第31話 幼馴染四人組
「俺が女の子に求めるのは外見だからな。見た目が可愛い女の子なら、中身が男だろうが化け物だろうが、全然気にせんよ」
ちょっと聞くとカッコいいけど、よく考えるとメチャクチャ最低なセリフだ。
しかし篠栗姉妹はもうメロメロになっていた。
「かっこいいミモリ!」「抱いてナモリ!」
カヲルは頭を抱える。
すると、ヨシノブがカヲルの肩を叩いた。
「まあさすがに混浴ってのはないみたいだから、男湯に入るのは俺とカヲル姫ってことになりそうだけどな」
「当たり前だろ」
「うん……まあ、それもいいかな」
なんだか、ヨシノブのこっちを見る目がキモい。
(そういや、さっきコイツ、見た目が女なら中身なんてどうでもいいとか言ってたっけ?)
カヲルはギョッとしてヨシノブの手を振り払った。
「ま、まさか、おまえ……オレまで変な対象にいれてるわけじゃないよな」
「あー楽しみだなぁ、温泉」
「なんでスルーするんだ!」
行きのバスの中で、カヲルはもうすでに帰りたくなっていた。
* * *
それからバスに揺られること、三時間。
カヲルたちはようやく五行山のふもとにたどりついた。
どうやら知る人ぞ知る秘湯というのは本当らしい。バス停以外は見渡す限り緑の山々で、温泉宿はおろか看板一つ見当たらなかった。
「あー、長時間バスに乗るのって案外疲れるなぁ」
ヨシノブが腰をたたきながら愚痴をこぼした。
「文句言うな。『風猿』を使えば一時間で着くのに、おまえが楽したいって言うからバスにしたんだぞ」
風猿というのは、忍法と呼ぶほどでもない。
下肢の陽気を燃やして早く走る、というだけの技だ。
実をいうと、ヨシノブも子供の頃からカヲルや篠栗兄弟と一緒に忍法の修行を積んでいた。骨太で女装に向かなかったのと、そもそも渕上家が事務方の家系だったせいで表の任務にはつかなかったが、カヲル同様天地の腕前はかなりのもの。
風猿くらいラクショーだったはずなんだが……
「無茶言うなよ。ガキの頃ならいざ知らず、いまさら風猿なんて無理無理……でもなあ」
そう言いながらヨシノブは更に鼻の下を伸ばした。
「子供の頃、よく四人で修行しただろ。男四人でむさくるしかったのに、ずいぶん変わっちまったよな。なんなんだ、このハーレム状態」
たしかに子供の頃は四人とも坊主頭で半ズボンの悪ガキだった。
しかし現在、ミモリとナモリは完全に女の子だし、カヲルだって見た目だけなら女にしかみえない。
浮かれるヨシノブに、カヲルは鉄拳をお見舞いした。
「なにがハーレムだ。気持ち悪いんだよ、おまえは。そんなことよりこれからどうするんだ。さっさと教えろ」
すると、ヨシノブは懐から古びた巻物を広げてみせた。
「こいつをを見てくれ。渕上家に伝わる古地図だ。この五行山北岳の山頂近くに、古来から修行に使われてきたという洞窟があるんだそうだ」
地図によると、このバス停から山を三つ越えた山中に目指す修行場はあるらしい。
「この地図はカヲル姫に渡しておく」
「おまえたちはどうするんだ?」
「ミモリちゃんナモリちゃんならともかく、俺じゃ足手まといだからな。ふもとの宿屋で待ってるよ。面倒な手続きは俺たちにまかせて、カヲル姫はさっそく修行場に直行してくれ」
「サンキュー」
ヨシノブにうながされて、カヲルは身につけていたジャージを脱ぎ捨てた。
その下に着ているのはもちろんくのいち装束だ。
黒革の胸当てとショートパンツから大胆に露出した白い肢体に、ヨシノブは思わず目を細める。
「ヒュー、トウコちゃんも水無川さんもいいけど、やっぱカヲル姫が一番だな」
「うっさい、この変態! それよりオレが戻るまで晩飯食うんじゃないぞ!」
カヲルは軽口を叩くと、下肢の陽気を燃焼して思いっきりジャンプした。
細身の体が宙を高々と舞い、五行山の森の中に吸い込まれる。
その姿を見送りながら、残った三人は顔を見合わせてうなずいた。
「これで任務完了だな」
「でも修行がデタラメだって知ったら、カヲルちゃんきっと怒るミモリ」
「いやいや、まったくデタラメってわけじゃないぞ。室町時代、睡蓮寺流くのいち忍法開闢のごく初期にこの五行山に修行場があったという伝説はないこともない」
「どっちにしても、ウチらは首領様の命令には逆らえないナモリ」
「まあ、そういうことだ。じゃあ、宿に行って温泉にでも入るか……キミたちも元は男子なんだから、一緒に男湯に入りたまえよ」
「やーん、恥ずかしいミモリ!」
「ヨシノブ兄のエッチナモリ!」
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