魔様に迷惑だろ! いい加減地獄に落ち着きやがれ!」
巨大屍鬼の頭頂部めがけてジャンプ一番、光る忍者刀を叩きつける。
刀に込められた陽気をくらった屍鬼は激しく細胞分裂を繰り返し絶命する――はずだった。
「なにぃっ!?」
屍鬼はカヲルの刀を両手の爪で受け止めていた。
刃が当たっている部分はどんどん削り取られているが、それを上回るスピードで再生しているようだ。
「オマエ、ジョウドウエイチディジーニ、ハイレ!」
「だから、HDCってなんなんだよ!」
空中で激突したまま、フルパワーで忍者刀に陽気を注ぎ込んだ。
屍鬼の腕の肉が崩れ落ちはじめる。
「よし、今度こそ!」
しかし崩壊が胴体に伝わるあと一歩のところで、屍鬼の尻尾がカヲルの身体をなぎ払った。予想外の一撃に、軽量のカヲルは紙のように吹き飛ばされる。
地面を転がるカヲル。再生した屍鬼の爪が迫った。
「ちぃっ!」
「ジョウドウエイチディジーハ!」
とどめとばかりに叫びながら、巨大屍鬼は鋭い爪を振り下そうとする。ところが、雄叫びはそこで苦しげなうめき声に変わった。
「……ジョ、ジョウドウ……エイチデージーハ……」
みるとブヨブヨに腐った肉の腕がいつの間にか凍り付いている。
「裏睡蓮寺流くのいち忍法『氷結地獄(コキュートス)』」
巨大屍鬼の背後に、トウコの姿があった。
彼女の裏睡蓮寺流忍法がその腕を凍らせていたのだ。
氷はさらに屍鬼の下肢をも覆いつくし、動きを完全に封じこめる。
「兄上様、今です!」
「おう!」
トウコの合図でカヲルは態勢を立て直し、再び巨大屍鬼目掛けてジャンプした。
『鬼神剣・光』だけでは、陽気の量が足りない。
もっと大量の陽気を叩き込まなければダメだ。
(もっとたくさん! もっと一気に!)
「くらえっ、カヲル流くのいち忍法その二『火の鳥』!」
大量の陽気で全身を覆いつくし、そのまま敵に体当たりする忍法『火の鳥』。
そんな忍法があったわけじゃない。即席で考えたオリジナル技だ。
屍鬼は再び両腕の爪でブロックしようとする。
「そんなモンで、止められるか!」
全身が陽気の塊となったカヲルは、その両腕を吹き飛ばして屍鬼本体を直撃した。
「ジョウドウエイチディジーハー!」
悲鳴とも雄叫びともつかぬ醜い咆哮があがる。
過剰な生命エネルギーを受けた屍鬼の身体は、みるみるうちの葡萄の房のように膨れ上がった。最後に一言、
「……ホンドハ……ドーデイ……クラブ」
やがて臨界まで膨張した巨大な肉の塊は破裂音とともに雲散霧消した。
「ホントハドーテイクラブ? なんか、知らないほうが良かったかな……まあいいや。どうだトウコ、これで五分ゲットだろ」
得意げなカヲルに、トウコは肩をすくめた。
「フン、トウコの助けがなければ危なかったじゃないですか」
しかしカヲルは笑顔で親指を立ててみせる。
「もちろんフォローしてくれるって信じてたぜ。だから思い切っていけたんだ」
「なっ!?」
「じゃあ、サクラちゃんのところに行ってくる!」
疾風のように走り去るカヲル。
「まあ、いいです」
そんな兄の背中を眺めながら、トウコは誰に言うともなくつぶやいた。
「なにがどうあれ、兄上様と一緒に戦えるのはトウコしかいません。それならトウコは戦闘マシーンでもかまわない」
すると、カヲルが狼のように四つん這いで走りながら戻ってきた。
「言っとくけど、トウコだって戦闘マシーンなんかじゃないからな!」
「はい?」
「トウコは戦闘マシーンじゃない、オレの妹だ。それだけ言いに来た、以上」
そう言うと、またすごい勢いで屋敷へ走っていく。
呆気に取られたトウコはポカンと口を開けたまま、しばしその場に立ち尽くしていた。
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