「カイル・アルトリア」



「カイルは魔法が使えるんですよ」

 春日部遥は、少し酔い始めて、会話のスピードが、落ちてきていた。私は店員を呼んで、お冷を注文した。良く考えれば、私のペースに合わせて飲んでいたのだ。そりゃあ、酔っ払うよね。


「あちらの世界でも、魔法を使える人は、ごくわずかだと聞いてるわ」

「そうなんですよ。魔法の才能は、純粋にDNAで決まっているらしくて、しかも潜性せんせい遺伝らしいんです。たまに突然変異だったり、先祖返りだったりで、魔法の才能を持つ人が生まれる事はあるらしいんですけど。基本的には、魔法を使える人同士の子供でないと、100%遺伝はしないみたいですね」


 そうなのか。ハロルドは魔法を使えないと言っていたが、妹は使えると言っていた。恐らく両親のどちらかは魔法を使えて、どちらかは魔法を使えないのだろう。


「カイルの魔力は凄くて、よく2人で雲の上を散歩したり、季節外れですけど、桜を咲かせて、夜中に花見をしたりしました」

「ロマンチックね!」

「カイルって、そういう気障きざな事を、平気でしてくる人なんです」

「そこに惚れたの?」

「ですね」


 春日部遥は酒の所為せいもあって、自分の気持ちに素直になっている様だった。


「ところで、私がレベル5になったら、どうやって貴方を紹介すればいいのかしら?」

「URLが出てくるので、それを私に送ってくれれば、大丈夫です」

 言いながら、春日部遥は泣き出した。


「課長〜、本当にありがとうございますぅ〜」

 春日部遥は泣き上戸だった。ちょっと面倒臭い。


「そろそろ22時ね。ハロルドに送る文章を考えていたんだけど、こんな感じで良いと思う?」

「見せてください」

 私は、スマホのメモ機能に書き込んだ文章を、春日部遥に見せた。


『ハロルド、連絡が遅くなってごめんなさい。実はスマホ……貴方達の世界で言うところの『小型水晶』を壊してしまって、連絡が取れなかったの。心配掛けてしまったわね。良かったら、この後、通話しませんか?』


「課長、なんか固くないですか?後、文章が短すぎます」

「え?ええ?そうかしら?」

「もう恋人みたいなもんなんですから、もっとフランクで良いと思いますよ。これじゃ、会社の上司と部下のメールですよ。それに文章が短くて、本当に自分の事を想ってくれているのか、心配になっちゃいます」

「でも、ハロルドの文章の量も、こんな物よ?」

「合わせてくれてるに決まってますよ!課長、恋愛となると、新入社員みたいになりますね」

「こ、こう見えても、人並みには恋愛経験はあるわよ」

「え〜?じゃあ、今まで付き合った男性は何人ですか?」

「なんでそんな事言わなきゃいけないのよ!春日部さん、酔ってるでしょ?」

 私は内心、ハラハラして、春日部遥にお冷を押し付けた。ちなみに、付き合った人数は、さとるさんを含めて、2人だ。


「取り敢えず、お水飲んで、落ち着いて」

「はーい。そろそろ時間ですね」

 腕時計を見た。もう、22時になる。私は『イチゴイチエ』を起動した。警告音が鳴り、スマホの画面に文章が表示された。


『データ復元まで、残り1:20』


 後、1分。後、1分で、ハロルドと連絡が取れる。嬉しくなって、私は笑顔で春日部遥に、その事を伝えた。良かったですね、と春日部遥が応えた。




 時間になった。直ぐにハロルドにメッセージを送る。すると、ものの数秒でメッセージが帰ってきた。


「心配しました」


 急いでメッセージを返したからだろう。短文だが、私の事を強く想ってくれているのだ、と感じた。


 その後、お互いの近況報告をした。私は、春日部遥や香坂潤の事、いつか2人で会える様になる事を伝えた。ハロルドからは、ティーファと言う、錬金術の協力を得る事が出来たとあった。その代わり、そちらの革新的な技術を教えて欲しいとの事だった。


「ねえ、春日部さん。カイルの事、探しておいて貰う?もしも春日部さんが、アプリ復帰しても、カイルが復帰しなきゃ、出会えないじゃない?」

「お願いできますか?」

「勿論よ」


 私は、ハロルドに事の顛末てんまつをメールして、『カイル』と言う男性を探して欲しいと伝えた。すると、ハロルドから、「今、通話しませんか?」とメッセージが届いた。


「春日部さん、少しハロルドと話しても良いかしら?」

「遠慮なさらないで下さい」

「ありがとう」

 私は、ハロルドに、是非、通話しましょうとメッセージを送った。数秒で着信音が鳴る。


「もしもし、ハロルド。お元気ですか?」

「美咲さん。私は、とても寂しかったです。美咲さんと連絡が取れないのは、凄くキツい」

「ごめんね、ハロルド。でも、これは事故だったのよ」

「分かってます。でも、少しだけ文句を言わせてください。不安でした。おかげで睡眠不足です」


 可愛い。


「ところで、春日部遥さんのパートナーの『カイル』と言う男性についてなんですが……」

「ええ……」

「『カイル』と言う名前の男性は、とある理由で、とても多いんですよ。何かしらの特徴とか、写真とかありませんか?」

「写真があるわ!」

 私は、春日部遥にカイルの写真を送る様に言った。直ぐに私のスマホに、カイルの画像が届く。それを、そのままハロルドに送った。


「この人が春日部遥の想い人、カイルよ」

 すると、ハロルドは押し黙ってしまった。


「ハロルド?何かあったの?」

「美咲さん、私は、この人を知っています」

「え?本当に?ハロルド、カイルの知り合いなの?」

「知り合いと言うか、何と言うか……私の世代に『カイル』と言う名の男性が多い理由の1つなんですが……」

 少し、困った様に、ハロルドは言った。


「彼の名は、カイル・アルトリア。正真正銘、軍事国家アルトリアの第1王位継承権を持つお方です。簡単に言えば、王子様ですよ」


 ハロルドの言葉に、私は凍りついた。

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