第41話 男(くのいち)同士のたたかい
「休憩なんて必要ないよ。五行山の地脈エネルギーとロカからもらった陽気でたっぷり充電したからね。それに『風猿』と『燕舞』を使えば村まではあっという間だ」
「そうか? でも、せっかくこんな山奥まで来たんだし、のんびりしていきゃいいじゃん?」
カヲルは眉をひそめた。
「ヨシノブ、おまえ何を隠してるんだ?」
「隠してるって? そんなわけないだろ」
ヨシノブは顔をこわばらせて、両手を激しく振った。
「俺がおまえに隠し事なんかするわけないじゃん。ただ、無理はしないほうがいいんじゃないかと思ってさ」
「ふうん……まあ、いい。とにかくオレはサクラちゃんのところに行くから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ヨシノブの声に耳を貸さず、カヲルは卓球場の窓を開けて身を乗り出した。
「カヲル流くのいち忍法その一『疾風狼』!」
カヲルの身体が宙を舞おうとしたそのときだった。
「ミモリちゃん、ナモリちゃん、プランBだ!」
ヨシノブの合図でミモリナモリが鎖分銅を投げる。分銅はカヲルの足首を狙って飛んだ。
カヲルは寸前でジャンプし、鎖をかわすと手裏剣を放った。
六角剣が、寸分たがわず姉妹の頭上に突き刺さる。
「こ、降参ミモリ!」
「姫には勝てないナモリ!」
ミモリとナモリは早くもギブアップした。
「少しは学習したじゃないか」
鼻で笑うカヲルの右腕に鎖が巻きついた。
「まだまだ、おしまいには早いぜ!」
鎖分銅を放ったのはヨシノブだ。
「ようやく本性をあらわしたな、ヨシノブ」
「こうなったら、今夜は無理やりにでも俺と一緒にいてもらうからな」
ヨシノブはいつのまにかくのいち装束を身にまとっている。
カヲルはフンとほくそ笑んだ。
「おまえがそんな格好をするのはいつ以来だ?」
「忘れたのか? 去年の文化祭の仮装行列でも着ただろ」
「そういう意味じゃない。修行をやめてどのくらいだって聞いてるんだ。てゆうか、一体何のつもりだ? 今のおまえにオレが止められると思ってるのか?」
「やってみなきゃわからないさ。覚えてるか? 俺は格闘術ではカヲル姫に負けたことはないんだぜ」
「それは小学生のときの話だろ! 睡蓮寺流くのいち忍法奥義『燕舞』!」
カヲルは全身の陽気を燃やした。
身体機能を五倍に高める睡蓮寺の奥義『燕舞』だ。
呼応するようにヨシノブも陽気を燃やす。
「奥義『燕舞』!」
五倍速同士の戦いで、先攻を取ったのはカヲルだった。
ダッシュしてヨシノブの懐に飛び込むと、右のショートアッパーを腹目掛けて叩き込む。ヨシノブは地面から浮き上がってくる右拳を左掌底で捌きながら、右肘をカヲルの側頭部に打ち込もうとした。
だが、拳の勢いを殺しきれずに相打ちになる。
「グゥッ!」「ウッ!」
ヨシノブのあばらが悲鳴を上げ、カヲルの額が切れて血がふき飛んだ。
続けて攻撃を仕掛けたのはヨシノブだ。切れのいい左右のフックがカヲルを襲う。カヲルはバックステップで間を取った。
ヨシノブが最も得意としていた格闘技はボクシングだった。
修行をやめた小四までの話だが、リーチの違いもあって、ボクシングではただの一度もカヲルに負けたことがない。
「つきあってられるかよ! 睡蓮寺流くのいち忍法天の巻『乱れ柳』!」
かんざしを外すと、カヲルは眉間のチャクラに溜まっている陽気を燃やした。
髪の毛がみるみる伸びて、ヨシノブの身体に絡みつく。
「チッ!」
ヨシノブは巻きついた髪の毛を剥がそうと身をよじった。
だが、陽気で強化された髪は逃れようとすればするほど身体に深く食い込んでいく。
「しかたない、俺の奥の手を見せてやる。渕上流くのいち忍法奥義『熾り火』!」
ヨシノブの実家である渕上家は、代々睡蓮寺の事務方を務める家柄だ。
それでも、家に代々伝わる奥義というものはある。
『熾り火』とは、皮膚表面で陽気を燃焼させ、代謝をあげることで身体の表面温度を上げる忍法だった。
全身に巻きついていたカヲルの髪の毛が炎を上げながら剥がれ落ちていく。
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