第42話 開眼、くのいち忍法炸裂!
『熾り火』とは、皮膚表面で陽気を燃焼させ、代謝をあげることで身体の表面温度を上げる忍法だった。
全身に巻きついていたカヲルの髪の毛が炎を上げながら剥がれ落ちていく。
「そんな奥義が使えるようになったのか。ヨシノブ、おまえこっそり修行続けてただろ」
「まあな」
「でも、その忍法は燃費が悪いんじゃないか。陽気は大丈夫か」
「心配すんな。俺にはくのいち任務はないからな。いままで溜め込んでた陽気を全ツッコミしたって構わないんだ」
陽気は、毎日の呼吸により少しずつ蓄積していくものだ。
表立った修行を中止してから丸四年。その間に溜め続けてきた陽気を全部吐き出せば、天然陽気製造機のカヲルとも互角以上に戦えるはず。それがヨシノブの目論見だった。
カヲルが尋ねる。
「そこまでしてオレを帰さない理由はなんだ?」
「くのいちが口を割るかよ」
「……そりゃそうだ。でも、ヨシノブはくのいちじゃないだろ」
カヲルは不敵に笑うと、いきなり両の目をつぶった。
「おいおい、何のマネだ?」
ヨシノブの脳裏を一抹の不安がよぎる。
そう言えば、五行山から帰ってきたカヲルはいつもとどこか様子が違っていた。
「ちぃっ、変な忍法を使われる前に決めてやる」
ヨシノブの身体が、「熾り火」の名前の通り真っ赤に光った。自らのくのいち装束までもが一気に燃え上がる。
突進しながら必殺の右ストレートを繰り出した。
文字通り、燃える拳をカヲルの胸に叩き込む。
「ちっとばかし熱いけど我慢しろよ!」
ところがパンチが当たる寸前、カヲルの両瞼がパチリと開いた。
「痛いことしちゃヤだ」
驚いたヨシノブは、寸前で拳を止める。
「あたし、ヨシノブくんと仲良くしたいな」
カヲルはピョコンとヨシノブの懐に入り込むと、上目遣いに顔を覗き込んだ。
「な、なんだ、カヲル姫、なんか悪いもんでも喰ったのか?」
「ひどぉい。ヨシノブくんはあたしのことキライなの?」
「き、キライなわけないだろ。俺は、ずっとカヲル姫のことを……」
「じゃあ、仲良くしよっ」
そう言ってヨシノブの両手を握ろうとした。
しかし、その手は真っ赤に燃えている。
「熱い、ヨシノブくん熱いよぉ」
「あ、ああ、ごめん」
ヨシノブはあわてて忍法「熾り火」を解除した。
「はい、これで仲良しだね」
改めてカヲルはヨシノブの両手を握り締める。
「お、おう」
「じゃあ、どうしてヨシノブくんがあたしを村に帰したくなかったのか教えて」
「それはちょっと……くのいちが任務のことを話すわけには……」
「だからぁ、ヨシノブくんはくのいちじゃないでしょ」
「えっ?」
「ヨシノブくんは、何?」
「何って?」
「もぉ、あたしの大事な幼馴染だよぉ、違うの?」
睡蓮寺流くのいち忍法……というより単なる色仕掛け。
以前なら絶対にやらなかった因果の技だが、これもロカの陽気を吸収したからか、今日のカヲルは小悪魔全開だった。
「ち、違わない、違わないさ!」
ヨシノブは小悪魔くのいちの術にズブズブと嵌り込んでしまっていた。こうなったら、もう抗う術は無い。
「やったぁ、ヨシノブくん大好きっ」
「大好き!?」
「それじゃあ、なんでも話してくれるよね」
「あ、ああ、そうだな。うん、話すよ。実は首領様に今日一晩カヲル姫を五行山に留めて置くように命令されてたんだ」
「母さんに? どうして?」
「今晩、朱組の召集があるって」
「朱組? なら、なおさらあたしがいなきゃダメじゃない?」
朱組とは、睡蓮寺でも中忍以上の実力者で構成された精鋭チームだ。普段は別々に活動している手練れたちが、重大任務でのみ召集される。
それを率いるのは、睡蓮寺最強の戦闘力を持ち、次期首領でもあるカヲルの役目だった。
首を傾げるカヲルに、ヨシノブはおそるおそる言葉を継いだ。
「それがさ、朱組の
「なんだって朱組がサクラちゃんの家を攻撃するんだ?」
完落ちしたヨシノブは、カヲルの質問に包み隠さず答える。
「詳しくは知らないけど、ロシアから帰ってきたハルト様の命令らしいよ。今夜零時に、トウコちゃんが朱組を率いて水無川邸に総攻撃を仕掛けるって」
「ちくしょう、あのクソ親父!」
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