「紹介」

「ハロルドからよ」

 その一言に部屋の中に緊張感が走ったのが分かった。皆が私の方を見てうなずく。私はスマートフォンのボタンを押した。画面にハロルドの姿が映る。


「美咲。今は大丈夫か?」

「ええ。待ってたわ。ハロルド。実はアメリアとアメリアのパートナー、香坂潤くん、そして私の部下の春日部遥と、私の昔の知り合いの加藤悟さんも来ているの」

「加藤悟?って人だけ知らないな」

「彼はティーファ・オルゼとマッチングしてるのよ」

「なんだって!?」

「これって偶然なのかしら?悟さんとは昔からの知り合いだったし、今日、偶々たまたま、大阪で出会ったのも、偶然って言葉で片付けるには余りも奇妙過ぎるわ」

「確かに……」

「兎に角、お互いに情報を共有しましょう」

「ああ……」

 ハロルドは弱々しく頷いた。情報が多すぎて混乱している様子だ。私は画面共有のボタンを押して、皆の顔がハロルドに見えるようにした。


ずはティーファ・オルゼのレベルが一日で3になったって話なんだけど……」

「そうなんだ。俺も今朝、思念通話……ええと、思念通話ってのは、術式の一種で遠くにいる相手に、お互いにメッセージを飛ばしあったり話せたりする術式だ。そっちの世界でいうとスマートフォン?だっけ。まあ、そんな術式があるんだけど、その術式でメッセージが飛んできて、レベル3になった事と、術式の解析を始めた事を俺に伝えてきたんだ」

「そうなのね。どうやってレベル3になったかは聞いてる?」

「なんでも術式を解析して、少しだけだが術式の仕様を変える事が出来る様になったらしい。普通、この術式は一度に一人としか出会えない。だが、ティーファは一度に出会える人数を増やす事に成功したようだ。何人と出会えるようにしたかは不明だけど、レベルアップのスピードは俺達の何倍も早くなっていると思う」

 アメリアが、遠慮気味に手を挙げた。


「ハロルドさん。ティーファ先生の目的にツイテは何か聞いてイマスカ?」

「いいえ。でも想像にはかたくないですね。恐らくティーファは、そちらの世界の兵器の技術が欲しいのでしょう」

「私もそう思いマス」

「なんとしてでも阻止しないと……アルトリアはようやく平和を取り戻したところなんです。彼女の出世欲の為に、この平和を失うなんて許されない」

 アメリアはハロルドの意見に強く賛同したようで、首を大きく縦に振った。


「ハロルドはティーファ・オルゼが今、何処に居るのか知ってるの?」

「多分、オルゼ家にある研究棟だと思う。なんでだ?」

「その……言いずらいんだけど……」

「殺せ?と?」

「違うわ。けれど何かの手段を使って、止める事が出来るんじゃないかと思ったのよ」

「かなり難しいと思う。錬金術師は秘匿の存在とされてるんだ。オルゼ家の研究棟が何処にあるのか、俺は知らない」

「アメリアは知ってる?」

 アメリアの方を見ると、アメリアは申し訳なさそうに首を横に振った。


「研究棟には一部の錬金術師しか出入りを許されてイマセン。私は学生の身でしたし、オルゼ家の中での身分も低い方デシタ。ティーファ先生を含めテモ、十数人しか、その存在を知らないと思いマス」

「そうなのね……じゃあ、物理的にティーファ・オルゼを止める事は出来そうにないわね」

「スイマセン……」

「謝らないで、アメリア。他の手段を考えましょう」

 一瞬、会話が途切れて沈黙が訪れた。


 すると、画面に映っているハロルドの胸元にぶら下げてある小型水晶が光った。


「ティーファからだ……」

「なんて?」

「ちょっと待ってくれ。直ぐにメッセージを読む」

「えーと……『レベルが4になりましたが、何故かスキルを与えられませんでした。解析と改造のどこかにミスがあったのかも知れません。羽生美咲さんに、レベル4のスキルは何だったか聞いて頂けますか?』だそうだ」

「私達、まだレベル3よ」

「そうだな。分かりません、と伝えるか。それとも、ここで何か誤った情報を伝えて、混乱させるか?」

「難しいわね。変に情報を開示する事はないと思う。そもそも私達のレベルアップの経路パス自体が、春日部さんや、潤くんとも違うのよ」

「確かにそうだな」

 ハロルドは首をかしげた。


「そもそもレベル12で手に入るはずだったスキルが、レベル3で手に入ってのも変な話だし……俺達の術式の次のレベルでは何が出来る様になるかも分からない状態だ。慎重に事を進めた方が良さそうだな」

「そうね……」

 ハロルドの小型水晶が、再び光った。同時に私のスマートフォンから無機質な声がした。


「レベル4になりました。誰かにこのアプリを紹介出来るようになりました。アプリを紹介すると、あなたのレベルアップの速度が『早くなります』。以下のURLを紹介したい人に送ってください」


 スマートフォンから聞こえた内容に、春日部遥が驚いて声を上げた。


「早くなる!?早くなるですって?」

「落ち着いて、春日部さん」

「だって、課長。私や潤くんの時は『遅くなる』でしたよ?」

「好都合じゃない!URLを送るわね」

「ありがとうございます、課長……」

 春日部遥は、目に涙を浮かべた。


「ハロルドの所にも同じ内容が届いてるの?」

「ああ……誰かに紹介すれば、レベルアップが早くなるなら紹介した方がいいな。春日部さん?」

 ハロルドは微笑んで、春日部遥の方に視線をやって続けた。


「なんとしても、カイル王子の元へ届けますね」

 春日部遥は泣きながら笑った。
















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