第27話 山花の未来はどっちだ? てか、どっちでもいい

(よかった、サクラちゃんがアホの子で)


 カヲルはホッと胸を撫で下ろした。


「いや、でも、女の子同士ってだけじゃなくて姉妹なんだよ! それっていくらなんでもヒドくない?」

「禁じられた姉妹の恋。むしろ大・好・物デス」

「サクラちゃん、キミねぇ」


 呆れるカヲル。

 すると突然、サクラはキリリとした表情になった。


「でも、今の話の中で一つだけ納得いかないことがあるの」

「えっ?」

「親の決めた婚約者なんてダメよ。結婚っていうのは一番好き合っている女の子同士でするものでしょ」


 サクラの発言は一箇所だけ非常に間違っている。

 しかしその間違いを訂正する人間はその場にいなかった。


「それは問題ないです。兄上様はすぐにトウコのことを一番好きになりますから」

「残念でしたぁ! カヲルちゃんの一番はわたしでーす! もう旅行の約束だってしてるんでぇーす!」


 売り言葉に買い言葉というヤツだ。

 サクラとトウコの視線が空中で激しくぶつかり合った。

 カヲルをはじめ、クラスメイトたちは固唾を呑んで二人を見守っている。


「ええと、水無川さん、ベアトリーチェさん、そろそろ授業に入りたいんだけど」


 シビレを切らした先生が注意した。けれど、二人ともまったく聞く耳を持たない。


「だからカヲルちゃんはトウコさんとは結婚しません!」

「じゃあ、サクラさんがこの世からいなくなればいいんですか?」

「おいおい、トウコ物騒だぞ。サクラちゃんも落ち着いて」

「カヲルちゃん! なんでこの子が呼び捨てで、わたしがサクラちゃんなの? わたしも呼び捨てがいい!」


 ヒートアップしたサクラが今度はカヲルに詰め寄る。

 

「もう、いい加減にしなさい!」


 とうとう先生がキレて叱りつけた。その時だった。


「まあまあまあまあまあ、みなさん、ここは自分に任せてください!」


 混乱する教室の収拾に動いたのは、この男だ。


「渕上君……あなた、どうしてそんな格好してるの?」


 山花中学生徒会長の渕上義信ヨシノブだ。

 しかし今は、朝の続きでセーラー服に三つ編みのヅラを被ったシノブちゃんスタイルになっている。

 ヨシノブは、戸惑う先生に向かってチッチッチッと指を振った。


「この姿については、睡蓮寺流くのいち忍法のトップシークレットですのでお答えできません。それより先生、いまこの教室でおこっているのは睡蓮寺流くのいち忍法次期首領の嫁選び、つまり山花村の未来を大きく左右する一大事なんです。この中学に赴任なさったからには、先生もそのあたりをご理解いただかねば困りますよ」


 中学二年生男子とはいえ村の有力者に苦言を呈されて、都会出身の女教師はしゅんと縮こまる。


「は、はぁ、申し訳ありません」

「それではこれより、一時間目の授業時間を使って、第一回『チキチキ睡蓮寺夏折の嫁の座争奪、水無川櫻対冬湖・ベアトリーチェ・睡蓮寺45分一本勝負』を開催いたします!」


 教室の中央で、サクラとトウコがにらみ合った。

 授業が潰れるとあって、クラスメイトたちは無責任にヤンヤの喝采を浴びせかける。

 カヲルは、あわててヨシノブの耳を引っ張った。


「おい、何バカなことおっぱじめてるんだ!」

「いいじゃないか。可愛い女の子二人が自分のために争うなんて、男冥利に尽きるだろ」


 男冥利に尽きるといわれても、サクラは完全にカヲルを女子だと思っているのでまったく実感が湧かない。


「一本勝負って何するんだ? サクラちゃんは身体弱いんだから無理させんなよ」

「わかってるって」


 ヨシノブはカヲルにウィンクすると、二人の女子に言い放った。


「嫁に必要な資質は、なんと言っても料理です。これから二人には家庭科室で理想の朝食を作ってもらいます。それをカヲル姫が試食して、おいしかった方を勝者、つまりカヲル姫の未来のお嫁さんに認定します!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る