四月十一日
外はあめだからだろうか、懐かしい夢を見ていた。
まだ世界の有り様が秩序という屋根と壁、窓に仕切りが存在していた頃の日々だ。
そこでリンディに出会った。アンジーと喧嘩もした。
リンディはかなり本を持っていた。
移し録りもせずに、自ら読む。
読書は、本当はそういうものだ。
紙に書いた体裁から印刷に移り変わり、それを読み上げる録音書籍へ、さらに紙から電子書籍という存在に。
2010年代から電子書籍が発達していったのだったか? イヤフォンを粉々にされてから記憶が曖昧になっている。ただ、2030年代の大戦後、人々はあらゆるものへの執着意識を変えた。
イヤフォンという存在もそうだし、文字を持とうということも放棄したに近しい。文字を持つから争いがある。そんな考えに行き着いたのだと国家政府に属する者たちは喧伝し出した。頷く声が次第に多くなっていくと、後は進むだけだ。
サンプルで主任教官だった仙人というあだ名の男性がそう話す声が甦る。
「世界には四季という概念も存在したんだよ。だからこそ、何かを書き付けて、違う相手の考えを知りたくなり、届かない世界や毎日を夢見ようとした。違う国の人間が書き記した物語を読んで、ならば自分も、と書いてみたりもした。他国の情報を知ろうとした。他国との違いを発信したいと思った」
「だから、戦争になったんですか?」
字を忘れたけれど、サエが仙人教官に質問をした。
「あながち間違いではないが、似て異なるね」
「じゃあ、どうしてでしょうか?」
サエはどうしても気になるようだった。私はハラハラしていた。サンプルは歴史、情報、文字、言語を学ぶことが許可されているが、自らが掘り下げていく自由はない。
地区分けされた中で、まさしくサンプル飼育されているからだ。
「それを探している途中なんだ。どうしてだと思う? 自らの考えを持ってみなさい」
私は唖然とした。皆も同様の反応だった。仙人教官は好好爺の顔をして、一人一人の瞳を見つめていった。サエに対しては長いこと見つめていたようにも思う。私はどうしていいかわからずに、支給されたペンを紙につけて走らせた。
雨が上がったようだ。飲料になるかわからないが、先に進もう。
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