第10話 ジョージ・スチュアート三世、初登場!

 筋肉質の巨体がドスンという大きな音を立てて床に倒れこんだ。


(さぁ、どう出てくるかな?)


 これだけの音がすれば、下の階にいる他の犯人たちにも聞こえたはずだ。


「おいロッキー、何の音だ!? いったいどうしたんだ!」

「異常があったら連絡しろって言ってあるだろ!」


 犯人たちが口々に喚きながら階段を上ってきた。

 その数は三人。

 年齢は二十歳前後だろうか。

 ストリートファッションに身を包んだ男たちはギラギラした表情で、グレネードランチャーやバズーカ、スナイパーライフルといった明らかに対人用でない大型銃器を抱えている。

 まるで、やっと買ってもらったオモチャを試したくてしかたない子供のようだった。

 その表情から、危機感や警戒心というものは一切感じられない。


(ホントに素人なんだな。そんな武器、持ち歩いてどうするんだよ)


「蟻歩」で階段の天井に貼りついていたカヲルは半ば呆れながら、結んでいた長い黒髪をほどいた。

 それから頭頂のチャクラに蓄えた陽気を燃焼する。


「睡蓮寺流くのいち忍法天の巻『乱れ柳』!」


 みるみるうちに髪が伸び、蛇のようにうねって階段を上ってくる男たちの頭上に垂れ下がった。


「な、なんだこりゃ」

「お、おい、動けねえぞ!」

「助けてくれぇ!」


 髪の毛はまるで意思を持つかのように男たちに絡みつき、あっという間に男たちの体の自由を奪う。


「はい、終了」


 そう言いながら髪の毛を通して大量の陽気を注入した。

 ビクンと痙攣して犯人たちは動かなくなる。

 ――残るは二人。


 階段を飛び降り、本命の240フロアに降り立った。

 ここには犯人だけでなく人質もいる。できれば人質を盾にされる前に決着をつけてしまいたかった。


(このまま一気に行くぞ!)


 カヲルは階段近くにいる迷彩服の男に駆け寄った。

 男の手には自動小銃が握られている。しかし奥義「燕舞」により五倍になったカヲルのスピードにはまったくついてこれなかった。

 手裏剣一閃。

 六芒星を模した鉄の刃が迷彩服男の右手に突き刺さる。痛みに銃を取り落とした男の顔面に飛び膝蹴りをお見舞いし、そのまま首に陽気を打ち込んだ。

 ウギャっという短い悲鳴とともに、迷彩服男は床に倒れる。


(あと一人!)


 そのままフロアの北側に向かった。

 そこには案の定、拘束された人質たちが集められていた。作戦通り、梵化香を吸って全員が眠りについているようだ。


 立っているのは、特攻服姿の男が一人だけ。


「おめえよぉ、いってぇ何モンだ!」


 男は、ヤンキー漫画のヤラレ役そのままに声を荒げて凄んでみせた。

 年齢は20代前半だろうか。

 昭和の暴走族のような衣装に身を包み、髪をリーゼントに固めている。今までで一番濃いキャラクターだった。


「俺の名前は、ジョージ・スチュアート三世ってんだ」

「……ジョージって、あんたどう見ても日本人だろ」

「まあ、細かいことは気にするな。俺はいずれ世界を統べる男だからな」

(こいつがギャング団のボス? これも一種の厨二病ってヤツか?)


 カヲルは呆れ返るあまり、言葉を失っていた。

 さっきまでの連中もそうだが、とてもスカイツリーを占拠して十億円を要求するテロリストとは思えない。

 どう考えてもセンター街にたむろす不良グループレベル。

 しかも「皆に怖がられる札付き集団」ではなく「ちょっと風変わりな愉快な仲間たち」ってところだ。

 松濤HDCのボスは、侵入者が小柄な少女だと知るとニヤケ顔になった。


「ほう、なかなかいい足してるじゃねぇか。おとなしくこっちへ来りゃ乱暴なことはしねえ。それどころか松濤HDCに入れてやってもいいぞ」

(ここにもいたよ。中学生男子の太股に惑わされる変態が)


 あの銀髪碧眼の姉妹が捕らえられなくて本当に良かった、とカヲルは胸を撫で下ろした。男の自分にすら色目を使うこの男なら、あの美少女たちにはさぞ酷いことをしただろう。

 想像しただけで胸糞悪くなった。

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