第28話 ロシア美少女の夜のお勤めとは!?

「嫁に必要な資質は、なんと言っても料理です。これから二人には家庭科室で理想の朝食を作ってもらいます。それをカヲル姫が試食して、おいしかった方を勝者、つまり未来のカヲル姫のお嫁さんに認定します!」


 それを聞いたサクラは戸惑いを隠せない様子だ。


「わ、わたし料理なんて……」


 トウコのほうは自信満々だった。


「フン、料理も作れずに兄上様の嫁になろうなんて笑止千万です。料理は、夜のお勤めの次に大事な嫁の任務ですよ」

「よ、夜のお勤め!?」

「はい、兄上様がしっかり眠れるようにうちわで扇いだり、お布団を整えたり」


 一方でカヲルはヨシノブに詰め寄った。


「おいヨシノブ、話が違うぞ。いきなりサクラちゃんに不利じゃないか!」

「まあまあ、料理は愛情だって言うだろ。それに審判はカヲル姫なんだから、全然不利じゃないって」

「えっ?」


 戸惑うカヲルにヨシノブがそっと耳打ちした。


「料理勝負の態をとってはいるけれど、実質はカヲル姫が嫁にしたいほうを選べばいいわけさ。まあ、姫は水無川さん一択だろうけどな」


 見透かしたようなヨシノブの言葉に、カヲルはあわてて言い訳した。


「そ、そりゃ、サクラちゃんは大事な親友だからな。いくらトウコが妹だからって、昨日初めて会ったような女の子とは比べものにならんだろ」


 かくして、サクラ対トウコの料理対決が始まった。

 家庭科室には、ミモリナモリによっていつのまにやら各種食材や調理道具が揃えられている。


「では、試合開始!」


 開始早々、クラスメイトの間で歓声があがった。


「おおっ!」「すげぇ!」「上手!」


 皆の視線がトウコに集中する。

 さすがくのいちだけあって、目にも留まらぬ包丁捌きだった。

 カヲルも、その手際のよさに思わず見蕩れて尋ねた。


「何作ってるんだ? ボルシチか? ピロシキか?」


 ロシア料理というとそのくらいしか思いつかない。トウコは鼻で笑った。


「笑止千万。テーマは理想の朝食ですよね。兄上様は朝一でピロシキ食べたいですか?」


 コンロにかけた鍋から、味噌汁のいい匂いが漂ってくる。


「これは、和食か?」

「はい、トウコは父上様から料理の手ほどきを受けています。くのいちは男性を陥落するのが仕事。その基本は料理ですから」


 ものの十分ほどで、トウコの料理が完成した。

 ごはんに味噌汁。それから焼き鮭、出し巻き玉子。

 みるからに理想的な朝ごはんだ。


「兄上様がお好きだという葱たっぷりのお味噌汁と、玉子焼きは甘くないものです。一番苦労したポイントは、短時間でご飯を炊き上げるために火遁の術を使ったことですね」

「なんで、オレの好みを?」

「血秋様に聞きました。実を言うと今朝も兄上様の朝ごはんを作っていたんです。でもいつもより早く登校しちゃうんですもの……こんな対決なんて茶番だと思うけど、兄上様に食べてもらえる機会ができてよかった」


 そう言うと、うつむいて頬を染める。


「か、可憐だぁ」「健気だなぁ」


 そのあまりの可愛さにクラス中がどよめいた。

 いくら結婚する気がないとはいえ、銀髪碧眼の美少女にここまで言われたら悪い気はしない。


「じゃあ、いただきます」


 とりあえず味噌汁から箸を付けてみた。


「う、うまいっ!」


 だしのとり方といい、味噌の風味といい、文句のつけようがない完璧な出来栄えだ。うちに来てくれる料理方のおばさんに勝るとも劣らない超プロレベル。

 いつのまにか箸が次から次へと料理を口へ運んでいた。


「うまいよ。出し巻きも、鮭も、最高だ」


 あっという間に出された料理をすべて平らげてしまった。


「おいしかったぁ、ごちそうさま。そういえば、今日は朝ごはん抜きだったんだよねぇ」


 食べ終わったところで、殺気を感じて振りかえる。


(し、しまったっ!)


 そこには恨みがましい目でカヲルをみつめるサクラの姿があった。

 唇がゆっくり動いて無言でつぶやく。


《う・ら・ぎ・り・も・の》


 念唇法でもないのにビンビンと意味が伝わってくる。

 カヲルの額から冷汗が流れ落ちた。

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