日付と日々も記されなくもなったページ
もうすでに夏も終わりになっている。季節の目印などはどこにもないけれど。
最近、ずっと光がない場所を歩き、過ごしていた。だから、書けなかった。
ただアンジーのことを詳しく書いておきたい。
十一日の雨が上がった時から旧コンビニエンスストアから這い出て、とにかく歩こうとした。
建物の中に長く居ると、生体反応に感知され、憲兵隊の中でも無慈悲な取り締まり部隊がやってくるからだ。地下、なんてものはないから行き当たりばったりの移動。
きちんとした休息がほしい。
ずいぶん昔から、私が生まれる前あたりから、かの部隊に言いがかりをつけられての死人が出ようが誰も咎めないし、見つかった方が悪いとされる。
治安維持を務めているはずの者たちが一番の害悪だとするのは、確か、「歴史は繰り返す」という言葉そのものだ。
アンジーも取り締まり部隊出身だ。だから、取り締まり部隊は憲兵隊という括りの中にあっても実状は違うということも、なぜそのようなことになったのかも少しだけなら知っている。
大昔に存在した軍隊組織の傭兵のような存在で、規定や報告無しの人間に対して無慈悲な行動に出る。
ネームレス──姓を持たない中流階級だろうが、アジア圏出身だろうが、誰でも入隊可能だ。
ただ、中流階級以上のネームレスが入隊希望を出しても通常の階段ではなく、中隊長クラスから始まる。それは取り締まり部隊を除いた憲兵隊のコースになる。
アンジーはよく愚痴をこぼしていた。
ただただ、ぶらぶらしており、サインが必要な時につかまえるのがめんどくさい、と。
「見返してやる。ただの遊びで入ってきたやつらを」
いつしか愚痴ではなく、明確な感情に支配されていった。
そうして出世のはしごに足をのせ、時には自らはい上っていった。
ガーデンパーティーの時には知らなかったけれど、汚い手も使っていたようだった。
点と線だけで繋ぐのが、壊滅的に上手い。点と点ではなく、繋がった点と点の近くはもとより、遠く離れた点ですら線を引かすことが上手い。
先に昇進したアンジーの友人とも言える者を、彼女は汚点を上に報告したことがあった。私にはどうしても腑に落ちなくて、彼女に訊ねた。
「どうがんばっても、無関係じゃないか」
「それがどうしたの」
「どうしたのって……ジョセフは、アンジーの、友人」
「そんな時もあった。それだけ」
そんな会話が脳内を駆け回る。
もっと彼女を観察しておくべきだった。
私はパートナーが変化していくのを見逃すどころか、見てもいなかった。
近くが騒がしくなった。
しばらく泥まみれでいる。
少しだけ休もうと思う。
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