第40話 幼馴染達の嘘
「今頃、カヲルちゃんどうしてるミモリ?」
黄長瀬山脈のふもとにある温泉宿で浴衣姿になったヨシノブと篠栗姉妹は、すっかりくつろぎモードで温泉卓球に打ち興じていた。
ミモリとナモリの身体能力はほぼ互角で、二人のラリーはいつまでも決着がつかない。
「たしかにちょっとかわいそうナモリ。偽物の地図を渡されて、今頃山中を探し回っているナモリ」
「しかも、五行山の修行場なんて大昔の伝説ミモリ」
すると、それまで乱れた浴衣の中を覗き込もうと目を皿のようにしていたヨシノブがつぶやいた。
「うーん、まあ、カヲル姫を騙すのは心苦しいけどさ。
その言葉に、ミモリとナモリもコクンとうなずく。
昨夜、睡蓮寺流くのいち忍法首領睡蓮寺血秋に緊急呼集された三人は、とある任務を与えられた。その任務とは――
「睡蓮寺夏折を一両日、山花の里から遠ざけること」
五行山にある伝説の修行場へ行くという名目でカオルを村から引っ張り出し、偽の地図を与えてできるだけ修行を長引かせ足止めせよ、というのだ。
それを聞いたヨシノブたちは、はじめ任務の受領を渋った。
別に友人のカヲルを騙すのが嫌だというわけじゃない。
睡蓮寺のエースであるカヲルと自分ら三人とではくのいちとしての技量に差がありすぎる。任務遂行は不可能に近い。そう判断したからだった。
しかしその後、カヲルを村から遠ざける理由を聞かされて、三人は任務遂行を決心した。
「なんとしても、今夜一晩はここでカヲル姫を足止めしなきゃな」
「もし、カヲルちゃんにバレたらどうするミモリ?」
「きっと怒り狂ってナモリたちをひどい目に合わせるナモリ。思い出しただけで……うう」
「ウチも……ちょっと漏れそうミモリ」
先日さんざんお仕置きを受けたばかりの姉妹は、不安からか興奮からか体をよじって身悶えする。
ヨシノブは胸を叩いて見せた。
「大丈夫。いざとなったら、俺が奥の手を出すさ」
「わー、ヨシノブくん、すごいミモリ」
「ヨシノブ兄の奥の手って何ナモリ?」
二人の美少女に挟まれて、ヨシノブはすっかり鼻の下を伸ばしていた。
「教えちゃったら奥の手にならないだろ」
「えー、でも知りたいミモリ」
「ナモリも知りたいナモリ」
「あたしにも教えてカヲル」
「どーしよっかなぁ……って、えっ!」
浮かれていたヨシノブの目が点になる。いつのまにか背後にカヲルが立っていた。
「カヲル姫、いつからそこに?」
「うーん、オレが偽物の地図を渡されてって辺りからかな」
まるで少女のような可愛らしい顔には、冷たい笑みが浮んでいる。
「やあ、三人とも待たせたね」
「待たせたねって、修行は?」
「終ったよ。まぁ、『紅白梅』は手に入らなかったけど」
「えっ? そ、そう? それは残念ミモリ?」
「それにしてはカヲルちゃん、なんだかカンジが違うナモリ」
ミモリとナモリは戸惑いぎみに言った。
たしかに、カヲルの立ち振る舞いはいつもとはどこか少し違っている。肩の力が抜けて自然体に近い、という感じだろうか。
「そう? ロカに陽気を分けてもらったからそのせいかもね。そんなことより、ミモリちゃんとナモリちゃんに質問があるんだけど」
「ミモリちゃん?」
「ナモリちゃん?」
姉妹の顔から血の気が引いた。
「どうして母さんがオレを足止めしたかったのかな?」
「それは……その」
「答えられないんだ。まあ、いいさ。今から村に戻るから」
ヨシノブがあわててカヲルを押しとどめる 。
「おいおい、今からかよ? もうバスもないし、今日は休んで明日にしたらどうだ?」
「休憩なんて必要ないよ。五行山の地脈エネルギーとロカからもらった陽気でたっぷり充電したからね。それに『風猿』と『燕舞』を使えば村まではあっという間だ」
「そうか? でも、せっかくこんな山奥まで来たんだし、のんびりしていきゃいいじゃん?」
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