第46話 ガラスの中の美少女
「生きてるわけないだろ、おまえが殺したんだっつうの!」
なんとなくピンときた。
(そういやヨシノブが言ってたっけ。コイツの死体が行方不明だとかなんとか)
前にこの屋敷で見た謎の袋に入っていたのは、この男の死体だったのだろう。
水無川直人が事件現場から死体を盗み出して、錬金術により更なる改造を施したのだ。
「けどな、俺様はちっとも恨んじゃいないぜ。だっておかげでこーんなにイカしたボディを手に入れることができたんだからな」
そう言いながらジョージ・スチュアート三世はボディビルダーのように誇らしげにポージングをしてみせた。
よくみると、彼の下肢はゴリラのように毛むくじゃらで、手にはトラの爪が伸び、臀部からはワニを思わせる巨大な尻尾が生えている。
トウコが耳打ちしてきた。
「錬金術でさまざまな動物の細胞を取り込みキメラ化したようです……気をつけてください。ヤツはもう人間じゃありません」
どうやら、彼女の傷はこのキメラの化け物に負わされたらしい。
「どうだ、今度こそ松濤HDCに入りたくなったんじゃないのか?」
「だからHDCってなんなんだよ。あー、当ててやろうか。Hな同人誌サークル?」
「さすが兄上様、よくサークルがCとお分かりで」
「ざけんな!」
カヲルの挑発に怒ったジョージ・スチュアート三世は、鋭い爪を振りかざして襲い掛かってきた。
カヲルはひらりと跳躍して避ける。
空振りした爪が、洞窟の岩壁にぶつかって大穴をあけた。
(見た目どおりの怪力だな、でもやっぱり動きは素人だ)
トウコに目配せしながら挑発を続ける。
「おいおい、やっぱ図体ばっかりか」
「うっせぇ!」
すっかり頭に血がのぼったジョージの背後に、トウコが音もなく回り込む。
「隙あり!」
忍者刀の斬撃が、鋼のような筋肉を縦一文字に切り裂いた。
しかしパックリ割れた背中からは血の一滴も流れない。筋肉が蠢いて、みるみるうちに傷が修復されていく。
「すげぇ、こりゃホントに人間じゃないな」
馬鹿力の上にゾンビとしての再生能力もあるんじゃ、トウコが苦戦するのも無理はない。
さすがの最強くのいちも人外相手じゃ分が悪いってことだろう。
すると実験装置の奥から、男がもう一人顔を出した。
「フン、誰かと思えば睡蓮寺の……やはり、先日やってきたのは偵察のためか」
サクラの兄、水無川直人だった。
白衣に身を包み、両の手に試験管を抱えた姿はマッドサイエンティストそのものだ。
「妹をダシに使うとは許さんぞ。行け、ジョージ・スチュアート三世! その二人を八つ裂きにしろ! そうすれば、そいつらの肉をおまえの身体に合成してやろう」
「うひょー、そいつは興奮するぜぇ!」
ジョージはイカレたように叫ぶと、両腕の爪をメチャクチャに振り回しながら突っ込んできた。
ジャンプして突進をかわすカヲルに今度はブレス攻撃が襲ってくる。
「ぐっ、なんだっ?」
ジョージの吐き出すブレスを吸い込むと、頭がくらくらしてきた。
どうやら息の中には麻痺性の毒が含まれているらしい。
「睡蓮寺流くのいち忍法地の巻『白木蓮』!」
素早く陽気を燃やして、体内に入った毒を浄化する。
それからナオトに向かって叫んだ。
「誤解です! オレとサクラちゃんは本当に仲の良い親友なんです!」
「まだ言うか、原宿へ行こうなどと妹をたぶらかして!」
「たぶらかしてなんかいません!」
叫びながら思った。
(サクラちゃんはどこにいるんだ? 彼女までゾンビになっちゃったのか? まさか、そんなはずないよな)
水無川直人は妹のサクラを溺愛している。
間違っても彼女を実験材料にしたりはしないだろう。むしろ、侵入した敵の手が届かないよう自らの手元で守るはずだ。
(じゃあ、どこに……)
その答えは、すぐにみつかった。
洞窟の奥に並んだ実験装置の中央に、生物実験室にあるホルマリン漬けの標本瓶を大きくしたような巨大なガラス容器がある。
その中に、サクラが眠っていた。
まるで母の子宮で眠る胎児のように、一糸まとわぬ生まれたままの姿だ。
思わず鼻血が出そうになった。
「な、なんで裸!? お兄さん、なんて格好させてるんですか!」
「お兄さんと呼ぶな! 自分が裸にしたわけじゃない。妹は寝る時はいつも裸なんだ」
「嘘つかないでください! こないだ、パジャマ姿の自撮り画像もらいました」
「ぐぬぬっ、きさま、それを邪なことに使ってるわけじゃあるまいな!」
「眠っているのをいいことに妹を裸にするような変態に言われたくありません!」
「変態ではない! これは妹に必要な、そう、その……健康法なのだ!」
「健康法って、そんな言い訳あるかっ!」
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