「レベル31」

「レベルが上がりました。LV31になりました。『香坂潤コウサカジュン』と子供を作る事が出来るようになりました」


 小型水晶から、無機質な声がした。


 私達は視線をアメリアの小型水晶から、香坂潤に移動させた。香坂潤もショックを受けているようで、大きく目を見開いていた。


「レベル31……やって?」

「潤くん、落ち着いて。レベル30が最大値マックスだと思ってたのは、私達の思い込みなんだし」

「でも遥さん!子供ですよ?」

「そうね……」

「つまり今までは子供が作れなかった……ってことか。いや、それよりレベル31があるなら、その先もあるかも知れない。」

「確かにそうね」

「ひょっとしたら、アメリアがアルトリアに帰れるかも知れないってことやないですか?」

「個人的には、それはないかと思う。レベル30の時のスキルが『永遠に、どちらかの世界への移動』だったんでしょ?」

「そんなん分からないじゃないですか!」

 香坂潤は興奮しているようだった。自分の愛する人の願いが叶うかも知れないのだ。


「取り合えず、落ち着いて考えましょう。先ず優先するべきなのは、ティーファ・オルゼよ」

 私は香坂潤をなだめて、スマートフォンを取り出した。


「兎に角、ハロルドからの連絡があるまでに聞きたい事をまとめておきましょう。彼、今、軍事演習中だから、時間はそんなにないと思うの。夜に宿舎を抜け出すって言ってたけど、時間に限りがあると思う」

「美咲。ちなみにどの位の時間か予想出来るか?」

「ううん。予想は出来ない。でも短くても、15分くらいは話せると思う。」

 悟さんは、腕を組んで目を閉じた。考えを巡らせる時の、悟さんの癖だ。


「OK。じゃあ、取り合えず、何をハロルドに聞くかを考えよう」

「そうね……」

 私は鞄の中から手帳を取り出して、皆の意見をまとめる事にした。

 春日部遥が、勢い良く手を挙げた。


「ティーファ・オルゼが、どうやって一日でレベル3になったのか……あと、魔力回路?の解析に成功した、という話の詳細が知りたいですね」

「そうね」

 私は春日部遥の言った事を、そのまま手帳に書いた。


「恐らく、こっちの世界に来る理由は話さないだろうけど、どの位の期間で来る予定なのか……ってのも知りたいな。美咲は、どう思う?」

 続いて、悟さんが発言した。うんうん、とうなずいて、さっきと同じ様に手帳に書きだす。


 皆が色々な意見を話始めて、段々と白熱してきた。


 夕方になっても、作戦会議は終わらなかった。小休止を取りましょうよ、と提案すると、皆が賛成してくれて、一旦会議を止めた。


「皆さん、何か飲みはりますか?コーヒーと紅茶と……あとはオレンジジュースがありますね」

 悟さんはいつもの様に紅茶を頼んだ。私はブラックコーヒー。春日部遥はオレンジジュース。見事に全員が分かれた。


「じゃあ、準備してきますわ」

「ジュン、私がやりマス」

「いや、アメリアは座っとき。疲れたやろ?」

 香坂潤が立ち上がって、キッチンへと移動していった。


「そうイエバ、皆さん、夕飯はどうしマスカ?」

「う~ん。ハロルドからの連絡の後の方が良いわね。もしも夕飯食べてる時と被ったら、駄目だし」

 アメリアは、ワカリマシタとうなずいて、胸元にある小型水晶を手に取った。


「レベル31……。子供が出来るんデスネ」

 アメリアは感慨深く言った。皆がアメリアの方を見る。


「嬉しい?」

「そうデスネ。愛する人との子供……嬉しいデス」

 アメリアはチラリ……と、香坂潤が、まだリビングに戻ってこないのを確認してから、言った。


「デモ、もしもコチラの世界で子供を産む事にナッタラ……」

「不安なのね」

「いえ……もしも、こちらで産むことにナッタラ、私は潤と共にコッチの世界で生きマス」

 アメリアは覚悟を決めたようだ。


「でも、アルトリアに戻りたいんじゃなかったの?」

「ソレは今も変わりマセン。でも、子供が出来たら、私はアルトリアより、日本ニホンで育てたいデス」

「どうして?」

「アルトリアは……やはり軍事国家デスカラ……」

「そう……」

 アメリアが少し切なそうに目をせた。


「皆さん、できましたよ」

 お盆にコップを乗せて、香坂潤が部屋に戻ってきた。皆がさっきまでアメリアがしていた話を聞いていなかったかのように振舞った。


 コーヒーを一口飲んだところで、私のスマートフォンが震えた。


 ハロルドからの着信だった。

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